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第18話 ウィザード殺し

「……は?」


 あ然とするゼラトリス。そこに、大巨人の棍棒が迫る――!


「ぐおあっ……!」


 横なぐりの一撃。まともに食らって、もの凄い勢いで岩壁に向けて吹っとぶ。ぶつかる――!


「こらアカン! にゃにゃにゃにゃにゃ――!!」


 ネロディが、ドームの壁を全力ダッシュ! そのまま両足で壁面をホールドし、すっ飛んできたゼラをキャッチ!


「うぐううううっ、に゛ゃあっ……!」


 俺の張ったシールドと、獣人のバランス感覚。なんとか衝撃は殺すも受け止めきれず、ひとかたまりになって落下。どすん! ピクリとも動かないゼラの下じきになって、ネロがもがいている。


 その2人に、巨人が迫る――!


「くっそおおおおっ、こっちだ、ボケ! 業火(ヘルフレイム)! もういっぱああつ!」


 なんとか注意を引こうと、炎属性上級呪文を飛ばす。だが――


 じゅあっ。2つの大火球が、巨人に触れる直前にかき消えた。


「コイツ、モンスターのくせに魔術防壁を……! いや、もともと、火耐性があるのか!? なら……氷棺(コキュートス)!」


 きゅいいいぃん……ふわっ。巨人を中心にして集中しつつあった冷気の奔流が、同じように雲散霧消。う……嘘だろ。この現象は、ま、まさか、魔源虚却陣(マナ・キャンセラー)……!


 単なる防壁とはちがって、威力の大小にかかわらず魔力そのものを消滅させる、古代呪文のひとつ……! だが、バカ長い詠唱もなしで、一体どうやって――!


 俺が違和感を覚えたのは、大巨人の黒い肌。よく、目をこらして見ると――ただの、黒肌にあらず。


 全身にびっしりと刻みこまれていたのは、おびただしい数の古代文字! これが、魔術殺しの、正体か――!


「こんの、バカ……何やってんのよ! はやく、何とか……なんとか、しなさいよ――!」


 びしゅしゅん! 焦りと恐怖でボキャブラリーを失ったエレシダが、渾身の手裏剣攻撃。そのうちの一発が巨人の左目をとらえ……彼女に、ターゲットがうつる!


 この局面、俺はどうすべきか。幸い天井の裂け目のおかげで、日なたと日かげがある。エレなら影潜り(シャドウダイブ)を駆使して、数十秒はもたせてくれるだろう。


 回復術を掛けるべく2人のほうに走りだした、そのとき――


「ウチは……大丈夫や! ゼラも、ちゃんと生きとる! ここは、ウチのヒーリングで頑張るから、アンタはエレといっしょに、敵を……!」


 ネロが、血だらけの顔を上げて叫ぶ。よし、分かった。俺はうなずいてきびすを返し、レビテーションで上空に浮上。


 古代巨人……あらゆる呪文をかき消す、ウィザードの天敵。だが、ここで止まるわけには、いかない……!


「グガオアアアアアッ!!」


 ずしん、ずしーん! 逆上し、エレを踏みつぶさんと、暴れまわる巨人。彼女はそのスタンピングを、シャドウダイブや煙玉を駆使して、なんとか耐えしのいでいた。


 隙を見て、果敢に忍者刀で斬りかかるが、外皮にあっさり弾かれる。先ほど潰した眼球は、すでに再生ずみ。残念ながら物理で倒すのも、俺たちには無理そうだ。ならば……


「はぁ――はぁ――聞け、雑種! コイツには、魔力由来の攻撃が、一切効かない! だが、何とかする手段は、ある! 2分……いや、1分だけ、囮になるがいい――!」


 そう叫ぶと、最上位呪文の詠唱をスタート。煙幕の中から、「死ね――!」という声が聞こえてきた。どうやら彼女は、まだ健在なようだ。さあ、まずは、でかい穴を掘る……!


