第17話 燃えたぎる山と冷めちゃったパーティ
★迷宮地下第六層 果てなき氷炎山脈★
天井の高い空間が、広がっている。頭上には、星空を思わせる魔力のきらめき。
しかし、爽やかなムードとは無縁だった。林立するクソデカ樹氷群と、その隙間をながれる溶岩の川。遠方を見やると、ドゴンドゴンと音をたてて、火山がマグマを噴きあげている。
人工物の中にあるとは思えない、局地環境。凍てつく冷気と身を焦がす灼熱が、俺の肌をちりちりと焼いた。
(ひょえ~、こいつはまた、凄いところだのう。まるで、東洋のジゴクみたいじゃわい)
アモンが、またよく分からないコメントをしている。
<これが、迷宮6層……飯食ってる場合じゃねえ! ひとっ走り、ギルドに宣伝してくるぜぃ!>
<エレにゃん、はやく耐熱装備を……ああっ、でも、そうするとおパンツがぁ……!>
BCCの同時接続も、みるみる上がっていく。もう、コメントが重なりまくって読めないレベルだ。だが、そのボルテージとは、裏腹に――
「……このフロアの最深部は、ほかでもない、あの火山のふもとだ。伝説レベルの与太話だが、その情報を信じるしかないだろう……いくぞ」
『……』
険しい表情のゼラと、2人が歩きだす。パーティの雰囲気は、完全に冷え切ってしまっていた。
ほんらい、理想的な展開なのだが……俺は頬を叩いて気合を入れると、彼女たちからちょっと離れた場所で、索敵を始めた……
◇◆◇◆◇
「ギャア! ギャア! ギィッ、シャアアア……!」
頭上を旋回し、今にも舞いおりて襲いかからんとしていた烈火鳥に、俺の放った大氷矢が次々と突き刺さった。たちまち、全身を凍りつかせて霧散。
(むぐっ……ホンモノのフェネクスは、こんなもんじゃないぞい)とぼやくアモンの声を聞きながら、地面に視線を向けると――
「くたばれ……!」
ぶしゅあっ! ネロディの蹴りで吹きとんだ、イエティ軍団の最後の一匹。そいつに、エレが馬乗りになって、首に刀を突きたてるところだった。
「……いくぞ」
ブロードソードをぬぐって鞘におさめ、再び歩きだすゼラ。すでに俺たちは、片手ではきかない数のモンスターの群れを撃退していた。
相変わらず雰囲気は最悪だったが、嬉しい誤算がひとつ。戦闘に参加しても、ステータスが下がらなくなっていたのだ。
おそらく、3人からの好感度が底をついてしまった影響だろう。もう多少の貢献では、俺への嫌悪感は、いささかも揺るがないらしい。くうっ、涙が出るほど、ありがたい話だ……!
そのあとも俺は、超絶強化されたINTと無尽蔵のMPをフルに活かして、モンスターたちをしばきまくっていった。
むろん、わざと彼女たちスレスレに呪文を飛ばしてビビらせたり、かすり傷を舐めさせたりとかの、ちょっとした嫌がらせは、継続したのだが……
そして、ついに俺たちのパーティは、B6Fの最奥――中層のボス部屋――にたどりついた。
◇◆◇◆◇
「なあヨハン、ちょっと聞いたってくれや」
ボス部屋の扉に、開錠の呪文をかけている途中。ネロが俺の横に立って、ドスのきいた顔――このフロアではずっと険しい表情だったが――で話しかけてきた。
「……なんだ」
「ウチ、このあとの戦いの内容しだいでは、パーティを抜けさせてもらうからな。どーもアンタが、命まで張るに値する人間とは思えへんのや。中層の踏破だけでも、冒険者の実績としては十分やしな。お役所に知らせるなりなんなり、勝手にし」
「右におなじ。確かに魔力はすごいけど、いつアッサリ見捨てられるか分からないもの。下手したら、囮にされて私ごとドカンってのもあるじゃない? このあとの戦いで、ちょっとは信用できるヤツだってことを証明してよね」
エレシダも同調。恐れていた事態が、起こってしまった。なんとか少しだけ評価してもらいつつ、それでいて、好感度を上げすぎないバトルを演出しなくては。
<そうだそうだ! その兄ちゃんだけが、ウィザードじゃないぞ!>
<拙者をパーティに加えるのは、どうでござるか? 魔力には自信が……何てったって、40歳まで、アレを守っているでござるよ!>
BCCが、失礼なコメントを流している。
「フ……フン。減らず口を叩くまえに、目の前の戦いに集中することだな。我が至高の暗黒魔導、とくと御覧じろ……」
クソッ、どんなボスが出てくるかすら、分からないってのに……俺が考えをめぐらせていると、ゴゴゴと音をたててボス部屋の扉があいた。
そこは、巨大な岩のドームだった。火山活動の地響きが、床を揺らしている。天井にあいた穴から、差し込む溶岩の光と熱気。そして、光が照らす先には――
ググググググ……
「ふしゅるるるる……」
こん棒を携えた、身のたけ10メートルの黒き大巨人。そいつがゆっくり立ちあがり……俺たちのほうに、ズシンズシンと向かってくる。
「巨人系!? だが、知らんモンスターだ……! 何か、底知れない雰囲気を、感じる……おい、ヨハン、作戦は!?」
ゼラが抜刀し、剣を構えながら叫ぶ。
「ククク……俺は、禁呪詠唱のためのチャージが必要だ……まずは貴様らで、時を稼いでもらう。なあに、心配するな……ちゃんと防壁とエンチャントで、援護してやるぞ……!」
そう言うと高速詠唱をフルに回し、ありったけの魔力をこめて、3人にバフをかける。
単なる、ステータスUPだけじゃない。物理シールドと魔法シールドの、二重掛け。しかもゼラ・エレ・ネロそれぞれの得物に、水風火の魔力をまとわせた!
とうぜん俺は、禁呪なんぞは使えない……ただの言い訳だ。だが、この全力支援でもって、ちょっとだけ信用を取りもどす。
さらに、深層攻略においても死のリスクが高くないこと――防御呪文が通用すること――をアピールする狙いだ。さあ、存分に戦ってくれ――!
「また、高みの見物か……しかし、禁呪だと!? フン、急げよ……!」
ゼラが駆けだし、大きくジャンプ! 身体能力も、俺のバフでブーストされている。巨人の顔面をカチ割らんと、剣を大上段に構えて飛びかかった、その瞬間――
ぶわっ。彼女にかけられていたバフの全て――シールドと属性エンチャとステ強化――が、あっさりと雲散霧消した。
「……は?」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!




