第20話 ぜったい遵守★強制パーティ許可証
翌朝。俺とパーティの3人は、ギルド支部長の屋敷をおとずれ、客間で歓迎を受けていた。
「おほほ……あなたたちのような若き力を、ずっと待っていたのです。エレシダさんの配信……途中からですが、私も見ておりました。ちょっと下着が映る場面もありましたけど……感動しましたよ」
支部長は、年のころ60代なかばほどの女性。若いころは武闘派としてブイブイ言わせていたらしい、のだが……いまは、白髪の上品なマダムといった雰囲気だ。
「は、はぁ……どうも、ありがとうございます……」
うつむいて、少し顔を赤らめるエレ。彼女たちは横ならびで、机をはさんで支部長の向かいに座っている。俺はその様子を、壁によりかかり腕組みをして眺めていた。
「ゼラトリスさんとネロディさんも、復帰組ですか。冒険者たちのダンジョン離れが、問題になっている昨今……死亡率を考えると、一概に悪いとは言えませんが……皆さんの活躍に勇気を貰うパーティが、必ずいるはずですよ」
「恐縮です。メンバーに、恵まれました。とくに、そこのヨハン……私が今まで見てきた中でも、間違いなく最強のウィザードです」
ゼラが、テーブルの紅茶を飲みながら言う。彼女の体調は、もう万全のようだ。いったい、どんな体をしているのやら……
「そうですね……ヨハンさん、あなた、どういう経歴の冒険者なのですか? あれほどの強さなら、私が名前を知らないはずは、ありませんのに……」
支部長が俺のほうを向いて尋ねる。
「フン、それに答えてやる義理はない。それより支部長さん……交渉の時間だ。俺たちの、深層へのアタックだが……明後日でお願いする。ほかのパーティの予定は、キャンセルだ」
「お……おい! 貴様、なにを勝手に決めている! すいません、コイツは、礼儀というものを知らなくて……!」
ゼラが血相を変えて叫んだ。ほかの二人も、口をあんぐりと開けて俺のほうを見ている。
「うふふ……どうやら、評判どおりの荒くれ者のようですね。でも、威勢がいいのは嫌いじゃありません。よろしい、ヨハンパーティは、2日後の挑戦といたします」
あくまで、鷹揚さを崩さない支部長。だが、俺のつぎの言葉を聞いて、その顔が歪んだ。
「ククク……では感謝ついでに、もう一つお願いだ。この俺に……“強制パーティ許可証”を発行してもらいたい。貴様の権限なら、できるはずだ」
「なっ……冗談は、ほどほどになさい。あれは、魔族の襲来や大魔獣の出現が起こった際に、考慮すべきシロモノ。平時に、おいそれと出すことはできませんよ」
――強制パーティ許可証。
国家を揺るがす大災害が、起こったとき。各地の支部長が強制的に、傘下の冒険者にパーティを組ませ、災厄に立ち向かわせるための非常特権。
いにしえの勇者が各地の精鋭をあつめ、ついには魔王を打ち破ったという伝説が由来だ。“強制”の名の通り、拒否権はない。とうぜん、ここ数十年は一回も発行されたことはない、のだが……
「おいおい、ババア。俺は、真剣そのものだが? 率直に言うと、そこの3人……深層を攻めるには、力不足もはなはだしい。この街の目ぼしい強者を、スカウトして……サクっと、ダンジョンを落としてやろうと言っているのだ。さあ、イエスと言ってもらおうか……!」
「こんの……クソバカ野郎――! どこまで、自分勝手な……いい加減に、しなさいよ――!」
「なんやねん、コイツ……! きのう真剣な顔をしてると思ったら、そんなろくでもない事を考えてたんかいな……すんません、支部長! ウチらから、よく言って聞かせますんで……!」
口から泡を飛ばして怒りをあらわにするエレと、両手を握りしめてプルプルふるえているゼラ。ネロがこっちに走ってきて、頭をおさえて謝らせようとする。俺は、それを払いのけると――
「黙れ、貴様ら。さて……交渉の続きだ。万が一、そこの老いぼれが拒否した場合。まずはババアに、我がオリジナル禁呪の超梗塞をお見舞いだ。全身の血管に血栓をおこす、水闇属性の複合魔術。脅しじゃないが、この世で一番つらい死に方だという、自信があるぞ?」
「ぬう……っ! つけ上がるんじゃないよ、坊や……! 誰ぞ、衛兵を――」
叫ぼうとした支部長を、手で制して続ける。
「おっと、この俺がさっきまで、何もせず突っ立っていたとでも? ククク……どれだけ、頭がお花畑なのだ。すでに睡眠呪文をぶっ放しておいたから、屋敷の使用人たちは全員オネンネよ」
「こ、この、クソガキが……!」
「さらに、そのあとだ。俺はこのへん一帯に、全力全開で隕石極星弾を叩きこむ。ああ、確かに……ほかの冒険者が全員でかかれば、俺を殺せるかもな。だが、無関係な市民たちにも、大きな被害が出るぞ?」