 詠唱完了まで、残り30秒。俺の人生で、いちばん長い30秒だ。10秒……15秒……


「ア゛オオオオオオオン!」


 大巨人が、棍棒をフルスイング! 風圧で部分的に煙幕がとぎれ、そこには、しまったという顔のエレの姿が。ずしーん! 巨人の得物が彼女を押しつぶしたかと、思われたが……


「へ……へへん! 分身よ! 引っかかったわね!」


 尻もちをついてパンツ丸見えになりながらも、少し離れたところから、巨人を煽っている。


 彼女の忍装束は、巨人の攻撃で飛び散った石やガレキのせいでボロボロ。転んだ拍子に、両脚のあいだに丁度いい感じで入りこんだBCC(クリスタル)が、とんでもない勢いでおひねり通知を飛ばしていた。


 ……よし、30秒。詠唱完了! 俺は着地して、閃轟弾(フラッシュシェル)――閃光と音を周囲に撒きちらす、破壊力ゼロの初歩魔術――を前方に発射。信号弾がわり、というわけだ。


 ばん! ばん! ばぁん! 察したエレが立ちあがり、「遅いわよぉ、バカ――!」と絶叫しながらこっちにダッシュ! とうぜん、巨人も追いかけてくる。


 ニンジャの俊敏さに勝る、巨人の圧倒的歩幅。今度こそ踏みつぶされんとしたエレを、自分の真上に生みだした、真空の渦で引きよせる!


「きゃあああ――っ!?」


 彼女が俺を勢いよくとびこえて、後ろに回った瞬間。俺は、力あることばを大気に解き放った。


「――落ちろ、地脈震裂弾(ディアストロブレイク)!」


 どうっ! 右手から撃ちだされた光球が、巨人のちょっと前に着弾――するやいなや、局地的に地震が発生! 岩盤を砕いて周囲に噴きあげながら、地形が変わっていく。


 数秒後には、巨人が横向きになってもスッポリおさまるような地割れが、形を成していた。とつじょ目の前に出現したクレバスと、地面の揺れでたたらを踏むそいつ。さあ、ころげ落ちろ――!


 だが、さすがは中層ボス。棍棒を杖がわりに使って、すんでのところで踏みとどまった。刹那、巨人のうしろあたまに――


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ――! 獣人拳法、駝鳥(だちょう)火腿脚――!!」


 どかぁ! ドームの外周を使って助走をつけたネロディの渾身キックが、死角から炸裂! どうやら、ゼラの治療が一段落ついたようだ。


 押された巨人がもんどりうって、穴に落下! ヨシ!


「ククク、仕上げだ、ゆくぞ……!」


 地脈震裂弾でまき散らされた岩塊を、火魔法で加熱! ドロドロになったそれを、水魔法で急冷。さらに土の魔力を通し、板状に加工! さあ食らえ、俺の即席の、オリジナル超魔術……!


 ぐぅいいぃ――ん……どすん! どすん! どすん!


 俺がこしらえた極厚の黒い板が、何枚も積み重なり、地割れをふさいでいく。異常に気付いた巨人が、脱出しようと中から棍棒を打ちつけるも、なかなか割れない。


 ……俺の母校、魔術学院、“鷲獅子の骨”。そこで行われていた、魔術の模擬戦。エキサイトした学生たちが――俺も含めて――決闘の余波で、訓練室の窓ガラスを割りまくっていた。


 それに頭を悩ませた教授陣は、火山地帯から石材を取りよせ、いま俺がやったのと同じ方法で、強化ガラスをDIY。なんか、ケイ素っていうのがたくさん含まれているらしい。


 そのおかげで学生たちは、心おきなく高位魔術をぶっ放せるようになったというわけだ。めでたしめでたし。


「カッカッカ……! あらゆる呪文を受け付けない貴様でも、魔力と関係ないただのガラスには、苦戦しているようだなァ……! そして、こいつでとどめだ、酸蝕雲(アシッドクラウド)……!」


 地面に魔力を通し、岩盤内の菌を増殖・活性化させて強酸の霧を生みだす。魔力の産物である酸は、大巨人にはおそらく効果が薄い。しかし俺の目的は、ガスで空気を押しだすことにあった。


