第11話 ダンジョンの虎
夢を見とった。絶対に忘れられへん、あのときの光景。
知らせを受けて、僧院から駆けつけたウチを待っとったのは、冷とうなった両親の亡きがら。借金のカタに土地を取られて、首をくくったそうや。
獣人の隠れ里に、資本主義ってヤツが入ってきたのは知っとった。
でも、観光客向けの商売に手を出して……ド派手に失敗して、土地まで取られてまうとは。青天の霹靂とは、このこっちゃ。
見てもよく分からへん、フランチャイズの飲食店の契約書。それを握りしめて、専門家のとこへ行った。
教えてもろたのは、ありえへん高金利とバカ高い加盟料。契約者に、とんでもなく不利な内容……
「悪質なコンサル業者に、丸めこまれたんです……お気の毒ですが……」という言葉を聞いて、涙が止まらんかった。
……負けたくない。
迷宮に心が折れたのは、ほんとうや。ダンジョンを潜るにつれて、触れたらアカンなにかのオーラを、獣人のカンが感じとった。
せやけど、両親の命を奪ったアイツ……商売でもって、絶対にのし上がったる。その思いで、ウチはお店を始めたんや。
――ウチが、脱税に手を染めた理由。
頭が悪くて、騙されたから? せやな。
はやく、貯金をしたいから? もちろん、そうや。でも――
経済のルールを破ることで、お父ちゃんたちを死なせたお金に、復讐したいという気持ちが……なかったやろか。
うーん、ウチ、アホやから、分からへん、にゃあ……
◇◆◇◆◇
「うっ、ううん…… ここは、どこや? あっ! ウチ、落とし穴に、引っかかって……」
倒れていたネロディが、ゆっくりと目をあけた。
「ようやくお目覚めか。商才がないばかりか、トラップの気配すら把握できんド低能とはな……この俺まで巻きこんだ罪、万死に値するぞ」
ゼラのときと同じミスをしないよう気をつけながら、声をかける俺。指先には、ライティングの明かり。周囲は、数メートル先もおぼつかない闇に包まれていた。
「げ、ヨハンやんか。なんで、アンタも落ちとるん……? いや、それより、あの高さから落ちて、ケガひとつないって……不幸中の幸いとは、このことやね」
彼女が、上を見ながらつぶやく。
じっさいは両足の骨を折って気絶していたのだが、反信頼でブーストされた回復術で、俺が治療したのだ。
続いて、集まってきた死霊系モンスターを撃滅。好感度が上がってしまうと良くないので、黙っているが……
「ふん、オツムと違って、体のほうは丈夫なようだ。どうやらここは、落とし穴に引っかかった者を、確実に始末するトラップエリア。用心しながら、階段の方角を目指すぞ。当然、貴様が先導しろ」
そう言うと俺は、腕組みをして片足をトントン、いらいら感をアピール。彼女は釈然としない顔で立ちあがり、マップを見ながら、石畳の通路を歩きはじめた……
◇◆◇◆◇
ところどころに、先輩冒険者たちの遺骨がころがっている。ここは、まぎれもないデス・ゾーン。
踏むと左右の壁から槍が飛びだしてくるパネル。転がる大鉄球。落ちてくる天井。そして正面の暗闇からは……たまに毒矢が飛んでくる。
それら罠のフルコースを、彼女は――ほぼ全て作動させながら、歩みを進めていた。最初は、俺が風魔術でこっそりパネルを押して、嫌がらせしようかと考えたのだが……するまでもなかった。
「にゅあッ! 今度は、酸の霧……す、すまんやで! 面目ない……」
壁の彫像が、彼女にむけて勢いよく液体を噴射。俺はそれを、気流操作でガード。はじかれた液体が周囲の石畳に飛びちり、しゅうしゅうと音をたてた。
「おいおい、またか……獣人のカンが、聞いてあきれるな。まあよい……今の経費も、分け前から引いておくぞ。せいぜいノーマネーでフィニッシュしないよう、気を付けろよ? ククク……」
(おぬし、だいたいの罠の場所は、分かっておるのじゃろ? わざわざ、恩きせがましい言い方をしおって……なかなか、手の込んだことをするのう)
アモンの言うとおりだ。俺は土属性の魔力を壁に通すことで、トラップの位置と種類を把握していた。けれど普通に彼女を守ったり、安全なルートを教えたりしては、好感度が上がってしまう。
なのでこーいう罰金スタイルで、出口を目指しているというわけだ。
ほんとうは、早く脱出して2人と合流したい。ゼラの祝福剣があるので、大丈夫だと思うが……ああっ、もどかしいぞ……!
「にゃぁ! 壁がぁ……っ! アカン、もう、収支マイナスや……! なんで、なんでやぁ……っ!」
ずずずん! 左右から押しつぶさんと迫ってきた壁を、土槍でつっかえ棒して止める。嘆く彼女に、後ろからあざ笑う言葉をかけながら、出口へと近づいていった……
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