第10話 わざとらしい嫌がらせがほどこされた上質の配信
翌朝の、日の出前。またも一晩じゅうゼラの腹筋をさわさわして、エネルギーをチャージした俺は……彼女とともに、大迷宮への歩みを進めていた。
(ふぅーむ、つぎはワープして、4層目から……と、いうわけじゃの。それにしても、こんな仕様じゃと……ダンジョンの奥まで潜れる有能な冒険者ほど、かえって死にやすいのではないか?)
アモンが、念話で話しかけてくる。
(ああ、じっさい迷宮の近くに来たはいいが、深層の話を聞いてブルってしまう冒険者が、メチャクチャ多いんだよ。だからSランクダンジョンのまわりには、必ずデカい町ができるってわけさ)
(迷宮深くへの挑戦をあきらめ、かといって故郷に帰るのも恥ずかしく……と、いうわけじゃな。ダンジョンが社会の中心になっておるとは、おもしろい世界じゃて)
(なんでダンジョンがこの世界に自然発生するのかは、まだ謎なんだ。研究者の仮説によると、人類の進化をうながすための、試練の役割をしてるんじゃないか……とか言われてるね)
(神の考えることは、よく分からんのう……あっ、ワシもいちおう神じゃった)
◇◆◇◆◇
木立ちの中に、ダンジョンの入り口が見えてくる。そこには――
「悪い夢かと思ってたけど……マジで来やがったわね。ああ、もう、やだぁ……!」
「ううっ、ホンマに、最後まで潜るつもりなんか……? 中層ですら、いままで数組しかクリアしてへんのに……こいつ、イカれとるで……!」
装備を整えたエレシダとネロディが、頭を抱えながら座りこんでいた。
「ククク……よくぞ決心した。みな、ある程度名の知れた冒険者と聞いている。自己紹介は、各自で済ませてくれ。俺の強さは……道中でしっかと確認するがよい。では、ポータルで4層まで飛ぶぞ」
言うが早いか、すたすたと階段を下りはじめる俺。
「死ね」
「ナーン港に沈めたろか」
「2人とも、すまない……」
ついてくる3人。とうぜん、俺のステータスは……
キュインキュインキュインキュインキュイン!!
(う、うおおっ、凄い……っ!)
爆上がり! INT(知力)は、迷宮街を訪れたときの5倍以上。続いて、最上位呪文がアンロック。最大MPに至っては、1日じゅう火球を撃ち続けても消費しきれない数値に達していた。
(むふふ、おぬしの周到な脅しが、効いておるのう。じゃが、反信頼はまだまだ余力を残しておるぞ。なんたって、チートスキルじゃからな……せいぜい、励むことじゃ)
嬉しそうなアモンの声を聞きながら……しゅいん! 俺たちは、大迷宮のB4Fに降り立った……
★迷宮地下第四層 闇深き亡者の道★
(ををっ……ようやく、ザ・迷宮って感じの場所が出てきおったわい)
――冷たい。いや、気温のせいだけではない。この階層を満たしている、死霊系モンスターのオーラの影響だろう。
天井は低い。石造りの回廊が、闇の中に続いている。壁には、ところどころに悪趣味な骨製の燭台。その上で青い霊火が、妖しくゆらめいていた。
「久しぶりに来たけど……相変わらずぞっとするわね。生配信開始」
ぶぅん。エレシダがBCC――ブロードキャスト・クリスタル――を起動させた。
「貴様……配信の許可は出しておらんぞ。リーダーの俺にことわりなく、勝手なマネは止めてもらおうか」
「何よ、配信がダメとは言わなかったじゃない。せっかく命張ってダンジョンを攻めるんだから、ちょっとでもおひねり、稼がないとね。……みんな、こんエレ~! 昨日は休んじゃって、ゴメンね! 私、色々あってやっぱり、大迷宮に潜ることにしたの。応援と宣伝、よろしくね♡」
かまわず喋りながら、ずんずん進んでいく彼女。
<なんか足が震えてるけど、大丈夫か?>
<あんなにダンジョン拒否ってたのに……もしや、“組織”に、脅されて……>
<パーティーメンバー死すべし、慈悲は……ぷぎゅっ! “女騎士の砦”のローズたんがいる! ブヒブヒィ!>
コメントも盛り上がっているようだ……
<今度のパーティは殺すなよ>という荒らしコメを、彼女が流れるようにブロックしたのを、俺は見逃さなかった。
まあ、エレの配信が流れるのは、迷宮街のみ。それであれば、俺の目的の妨げになることはないだろう。俺たちは複雑に枝分かれした回廊を、ネロディが持ってきたマップを見ながら、進みはじめた……
◇◆◇◆◇
「いくでぇ……獣人拳法、凶蛇連撃!」
がががん! 白く輝く、ネロディの手甲。スケルトン兵がその4連撃でビスケットのごとく打ち砕かれ、くずれ落ちる。
「ありがとう、ネロ、片付いたか。では罠に注意しながら、先に進もう」
剣気でゴーストの一団をかき消したゼラトリスが、振りかえって言った。
一列になって、迷宮をゆく。細い回廊なので、横ならびにはなれない。俺たちは罠のリスクも考えて、数メートルほどの間隔をあけていた。
順番は、先頭に突破力のあるネロディ。つぎに遠距離攻撃(と配信)担当のエレ。続いて俺。しんがりにゼラ、という陣形だ。
光属性をそれぞれ、手甲と剣に纏うことができるネロとゼラは、死霊モンスターと相性バツグン。
スケルトンやゾンビ、ゴーストやファントムを瞬殺しながら……順調にフロア中盤に、さしかかったあたりだった。
<ああっ、ローズ様、カッコいいでござるぅ……まさか、パラディン並みの剣技をお持ちなんて……!>
「……パラディンなんだが。配信というのは、気が散るな」
<店主もスゲェぞ! ぼったくり価格から繰りだされる、流れるような体術……グッドボタンが1回しか押せないのが、残念でしょうがねぇ!>
「そ、そんなにウチの店、割高やったんか……たしかに値付けはちょっと、強気だったかもやけど……」
(ほっほっほ……ををっ、なんか、色がついた投げ銭が来たぞい!? これは、ちょっと有り難いヤツではないか?)
