16話 優乃はよく見てるな
会議から三日が経った。
その間、千景は生徒会室に何度も顔を出し、生徒会のサポートを続けてくれている。
聖羅の挨拶文を見直してくれたり、優乃とはよく笑いながらお菓子を食べたりしていた。
――働けよ。と、思うのだが、優乃がいい感じに千景の相手をしてくれるので、俺が目を離しても問題なさそうだから正直助かった。
紺野に対しては、まだ慣れていないのか時折厳しい目を向けている。
だが当の本人は嫌がるどころか、むしろ少し嬉しそうだ。……まあ、それはいいや。
――思ったよりも打ち解けている。
それが俺の正直な感想だ。
一方でパンフレットも順調である。
表紙は聖羅が話を進めていて、後は美術部の完成を待つばかり。優乃もステージイベントのスケジュールは終わったし、模擬店の紹介文も、すでに各クラス担任や運動部の顧問に渡してあり、今日の昼休みが提出期限だ。
学級委員である俺も、ウチのクラスの模擬店『メイド・執事喫茶』の紹介文はもう提出してある。
それを見た千景は「これって智兄と聖羅姉が私に尽くしてくれる店!?」と言っていたので、あいつなら必ず来るだろう。
秋空には白く遠い雲が流れていた。
校門の前で優乃とばったり会い、俺たちは並んで教室に向かっていた。
「おはよう、智也くん」
「おはよう、優乃」
「今日は聖羅ちゃんと一緒じゃなかったんだね」
「ああ。あいつまだパンフレットの挨拶文ができてないらしくて、先に学校行くって連絡あった」
「そうなんだ。じゃあ二人っきりだね」
楽しそうに声を弾ませる優乃が隣に並ぶ。
何気にこのツーショットはあまりない。
優乃の家は俺と聖羅の家とは反対方向らしく、生徒会の仕事が終わっても、いつも校門でさよならだ。
隣を歩く優乃のやわらかなボブヘアが、歩くたびにふわふわと揺れていた。
「パンフレットもだいぶ形になってきたね」
「そうだな。今週中には完成させたい。それさえできれば、あとは安全対策の細かい決め事を済ませるだけだ」
「それって具体的になにするの?」
「火を使う模擬店の確認とか、混雑しそうな場所の導線決めとかだな。あとは当日の巡回担当と、何かあったときに誰がどうするのかを決める」
「うわぁ……一気に大変そうな感じだね」
「そりゃそうだ。楽しいだけで済むなら誰も苦労しない」
「でも、そういうのって先生がやるんじゃないの?」
「最終確認は先生だろうけど、下準備はこっちだ。生徒会がある程度まとめておかないと、職員会議で突っ返される」
「なるほど……。たしかに、そこ曖昧だと怖いもんね」
「特に飲食系はな。ホットプレートだのカセットコンロだの使うクラスもあるし、廊下が混めば避難経路も潰れる。パンフができても、そこが甘いと開催自体にケチがつく」
俺がそう言うと、優乃は肩をすくめた。
「智也くんがいてくれてよかった。私達だけじゃ分からないことばかりだから……でも、どうしてそんなに詳しいの?」
「……中学のとき生徒会長だったんだ。それでなんとなくな」
「えっ、智也くん、生徒会長だったの?」
「意外だろ?」
「ううん。そんなことない……すごく納得した」
「どうして高校ではやらなかったの?」
優乃に悪気がないのはわかっている。
それでも俺は、その質問を適当にごまかした。
「面倒になっただけさ」
ぱっとブレザーの袖を握られ、俺たちはその場に立ち止まった。
「絶対、誤魔化したよね……」
優乃はそのまま唇を尖らせ、上目遣いに睨んでくる。
「バレたか」
「バレバレだよ」
「優乃は可愛いなぁ〜」
「あからさまに話題そらさないの! 全然嬉しくないよ」
「ほんとうなんだけどな」
大人っぽい一面もあるが、子どもみたいに幼く感じるときもある。それが魅力的に映るのは事実だ。
家庭的だし、優しいし。
「優乃は千景のことどう思う?」
「どう……って、真面目だし要領いいし。なにより可愛い! 私は好きだよ」
いかにも優乃らしい感想だ。
「昨日も少しお話ししたんだけど、生徒会に入るのはまだ悩んでるみたい」
「ああ……まあ、そうだろうな。あいつなりに頑張ってくれてるけど、本当はかなり無理してるんだと思う」
「うん……」
「もともと人前とか、初対面とか、ああいうの得意じゃないし。俺が図書室から引っ張り出したようなもんだからな」
自分で言っておいて、少しだけ嫌な気分になった。
千景のためになると思った。
書記は向いてると思った。
でも、それは結局――俺の都合だったのかもしれない。
「……ちょっと、急がせすぎたかも」
「智也くん、千景ちゃんのこと、すごく大事にしてるんだね」
「そりゃ、いとこだしな」
「ううん、それだけじゃないよ」
優乃はふわっと笑って、でもどこか真面目な目で俺を見た。
「本当に無理やり連れてきただけなら、そんなふうに悩んだりしない」
「……」
「千景ちゃん、すごく頑張ってるよ。緊張してたけど、ちゃんと自分で考えて、ちゃんと役に立とうとしてる」
「……そうだな」
「だから、きっかけは智也くんでも、決めるのは千景ちゃん自身でいいんじゃないかな」
優乃の声は、責めるでもなく、慰めるでもなく、ただ静かに見守るようだった。
「焦らせちゃダメだよ。千景ちゃんが、自分でどうしたいか決められるようにしてあげるのが、私たちにできることなんだと思う」
……ああ。その通りだ。
優乃は本当に周りをよく見ている。
最初に聖羅の隣に立たせたのが優乃でよかった。
「ありがとう、優乃。……なんか、気が楽になった」
「ふふ。私、いい女でしょ?」
「ああ。ビックリするくらい素敵で大人な女性だ」
俺がそう言うと、優乃の顔はみるみる赤く染まっていく。
自分で言っておいて照れるなよ。
こっちまで恥ずかしくなるだろうが。
――ただ、さっきまで胸の奥に引っかかっていた小さな重みは、少しだけ軽くなった気がした。
教室に入ると、俺は自分の席ではなく、ひとつ前の窓際に視線を向けた。
聖羅が、机に突っ伏す勢いで唸っていたからだ。
「ううう……」
――朝っぱらから何をやってるんだ、あいつは。
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