第19話 迫りくる聖騎士団
迷宮街は、お祭りさわぎだった。
何百人もの冒険者・探索者の命を吸ってきた、大迷宮中層エリア。それを、わずか10日前に街を訪れたウィザードと、ブランクのある冒険者3人のパーティが、踏破したというのだ。
ダンジョン入り口から目抜き通りまで、人だかりの中を進む。
市民の皆さんからは、惜しみない賞賛の言葉。同業の冒険者たちの反応は、探索の話をせがんできたり、先を越されたことを残念がったりと様々だった。
エレとネロが、武勇伝をとくいげに語りながら、少し前を歩いている。馬に乗せられたゼラも、回復薬をがぶ飲みしながら穏やかな笑顔。
……だが俺の表情は、市街地が近づくにつれ、徐々に険しくなっていった。
いやいや、気難しいウィザードを演じてまわりの人をビビらせようとか、怖がって誰も近づいてこないから悲しいとかではない。
単純に、客観的に考えて、戦力の問題だ。
パーティメンバーの、3人の女性。彼女たちのトラウマや弱みは、おそらく現段階でもう、出きってしまっている。
それは、とりもなおさず、俺のステータス――知力(INT)と最大MPと魔法ランク――が、これ以上伸びないことを意味するのだ。
B6Fの古代巨人は、なんとか機転を利かせて倒した。しかし、もしB7F以降で、同じような魔力耐性のあるモンスターが集団で現れたらどうするのか。
そもそも、さっき激下がりしたステータスを、どう挽回するのか。
そんなことを考える俺の足どりは、ベヒーモスの尻尾よりも重かった……
◇◆◇◆◇
「……支部長との、会談だと?」
「はい、ヨハン様。中層を攻略された皆さまの慰労会と、深層へのアタックの日程調整も兼ねて、ぜひ一度お会いしたいと……」
ゼラの治療のため、ダンジョンを出たその足で、冒険者ギルドを訪れた俺たち一行。彼女が手当てを受ける間、ラウンジで待っていると、受付嬢が話しかけてきた。
どうやら、この街の冒険者ギルドの支部長が、俺たちの顔を見たいらしい。とくに断る理由もないので、引きうける。善は急げということで、明日会うことになった。
エレとネロが、相変わらず他の冒険者たちに、熱弁をふるっている。俺は受付嬢とのやり取りを終えて、それを少し離れたテーブルから、ぼんやりと見ていた。
俺の仏頂面と塩対応にあきれて、誰も近寄ってこない。いや、さっきエレシダのことを、ハーフエルフのくせにうんぬんとか言ったヤツ。そいつに人類平等について、優しく指導してやったのが原因か。
まあ、ステータスの問題で頭を悩ませていたので、丁度よかった。……ここに居ても、しょうがない。そろそろ宿に戻ろうと立ちあがりかけた、そのとき――
「おい、聞いたかよ……聖都の騎士団が、ここ……ノエガンドに向かって進軍してるらしいぞ。しかも、全軍でだ」
「ええっ!? 何かの、間違いじゃねぇのかい? ここいらは辺境とはいえ情勢は安定してるし、訓練にしても、全軍ってのは……」
うしろのテーブルに座って酒を飲んでいた、ガラの悪い2人組みの冒険者。彼らの話した内容に、俺は、心臓が口から飛び出そうになった。
「お……おい、あんたら、いや、貴様ら……! その話、詳しく聞かせてくれ……!」
言い出したほうの肩をつかんで、ガクガクとゆする。シーフ風の彼は、目を丸くしながら、
「うおっ、ヨハン……さん、どうしたんだ、急に……! こいつあ、盗賊ギルドのスジからの情報だぜ。ちょっと、タダじゃあ――」
間髪入れず、そいつの手に金貨を握らせる。
「へっへ、あんがとよ。デカい声じゃ、言えねえんだが……3日前、聖都から騎士団が出撃したらしい。しかも、妙なことに……理由も明かさずにだ。数は、3000……騎兵の常備軍、まるまるだな。一直線に、こっちに向かってる。反乱鎮圧か、はたまた大捕り物か……やましいところのあるヤツが、この街から、続々と逃げ出してるぜ……」
なんということだ。間違いない。聖都――迷宮街を領有している聖王国の、首都――の騎士団が、ここに迫りつつある理由。それは俺を捕まえるために、ほかならない。
見つかってしまった。チクショウ、間に合わないのか。あと少し、だったのに……!
俺は2人に、支部長との会談があることを伝え、先に帰ると言いのこして、ギルドを出た。「顔が真っ青やんか。アンタも、医務室に……」と叫ぶネロの声が、後ろからむなしく響いていた……
◇◆◇◆◇
宿へと向かう道すがら、これからのことを考える。騎士団が、ノエガンドに到着するまでの日数。聖都との距離と、騎馬の進軍スピードを計算。俺に残された時間は……おそらく、約一週間。
それまでに大迷宮を踏破し、最深部のアーティファクトを使って目的を果たすことが、できるかどうか。いまのパーティの戦力では、普通に考えて、かなり分が悪いと言わざるをえない。
いったん逃亡して、再起を……いや、ダメだ。俺の所在が向こうにバレてしまった以上、今後、ノエガンド周辺はガチガチに警備される。再挑戦の望みは、なくなるだろう。
いっそのこと、チート魔力でもって騎士団を殲滅……論外だ。
ステータスが大幅ダウンした俺では、3000もの正規軍を相手に、勝てる保証がない。
少しでも手間取ったら、援軍が押し寄せてくる。そもそも、人間ひとりを助けるために、数千人を殺すわけには……
――数の暴力。その瞬間、脳内にひとつの悪魔的発想が浮かんだ。迅速なダンジョン攻略と、俺のステータス不足。両方をいっぺんに解決できる、一世一代の大バクチである。
すぐさま、アモンに念話で質問。
(ををっ……! そりゃあ、まあ、理論上は可能じゃが……全員を、説得してまわるつもりかの!? それこそ、いくら時間があっても、足らんぞい……!)
いや、その必要はない。カギは、明日のギルド支部長との会談。俺は、街全体を巻きこんで、鬼畜外道に堕ちる決意を固めた……
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!