「はぁ――はぁ――貴様、今すぐ、殺して――うぐうっ!?」
「どうしたんや、ヨハン……! もう嫌や、やめて、やめてぇな……にゃあ゛あっ!」
剣の柄に手をかけたゼラを、麻痺呪文で拘束。念のため、隣のネロも黙らせておく。ついに、パーティのみんなに術を撃ってしまった。涙がこみあげてくるのを、歯を食いしばってごまかす。
「配信で俺の強さを見ていたのなら、不可能とは思うまい。それに比べて、強制パーティ許可証を出してもらえば、命を落とすのは……冒険者だけだ。さあ、決断の時間だぞ、ババア。5秒以内に決めろ。5……4……3……」
「ひぃっ、わ、分かった……! ああ、こんなバケモノを招き入れたのが、運の尽き……! 冒険者の皆さんに、申しわけが立たない……! よ、よよよ……!」
崩れ落ちる支部長。彼女には悪いが、俺にはこの方法以外、思いつかなかったのだ。
むろん、超梗塞やメテオスウォームはハッタリ。だれ一人として、犠牲を出すつもりはない。それがせめてもの、俺の意地というヤツだ。
「ククク……賢明な判断、感謝するぞ。では、俺が大迷宮を蹂躙するところを、とっくりと見ているがよい。ハ、ハ、ハ、ハ、ハ……!!」
彼女が震える手でサインした強パ証を、丁寧にたたんで懐にいれ、堂々と屋敷を出た。窓からは、エレの「なんでよぉ、信じてたのにぃ――!」という悲痛な声が聞こえてくる。
もう、あとには、戻れない……
◇◆◇◆◇
俺はその足で、冒険者ギルドに向かった。受付嬢を脅して、迷宮探索者として登録している冒険者、全員ぶんの名簿をゲット。すぐさま、勧誘という名の脅迫をスタートした。
狙うのは、ダンジョンの上層を攻略済みの冒険者たち。B4Fからエントリーできる者でなくては、意味がないからだ。
手当たりしだいに声をかけ、ビビらせ、脅し、時には大魔術のデモンストレーションをしたりして、パーティを増やしていった。
「ふふん……貴様、なかなか良いケツをしているな。採用だ。肉壁として、こき使ってやろう」
「んなっ……!?」
「そこのお前もだ。ああ、言っておくが……俺の元パーティメンバーは、全員命を落としているぞ。ククク……」
「ひぃっ……!」
ぱちん、ぼかぁん! エクスプロージョン!
「おい……物陰のお前。なに一人だけ逃げようとしている? その勇気に免じて、人間爆弾として散ってもらおうか。骨はちゃんと、ネクロマンシーで再利用してやるぞ?」
「も、もうだめだ、おしまいだぁ……」
……とうぜん彼ら彼女らは、俺のことを憎まずにはいられない。
一人またひとりとパーティに加わるたびに、指数関数的に、俺のステータスが上がっていく。
もちろん――
「はううっ……殺へぇ……ほろへぇ……っ!」
「ううっ……ぐっすん……ひっぐ……ひっぐ……ひどいよぉ……!」
バー“女騎士の砦”で、べろんべろんになっているゼラと、泣きあかしているエレを発見。
後ろから、殺気を帯びた魔力。ふり向きざまにパラライズを撃ちこむと、飛びかかってきていたネロが、空中で硬直しテーブルに突っこんでいった。
俺は、彼女の髪の毛を、つかんで持ち上げ――
「さて……またクイズ大会だ。強制パーティ許可証の、誘いを拒否したペナルティは?」
「に゛ゃ……にゃあっ……! 全スキルの消滅と、ステータス10分の1……! うう、悔しい、ち゛くしょお……!」
「ハーッハッハッハ! 珍しくもの覚えがいいじゃないか、ド低能!」
どすん。ネロの頭を、テーブルに落とす。
強パ証は、単なる紙切れではない。それは、凶悪無比な魔術的スクロール。
勧誘される者のステータス合計が、リーダーよりも劣っている場合……説明を受けた時点で、効果が発動する。
もし、パーティ要請を無視して、リーダーから一定以上の距離を離れたら。待っているのは……半永久的な超絶ペナルティ。それはとりもなおさず、冒険者生命のジ・エンドを意味する。
「分かった……分かったわよ! だから、もう、出ていって……!」
エレが彼女に覆いかぶさって、再びさめざめと泣きだす。俺は彼女たちに、大人数パーティに参加するよう念押しして、バーを立ち去った。
そんなこんなで、俺が強パ証を受けとってから、2日後の夜明け。
ダンジョンの入り口には、総勢101名の冒険者たちが、絶望に満ちた顔で集合していた。
――これが、俺の答え。
探索者連隊作戦というわけだ。
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