第21話 クロウラーズ・レギオン
「聞け、貴様ら――! 我が連隊はこれより、第4層のポータルから突入。そのまま中層を一気に突破し、深層を蹂躙する! 我々は、大勢ではあるが……俺以外は、すべて肉壁、弾よけにすぎぬ。せいぜい、ド派手に散るがよい、クハハハハ……!」
迷宮入り口のゲートの上に立ち、人だかりを見下ろしながら高笑いをキメる俺。その場の全員が、暗い顔をしてうつむいている。ただ、ゼラたち三人だけが、殺意にみちた瞳でこっちを睨んでいた。
(うおおっ……壮観じゃのう。まさか、強制的にパーティを組ませるアイテムとは……! 来る! 来るぞぉ――い!)
キュリリリリリリリリィン! ステータスが上がる。天文学的なINT(知力)に、無限のMP。そして、ついに――各属性の禁呪が、アンロックされた。
「よぉし、出撃! 準備ができた者から、4人ひと組になってポータルに入れ!」
俺の命令にしたがって、冒険者たちがトボトボと階段をおりていく。だが、一人だけ――
「ひいいいぃっ、やっぱ、嫌だぁ……っ! スキルがぜんぶ消えても、かまわねぇ! オイラっちは、ここで、ドロンさせてもらうぜぇ……っ!」
ローグ系の冒険者が、きびすを返して、脱兎のごとく走り出していく。俺は、彼に向かって――
ぱちん。指を鳴らすと、彼の全身が炎に包まれた。
「うぎゃあああああぁぁぁ――っ!! 熱い、あついいいぃ――っ!!」
火だるまになりながら、街のほうに走っていく。数人が、駆けよろうとするが――
「止まれ――! 助けたものは、同罪と見なして殺すぞ。言っておく……逃げたら殺す。攻略を諦めたら殺す。逆らったヤツは、最高に苦しめて殺す。さあ、あのようなカスは放っておいて、進撃あるのみだ――!」
「あ、ありえねぇ……この世には、神も仏もいねえのかよ……」
「ふつうに冒険して命を落とすなら、まだしも……こんな悪魔みたいなヤツに使われて、死ぬなんて……ううっ……」
死んだ魚のような目をした冒険者たちが、ふたたびダンジョンに列をなして入っていく。
(ほほう……うまくやったのう。あやつ、なかなかの演技派じゃわい。本当におぬしは、ヘイト稼ぎの天才よな)
アモンが横で、満足げにうなずいている。
そう、俺はさっきの彼――燃えた冒険者……と、見せかけて遊び人――に金をわたして、ひと芝居打ってくれるように頼んでいたのだ。
もちろん、彼の全身は火耐性防壁でがっちりガード。そのまま炎が消えるのを待って、どこか遠くに逃げてもらうという寸法だ。
これで残るは100人、ちょうど25パーティ。俺は全員がダンジョンに入るのを見届け、ゆっくりと、入り口のゲートをくぐった……
◇◆◇◆◇
迷宮B4F。死霊・アンデッドの軍団と、命を刈りとるトラップゾーンのフロア。その入り口のポータルがある部屋に、俺のことが大嫌いな、100人の冒険者がひしめいている。
「ククク……さあ、手元に配られたマップを、よく見るがいい! 第5層への階段にむけて、全力ダッシュだ! 最初に着いた者には、褒美を考えているぞ――!」
言うが早いか、下層につづく階段への最短ルート。そっちの方角に、土の魔力を流してトラップを探知。
踏んではいけない床のパネルを、魔力の燐光でマーキング! 落とし穴に吊り天井、炎を吐きだす彫像は、氷の魔力で凍結して封印!
すべてのトラップを無力化した、俺は――
「光っている場所は……罠だ! グズグズすると、殺す! はやく、行かんかぁ――っ!」
ぱちん! どがぁん! 指を鳴らして、爆炎で威嚇!
