第22話 デーモン・ブレイカー
★迷宮地下第七層 魔に堕ちた黄金回廊★
巨大な空間だった。高い天井には、巨大なシャンデリアの残骸。装飾をほどこされた太い柱が、延々とならぶ。
壁には、戦士たちの戦いを描いたレリーフ。所どころに見える、扉や螺旋階段。磨き上げられた、大理石の床。
そして回廊ぜんたいが、黄昏に似た淡い光に包まれている。そんな、荘厳な空間で――
「まわりこめ――! まわりこめ――!」
「氷矢!」「氷矢!」「氷嵐!」
「デーモンが凍ったぞ! 蛮族戦士オーレ=パールドンいきます! うおおおおっ!」
「で、出た――! サキュバスだ――! 男は目を閉じて、後ろに下がれ――!」
「弓兵、前へ――! ううっ、人生で最初にモミモミされたのが、あんなヤツなんて……ほろびろ、デーモン!」
冒険者たちとデーモン軍団との、激戦が繰り広げられていた。
――デーモン。この世界を侵略するために送りこまれる、魔族の尖兵。ごくまれに友好的な個体もいるらしいのだが、ほとんどは理不尽な破壊行為にいそしむ、危険なヤツらだ。
生半可な武器ならはじいてしまう強靭な外皮に、生来持ちあわせている魔術耐性。
最下級のレッサーデーモンでも、熟練の冒険者が数人がかりで倒すのがふつうだ。上位種のヴァンパイアやデスナイト、バフォメットには、複数のパーティがチームを組んで挑む。
群れをなして四方八方から襲いかかってくる、その魔族の軍勢を――100人の冒険者たちは、押しに押しまくっていた。とうぜん、俺の超絶バフのおかげである。
B7Fにおりた瞬間、濃厚な魔の気配を感じた俺は、すぐ連隊全員にバフを配布。
物理防壁・魔法防壁・属性エンチャ・ステUPの4点セットが行きわたるやいなや――悪魔たちの攻撃が、始まった。
最初はビビり散らかしていた冒険者たちだったが、俺の激励に応えて、迎撃をスタート。
斬れば聖剣、撃てば魔弓、呪文を放てば大賢者。“人類最強の100人”が逆襲に転じるのに、それほど時間はかからなかった。
「つぎ、2時の方向から、レッサーデーモン6! 槍ぶすま薄いぞ、急げ!」
「目標、デスナイト! 鎧のすき間を狙って、車がかりで仕掛けるわよ!」
「回復は、こっちや! クレリックの皆さんは、結界を維持! 落ち着いたらモンク隊も、前線に向かうで――!」
ゼラたち三人も、冒険者のまとめ役になって、頑張ってくれている。
(むうっ……デビルとかデーモンとか言われると、ちと思うところがあるのぅ……こやつらの魔界とわしらの世界は、まったく関係ないから、そこんとこよろしくじゃ)
アモンの愚痴を聞き流しながら、飛行魔法で天井ちかくを旋回。空中にいるデーモンから、優先して仕留めていると……
ぎゅむっ! ばりばりばりぃ! 俺のすこし前の空間に、たくさんの光の輪が出現! その中からぎょろりと覗くのは、巨大な赤い目! みるみるうちに輪が広がり、両腕と頭がぬっと突き出て――
「――かあっ、聖光斬!」
ずばん! 手持ちのショートソードに魔力をまとわせ、光波の斬撃を飛ばす。この世界に現れようとしていた、一体のアークデーモンの首が両断され、ずしゃりと地面に落ちた。
どしん! どしん! どしん! そうしている間にも、次々と悪魔が床に着地。光の輪――魔界とのゲート――から噴きだす瘴気が、あたりを黒く染めあげる。
数秒後、冒険者たちの行く手には、10体ものアークデーモンが立ちはだかっていた。
「ひえぇ、大魔族が、あんなに……! やっぱり深層は、人間が来ちゃダメな場所だったのか……!」
