表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

第11話 ダンジョンの虎

 夢を見とった。絶対に忘れられへん、あのときの光景。


 知らせを受けて、僧院から駆けつけたウチを待っとったのは、冷とうなった両親の亡きがら。借金のカタに土地を取られて、首をくくったそうや。


 獣人の隠れ里に、資本主義ってヤツが入ってきたのは知っとった。


 でも、観光客向けの商売に手を出して……ド派手に失敗して、土地まで取られてまうとは。青天の霹靂(へきれき)とは、このこっちゃ。


 見てもよく分からへん、フランチャイズの飲食店の契約書。それを握りしめて、専門家のとこへ行った。


 教えてもろたのは、ありえへん高金利とバカ高い加盟料。契約者に、とんでもなく不利な内容……


「悪質なコンサル業者に、丸めこまれたんです……お気の毒ですが……」という言葉を聞いて、涙が止まらんかった。


 ……負けたくない。


 迷宮に心が折れたのは、ほんとうや。ダンジョンを潜るにつれて、触れたらアカンなにかのオーラを、獣人のカンが感じとった。


 せやけど、両親の命を奪ったアイツ……商売でもって、絶対にのし上がったる。その思いで、ウチはお店を始めたんや。


 ――ウチが、脱税に手を染めた理由。


 頭が悪くて、騙されたから? せやな。


 はやく、貯金をしたいから? もちろん、そうや。でも――


 経済のルールを破ることで、お父ちゃんたちを死なせたお金に、復讐したいという気持ちが……なかったやろか。


 うーん、ウチ、アホやから、分からへん、にゃあ……



 ◇◆◇◆◇



「うっ、ううん…… ここは、どこや? あっ! ウチ、落とし穴に、引っかかって……」


 倒れていたネロディが、ゆっくりと目をあけた。


「ようやくお目覚めか。商才がないばかりか、トラップの気配すら把握できんド低能とはな……この俺まで巻きこんだ罪、万死に値するぞ」


 ゼラのときと同じミスをしないよう気をつけながら、声をかける俺。指先には、ライティングの明かり。周囲は、数メートル先もおぼつかない闇に包まれていた。


「げ、ヨハンやんか。なんで、アンタも落ちとるん……? いや、それより、あの高さから落ちて、ケガひとつないって……不幸中の幸いとは、このことやね」


 彼女が、上を見ながらつぶやく。


 じっさいは両足の骨を折って気絶していたのだが、反信頼(アンチ・トラスト)でブーストされた回復術で、俺が治療したのだ。


 続いて、集まってきた死霊系モンスターを撃滅。好感度が上がってしまうと良くないので、黙っているが……


「ふん、オツムと違って、体のほうは丈夫なようだ。どうやらここは、落とし穴に引っかかった者を、確実に始末するトラップエリア。用心しながら、階段の方角を目指すぞ。当然、貴様が先導しろ」


 そう言うと俺は、腕組みをして片足をトントン、いらいら感をアピール。彼女は釈然(しゃくぜん)としない顔で立ちあがり、マップを見ながら、石畳の通路を歩きはじめた……



 ◇◆◇◆◇



 ところどころに、先輩冒険者たちの遺骨がころがっている。ここは、まぎれもないデス・ゾーン。


 踏むと左右の壁から槍が飛びだしてくるパネル。転がる大鉄球。落ちてくる天井。そして正面の暗闇からは……たまに毒矢が飛んでくる。


 それら罠のフルコースを、彼女は――ほぼ全て作動させながら、歩みを進めていた。最初は、俺が風魔術でこっそりパネルを押して、嫌がらせしようかと考えたのだが……するまでもなかった。


「にゅあッ! 今度は、酸の霧……す、すまんやで! 面目ない……」


 壁の彫像が、彼女にむけて勢いよく液体を噴射。俺はそれを、気流操作でガード。はじかれた液体が周囲の石畳に飛びちり、しゅうしゅうと音をたてた。


「おいおい、またか……獣人のカンが、聞いてあきれるな。まあよい……今の経費も、分け前から引いておくぞ。せいぜいノーマネーでフィニッシュしないよう、気を付けろよ? ククク……」


(おぬし、だいたいの罠の場所は、分かっておるのじゃろ? わざわざ、恩きせがましい言い方をしおって……なかなか、手の込んだことをするのう)


 アモンの言うとおりだ。俺は土属性の魔力を壁に通すことで、トラップの位置と種類を把握していた。けれど普通に彼女を守ったり、安全なルートを教えたりしては、好感度が上がってしまう。


 なのでこーいう罰金スタイルで、出口を目指しているというわけだ。


 ほんとうは、早く脱出して2人と合流したい。ゼラの祝福剣(ブレスド・ソード)があるので、大丈夫だと思うが……ああっ、もどかしいぞ……!


「にゃぁ! 壁がぁ……っ! アカン、もう、収支マイナスや……! なんで、なんでやぁ……っ!」


 ずずずん! 左右から押しつぶさんと迫ってきた壁を、土槍(アーススピア)でつっかえ棒して止める。嘆く彼女に、後ろからあざ笑う言葉をかけながら、出口へと近づいていった……

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