 無尽蔵に生成される、比重の重いガス。それがクレバス内に溜まり……ついに、完全な無酸素状態へ。トラウマはどこへやら、エレが俺の両肩をがしっと握って、地割れを見つめていた。


 30秒……1分……2分。ついに、フタの強化ガラスを叩く音が、止まった。


「ハァ――ハァ――、どうだ、黒曜地獄谷オブシダン・デッドリークラウド……! 大巨人、敗れたり、いしのなかで、ゆっくりと朽ちていくがいい……!」


 勝ち名乗りをあげ、へなへなとへたり込む俺。ぷしゅん。ボス部屋の反対側の扉があき、その奥から、転送装置の起動音が響きわたった……



 ◇◆◇◆◇



「ううっ、私としたことが……敵の特性も把握せず、猪武者のごとく突っこんで返り討ちとは……本当に、申しわけない……」


「ええんやで、ゼラ。何ごとも、助け合いっちゅうもんや。それに、やっとコイツがまじめに働いとったわ。ええ気味やで……にゃはは」


「アンタ、やっぱりただ者じゃないわね。最上位術の高速詠唱に、複合属性の連発。そのうえ、柔軟な発想力と応用力……かなりの修羅場を、くぐって来てると見たわ」


「フ、フン、当然であろう……最初から、言っておるではないか。我が至高の暗黒魔導は、無敵だと……」


 急いでB6Fのポータルから、ダンジョン入口に帰還。俺たちはゼラの手当ての続きをしながら、今後の方針について話し合っていた。


「獣人よ……先ほどは、よくぞ攻撃を合わせた。どうしようもない低能だと思っていたが、徐々にオツムが回るように、なって来たようだなァ?」


「なぁに……アンタが落ちろって叫ぶのが、聞こえたからな……ああ、そうそう。深層アタックの話やけど……いちおう今のところ、一緒に行かせてもらう感じで考えとるで」


「ムッ、どういう風の吹きまわしだ。あんなに、嫌がっていたのに……」


「だって、アンタ、あんまり人を見捨てるタイプじゃないやろ? なんやかんや言いながら、ウチらが致命傷を食らわへんように、立ち回ってたやないか」


「何より、強いし……ね。ゼラから聞いたけど、その暗黒魔導っての、どんどん凄くなっていくんでしょ? ムカつくけど、このビッグウェーブに乗らない手はないわ」


 おっと、エレまで心境の変化が。


「それに、アンタみたいなヤツに、負けたくないのよ。もう卑劣な嫌がらせには屈しないって、決めたんだから……ああっ、熱い自分語り、恥ずかしいわね。忘れてちょうだい……!」


「うう、二人とも、ありがとう……! ここまで来たら、私も、最後まで……グスン」


 ゼラが、寝転がったまま目もとをぬぐった。


「フン。これからもせいぜい、肉壁としてこき使ってやるぞ、カスども」


 結果オーライだ、いやあ、良かった……ん? なんか、階段の上のほうから、声が聞こえる。


『おおーい! いるかー!? 回復薬たっぷり用意してるぞー!!』

『数年ぶりの、中層踏破パーティだ! はやく、サイン貰わないとな!』

『皆さん、下がってくださーい! ……受付です! 冒険者ギルドを代表して、表彰を……!』

『エレにゃん、いてもたってもいられず、来ちゃったでござる! 直接の凸は、重大なマナー違反……でも、ブロックは簡便でござる……しくしく』


 どうやら、迷宮街の人たちが迎えに来てくれたようだ。二人が、ゼラを両脇からかかえて、ゆっくりと階段をのぼっていく。俺はそれを見ながら、ちょっとだけ幸せな気持ちに――


(おい、召喚者よ。ひたっているところ、すまんが……アレの時間じゃ)


(げっ、アレか……アモン、やっぱり食らわなきゃダメ?)


(当然じゃ。……ったく、いい感じに連携を決めおって。異性関係のトラウマをほじくるところまでは順調じゃったが……詰めが甘いのう。一気にいくからな……覚悟せいよ)


 ハァ、やれやれ。俺はため息をついて、目を閉じた。


 ティウンティウンティウンティウンティウン。INTが50パーセント下がった。ああ、キツいなぁ……

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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