「ひいいいいぃ――っ!?」
恐れをなした冒険者たちが、我先にと走りだす。ネロが、「そんなん出来るなら最初からしーや」という顔で、こっちを見ていた。
「クハハハハ! 亡者の軍勢に注意しろよ! まァ、ゾンビのお仲間になってくれても、俺はいっこうに構わんがなぁ――!」
彼らの背に、暴言を浴びせかけながら、しばし待機。俺は、全員が見えなくなったのを、確認して――
光属性の最上位呪文を詠唱開始……完了! チートスキル“反信頼”の効果で、高速詠唱スキルもSランクに達しているようだ。
「――塵に還れ、冥徒浄葬陣!」
しゅぱあああぁっ! フロア全域に、まばゆい光が走り――
階層内の全モンスターが、浄化され消滅するのが分かった。
よし、これでいい。浮遊呪文を起動。最後尾から、彼らの様子を――パニックに陥って罠を踏む人がいないか――注意深くうかがいながら、進んでいった……
◇◆◇◆◇
迷宮B5F。ゴーレムさまよう、呪われた機械工場。その最初の部屋に、俺のことが大嫌いな100人の冒険者が以下略。
「え、えへへ……ヨハン様……あたし、一着だったんだけど……」
ひとりの女レンジャー――アーチャー系の上位職――が、おずおずと俺に近づいてきた。
「貴様、それがどうした」
「え、だって……さっき、ごほうびを考えてるって……」
俺は、彼女のことばが終わらないうちに――
「ををっ! 忘れていたぞ。これが……褒美だぁ――っ!」
言うが早いか、彼女のプリケツをわしづかみにしてモミモミ!
「えええっ……!? そんな、ひどいっ……!」
呆然とする女レンジャー。少しはなれたところから、エレシダが鬼の形相でこっちを見ている。ええい、こうなったら、とことん嫌われるまでだ!
「さあ、第6層への階段は……あっちだぞ! ククク……ゴーレム地獄のこのフロア、いったい何人が生き残れるかなァ……! では、進軍開始――!!」
さっきと同じように、パチンと指を鳴らして爆炎で威嚇。
冒険者たちが次の部屋に進んだのを確認すると、両手を天にかざし――
「狂え、雷導傀儡波――!!」
びしいっ! ばりりりりぃん!
俺の頭上からほとばしる、落雷の呪文。それに魅了の魔術を合成!
俺のオリジナル呪文、またもや炸裂! 鋼鉄の床をつたって走る微弱な雷が、入り口付近のゴーレムたちの、コアを侵して狂わせる!
「で、出た――! ゴーレムだ――! ん? 様子が、おかしいぞ……! なんで、俺たちを、守ってるんだ……!? ひえぇ、なんだこれ、逆に怖い――!」
次の部屋の方角から、聞こえてくる悲鳴。よしよし、うまくいったようだ。もちろん彼らに配った地図にも、できる限りマップを書き足してある。それでも迷子が出ないかどうか、注意しないとな。
俺はテンプテーションをときどきかけ直しながら、歩みを進めた……
◇◆◇◆◇
迷宮B6F。火山と吹雪の極限環境に、属性攻撃持ち魔獣たちのフロア。そのスタート地点に、俺のことが以下略。
このフロアの敵はバリエーションに富んでおり、全員を守りきるのはいささか骨が折れる。また、溶岩に落下する人が出ないとも、かぎらない。
……よし。これでいくか。うまくいったら、おなぐさみ……! 俺は自分の足もとに、無詠唱でエクスプロージョンを撃ちこんで、目くらましにすると――
「おおっと! まさかの火山活動だ! 全員伏せろ――!」
そう言いはなって、魔術の詠唱を開始!
「地脈震裂弾!」
ががががん! 地震と地割れが発生! 続いて――
「――地隧穿」
ぐぉごごごご! 地面に当てた両手から、土の魔力を放出! 岩盤と土壌が、みるみるうちに押しひろがり、再び固められていき――
ボス部屋ちかくに続く、長い長いトンネルが完成! 本来は、穴を掘って敵の広範囲攻撃から、逃れるための呪文。だが無尽蔵のMPと精密な魔力操作が、このはなれわざを可能にした!
「ああっと! ……深層の魔力のにおい、だと……!? こんなところに、ショートカットを見つけてしまったぞ! 普段の俺のおこないが、いいからに違いない! さあ、者ども突撃だ――!」
号令をくだす。とうぜん、顔を見あわせて躊躇う冒険者たち。そこに――
「……私が先頭を進もう。コイツの元パーティメンバーとして、責任を取らせてもらう。みんな、すまないな」
ゼラがトンネルに入り、歩きだす。ほかの冒険者たちも、おっかなびっくり後につづく。
――数十分後。俺たちはB6Fのボス部屋に、あっさり到着していた。
うらめしそうにこっちを睨む、古代巨人の頭部……おそらく、再生途中なのだろう。それを横目で見ながら進み、ポータルの奥に、B7Fへの階段を発見。
探索者連隊は、ただの一人も欠けることなく、ダンジョン深層への突入を果たした……
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