どよめく冒険者たち。ほんらい、アークデーモンのような最上位魔族は、めったに現れることがない。魔界の瘴気がないこの世界で存在を保つのに、莫大なコストが必要だからだと言われている。
ダンジョンという特殊な環境が可能にした、アークデーモンの複数同時顕現。ひとつの国を滅ぼして余りある、巨大戦力。そいつらが――
「――神罰聖裁陣!」
ぴかっ! ずぎゃぎゃぎゃぎゃん! 空中に描かれた大魔法陣から伸びる、いくつものまばゆい柱。俺の光属性最上位術に貫かれ、またたく間に消滅した。
「クカカカカ……! 魔族、おそるるに足らず! さあ、遅れるヤツは、容赦なく見捨てていくぞ――!」
「う……うおおおおっ、ヨハンさん、デーモンより怖えぇ――! 俺たちも、続くぞぉーっ!」
士気を取りもどし、進軍を再開する冒険者たち。瘴気の海に突っこもうとした、先頭のひとりが――
「ぐへぁっ!」
吹っとばされて、壁に叩きつけられた! すぐさま、ネロディが救護に向かう。徐々に瘴気が晴れていった、そこには……
「グヮラグヮラ 、グヮラ――ッ! あの程度の魔術、痛くもかゆくもないわァ――! ここは500年前にも、貴様ら人類のせいで大打撃を受けた、われら魔族の侵攻拠点。それをまたもや、メチャクチャにしよってからに……! 簡単には殺さ、ぷひょっ!!」
闇のなかから現れし、全身からトゲ状の鱗を生やした、マッチョなガタイの上級魔族。どうやら、アークデーモンよりもさらに格上の個体のようだ。
なんかめんどくさい攻撃をしてきそうなので、口上のあいだに、ジャッジメントレイの魔法陣を再起動。光柱の火線を、集中させて仕留めておく。
「ほう……ズヴィバルロンギがやられたか。ヤツは八魔王のうち最弱、妾たち魔族の面汚しよ……。では、このドジュヘンクォラがお相手しようかの。魔界の6つの領域を統べる、サキュバスクイーンの子宮のなかで、溶かして喰ろうて……ギギャアアアア――!!」
続いてとなりに立っている、コウモリ翼を生やした青肌の爆美女を、聖炎滅魔弾で焼却。
残念ながら、スケベな本のような展開に、させるわけにはいかない。男性の冒険者たちから落胆の声があがり……俺のステータスがまた、ちょびっとだけUPした。
「むむっ……魔王たちを苦もなく屠るとは、侮れんヤツよ……! 大魔王さまの右腕、ヴルトゥーシュブ推して参る……最大火力で、引導を渡してやるとしよう! 血炎灼王・無間煉獄界! 破ァ――ッ!」
ぼかぁん! ふわふわと浮かんでいる、老人ふうの魔族。裂帛の気合いとともに放たれたそいつの大魔術が、すぐさま反転し爆裂!
前のふたりがペラペラしゃべっている間に、ジジイ魔族の周囲を、魔術反射の防壁で囲っておいたのだ。黒コゲになって落下しながら、塵に還っていくそいつを見て――
「……クッ、人間よ、覚えているがよい。われらはいつでも虎視眈々と、貴様らの世界を狙っているということを……!」
最後のひとり、ドクロの仮面で顔をおおった、武人っぽい姿の悪魔。そいつが捨てぜりふを吐いて飛びたち――いっかい、天井にぶつかって――ゲートから魔界に戻っていった……
(ぷ、ぷぷぷ……この世界の魔神たちも、貴様にかかっては赤子同然じゃの。ただし、頑張りすぎてステータスが下がらんように……な)
アモンが嬉しそうに、周囲をぴゅんぴゅん飛びまわっている。俺は冒険者たちをエクスプロージョンで追いたて、進軍を再開。そのあとは目立った抵抗もなく、B8Fへの階段に到達した……
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