「くうっ……何よ、オタクども……すぐに、見返してやるんだから……」
半端ない盛りあがりを見せる、BCCのコメント。もっともエレ本人は、ただひとり光属性が使えず戦闘に参加しにくいので、何とも言えない表情だったのだが……
俺は配信に顔が映らないように、フードを深くかぶりながら気流・魔力探知で索敵に集中していた。すると――
「おい、肉壁ども。ふぬけた態度はそこまでだ……来るぞ」
「に、肉壁って……あ。前方に、竜牙兵の大群! 20、30……いや、もっとや! ゼラトリスはん、ちょっと前に来て援護でけへんか!?」
「ゼラ、でかまわん。では、すぐそちらに――」
いやいや、ここはちょっと、意地悪タイムだ。俺は右手を横にのばし、ゼラを押しとどめると――
「だめだ。後ろからレイスの気配がする。竜牙兵はネロとエレだけで、始末しろ」
「ぐうっ、貴様、本当か……!? また、謎の嫌がらせではあるまいな……!」
焦るゼラトリス。前にいる2人が、しんそこ心配なようだ。
「何よ、私たちばっかり、働かせてさ……! さっさとアンタの魔術ってやつを、見せなさいよ!」
エレがクナイを飛ばしながら叫ぶ。燭台の火で伸びた竜牙兵の影をとらえ、そいつの動きを止めた。
<そうだそうだ!>
<このウィザードの兄ちゃんだけ、感じ悪くねぇか……?>
と、BCCのコメントも同調。ああっ、文字で見ると、余計しんどい……!
「何をふざけたことを……俺の暗黒魔導は、MPの消費が激しいのだ。中層のボス部屋まで、魔力を温存せねばならん。探知でモンスターを見つけてやっているだけでも、ありがたく思えよ?」
もちろん嘘だ。MPは使いきれないほどある。まあ彼女たちがピンチになったら、こっそり助け船を出せばいいだろう。
「にゃあっ、もう、どうでもええわ! コイツら程度、簡単に蹴散らせへんかったら、最深部なんてぜったい行かれへんし! はああああ――っ!」
ネロが独自の呼吸法を発動。彼女の四肢の聖光が、輝きを増し――
「呼ッ! 獣人拳法、銀牙流星脚――!!」
どっか――ん!! 跳びあがるが早いか、空中でくるりと方向転換。そのまま大砲のような蹴りを、モンスターの群れの中心に叩きこんだ!
ばらばらになって飛びちり、灰に戻っていく竜牙兵たちの残骸。たまらず逃げ出した残党を追撃すべく、追いかけたネロディの足もとが――
がたん。おおっと、落とし穴!
「にゃあッ!? し、しもたぁ……!」
「バカ、先走りすぎよ! カギ縄を……だめ、間に合わない……!」
ネロの体が漆黒の闇に消え、ゴゴゴと音をたてて落とし穴が閉じていく。クソッ、放っては、おけない――!
「愚かな、敵に気をとられ、足もとをおろそかにするなど……ああっと、爆発罠だ! オノレ……!」
足もとに無詠唱で爆炎を撃ちこむと、吹っとんだふりをして浮遊呪文でジャンプ。わざとらしいセリフとともに、そのまま、彼女が落ちていった落とし穴に滑りこむ!
<おいおい、2人も落ちたぞ! いきなりパーティ崩壊の危機、キタ――!?>
<爆発オチなんて、サイテー!>
呆然とするエレとゼラ。それとBCCが、賑やかにコメントを吐きだしているのが見えた。
「おい、カス2人! こうなっては、しかたがない……第5層への階段で、合流だあああぁぁぁぁ……」
そう叫んだ瞬間、俺の頭上で、落とし穴のフタがばたんと閉じた……
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