18話 私も役に立ちたい
『模擬店紹介文 緊急回収作戦』は、もちろん昼休みだけで終わるような代物ではなく、そのまま放課後に突入していた。
生徒会室の長机には、回収された紹介文が山のように積まれている。
各クラス分だけでも相当な量だ。
紙の端が揃っていないもの、やたら装飾だけ凝っているもの、無駄にカラーペンで縁取られているもの。ひどいのになると、提出用紙の空いている余白にまで謎のイラストが描き込まれている。
……いや、そういうのは今いらないんだよ。
幸い、聖羅が爆速で回収してくれたおかげで、各クラスの分はひとまず揃っていた。
今は優乃が運動部、聖羅が文化部を回って、放課後まで活動している部活の紹介文をかき集めている。
生徒会室に残っているのは、俺と紺野、それから千景の三人だ。
俺たちは回収された紹介文を一枚ずつチェックしながら、誤字脱字や記入漏れがないかを確認していた。
「……これ、たぶん読ませる気ない」
向かい側に座る千景が、無表情のまま一枚の紙を持ち上げた。
「今度はなんだ」
「字が潰れてる」
差し出された紙を見ると、たしかにひどかった。
店名らしき欄に何か書いてあるが、勢いよく丸まった字が連なっていて、判読が難しい。
「……たこ焼きだろ?」
「『たこ殴り』にも見える」
「文化祭でどんな商売する気だよ」
千景は小さく首を傾げる。
「たこ焼きなら平和なのに」
「比較対象がおかしい!」
そのやり取りを聞いていた紺野が、くすっと肩を揺らす。
「紫藤さん、容赦ないですね……」
「事実」
短い返事だが、こいつの場合それで会話が成立してしまうのが地味にすごい。
しかも千景の指摘はもっともだ。
さっきからこいつが弾いてくる紙は、どれもこれも「このまま載せたら危ない」ものばかりだった。
「黒瀬先輩、これもです」
今度は紺野が遠慮がちに一枚差し出してくる。
「『最高の思い出を君に!』って書いてありますけど……これ、模擬店の紹介になってない気が……」
「キャッチコピーに全振りしすぎだろ」
奪い取って用紙を確認する。
クラス名、模擬店名、販売品目。そこまではちゃんと書いてある。
問題は紹介文の欄だ。
そこに、でかでかと一言。
『最高の思い出を君に!』
「……まあ、気持ちは分かる」
「分かるんですか?」
「言いたいことはな。紹介文としては赤点だけど」
「ですよね……弾きます?」
紺野が苦笑しながら自分のチェック済みの束に視線を落とす。
その束も、なかなかの厚みだ。
見た目以上に、地味で、面倒で、神経を使う作業だった。
誤字脱字だけならまだいい。
字が読めない、必要事項が抜けている、宣伝文が長すぎる、逆に短すぎる、テンションだけ高くて何の店か分からない――そんな紙が、当たり前みたいな顔をして混ざっている。
文化祭ってやつは、始まる前からすでにテンションがおかしくて嫌になる。
俺が赤ペンで修正指示を書き込んでいると、不意に千景がぽつりと呟いた。
「……聖羅姉すごいね」
「ん?」
「この量、昼休みだけでほとんど回収した」
言われて、長机の上に積まれた紙の山を見渡す。
たしかに、改めて見ると異常な量だ。
しかも相手はクラス単位。教室を回って、捕まえて、説明して、回収して――あの短い昼休みで、それをほぼやり切ったのか。
「まあ……聖羅はこういう時だけは本当に異常だからな」
「こういう時だけ、って言うと怒られますよ?」
紺野が苦笑交じりに言う。
「大丈夫だ。本人もたぶん自覚ある」
「自覚あるからこそ、ちょっと傷つくやつじゃないですか、それ」
その瞬間。
ガラッ、と生徒会室の扉が勢いよく開いた。
「智也! 大変だ!」
振り向いて扉を見ると、聖羅が肩で息をしていた。
「どうした?」
「写真部の部長が体調不良で休んでいるらしい。一年生の部員が代筆を頼まれているそうなんだが、『どう書いたらいいのかわからない』と言ってる」
あーなるほど。そういうパターンもあるか……。
「わかった。相談なら俺が行くから、聖羅は引き続き回収頼む」
「わかった!」
聖羅は返事をすると、すぐにまた廊下へ飛び出していった。
ほんと頼りになる会長だよ、あいつは。
「じゃあ俺は写真部に行ってくる」
そう言って立ち上がったのだが――
「智兄、私も行く」
千景に制服の裾を引っ張られた。
「いいけど、大丈夫か? 多分話し合いになるぞ?」
「うん。みんな頑張ってる。私もみんなの役に立ちたい」
今でも十分すぎるほど役に立ってくれている。
それでも、千景が自分からそう言ってくれたのが、嬉しかった。
「わかった。紺野、チェック頼むぞ」
「えぇー! 僕一人ですかぁ!?」
「大丈夫だ。帰ってきたらみんなでやるから」
「えぇー!」
ぶーぶーと文句を言う紺野をなだめる為に、俺は妙案を思いついた。
「千景、励ましてやれ」
「……ん」
長い沈黙……。
千景は紺野を親の仇のような瞳で睨んでいる。
そしてポツリと呟いた。
「やれ」
その短い千景の言葉は、紺野にとって最高のご褒美だったらしい。
「はい! 喜んで!」
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