15話 議事録!
鷲尾教頭が帰った後は今日も会議だ。
俺、聖羅、優乃、紺野、千景の五人は生徒会室の長机を囲んでいた。
「じゃあ、あらためて紹介する。俺のいとこで一年の紫藤千景だ。かなり人見知りするから、優しくしてやってくれ」
「……よろしく」
千景が小さく呟くと、最初に反応したのは優乃だ。
「千景ちゃん、可愛い! 小さい智也くんみたい」
「そ、そうですか?」
「うん! 目元とかそっくり!」
「……それ、褒めてるんですか?」
「もちろんだよ! はい、お近づきのしるし」
優乃はそう言って、ブレザーのポケットから個包装の小さなチョコを取り出し、千景に差し出した。
「あ……ありがとうございます」
千景は戸惑いながらも、そっと受け取った。
さすが優乃だな。餌付けからするとは。
「智兄」
「なんだ」
「優乃先輩、めっちゃいい人」
「懐柔されるの早すぎるだろ」
そんな様子を見ていた紺野も、おずおずとスクールバッグを漁った。
一年生の間で有名な図書室の黒百合に話しかけるのは、さすがに緊張するらしい。
「あ、あの紫藤さん。ガムならありますが、食べますか?」
紺野も仲良くなりたそうに粒ガムを差し出した。
「いらない」
冷たく言い放たれた紺野は瀕死のダメージを負ったのか、しゅんと肩を落としてしまう。
「こら、千景! ダメじゃないか。紺野がせっかく気を遣ってくれたのに――」
俺がそう言うと、千景はボソリと呟いた。
「だってガムくちゃくちゃして嫌い。気持ちは嬉しいよ」
「それなら言い方ってあるだろ――」
注意しようとしたのだが、紺野が手を出して遮ってきた。
「良いんです黒瀬先輩」
「紺野――お前」
「なんか新しい自分に目覚めそうなんで」
……こいつもこいつで大丈夫か。
俺は小さくため息をついて、机の上の資料を指で叩いた。
「よし。自己紹介はこのへんにして、本題に入るぞ。千景、議事録とってみてくれないか?」
「う、うん。できるかな……」
「千景の好きに書いてみていいぞ。本を読んで要約するような感じでやってみてくれ」
「わかった」
千景が議事録用のノートを広げて、いざ、会議スタートだ。
「今日の議題もパンフレットだ。進捗を確認する」
俺は先日書いたタイヤ付きのホワイトボードをみんなの前に移動させた。
『文化祭パンフレットの作成』
・表紙イラストの依頼(聖羅)
・会長挨拶文の作成(聖羅)
・校内マップの作成(紺野)
・模擬店紹介文の作成
・ステージイベントのタイムテーブル作成(優乃)
「まずは聖羅から」
「よし、私は昨日、パンフレットの表紙を美術部に依頼してきたぞ。ラフでの仮表紙を明日までに三つ出してくれるそうだ。あと会長挨拶だが、今書いてる。全五ページに及ぶ大作だ」
その報告を聞いて、全員の目が丸くなった。
考えてることはみんな同じ……。
五ページ? 誰が読むんだそんなもん。
「却下だ、聖羅」
「な、なぜだ智也!」
「一ページにまとめろ。無駄なページを作るな」
「そんなぁ! 無理だ。私の想いは一ページなんぞに収まらない!」
「はぁ……。千景、悪いがあとで挨拶文見てやってくれ。要点だけ残して一ページにまとめるなら、お前が適任だ」
千景は静かにノートを見ながら、淡々と返事をした。
「うん。わかった」
「じゃあ次は紺野、マップの作成はどうなってる?」
紺野は待ってましたと言わんばかりに、ノートパソコンの画面を開けた。
「ふふ。黒瀬先輩、当然もう終わってますよ」
「仕事だけは早いな」
「だけってなんですか、だけって!」
「聖羅の挨拶文が終わったら入力してやってくれ。頼んだぞ」
「おーい! 無視しないでくださーい!」
「優乃はステージの方どうだ?」
「去年のを参考に予定は組んでみたよ。ステージ発表を行う、ダンス部や軽音部なんかと最終確認したら確定させるよ」
「うん。順調だな。確定したら見せてくれ。問題なければこれも紺野に入力してもらう」
「さて問題は……」
「模擬店紹介文の作成だね」
「ああ。これは書記の仕事なんだが、とりあえずは俺がやってみる。千景も手伝ってもらえるとありがたい」
「わかった。うちの高校は模擬店が多そうだ から各クラスの担任や顧問に紹介文を渡して、回収してもらえばいいんじゃない?」
千景の提案に俺は少し驚いた。
俺の考えと一緒だったからだ。
「それなら配布も回収も職員室だけで済むもんな」
「うん。とにかく時間がないみたいだから要領よくこなしたい……って」
そこで千景が止まってしまった。
「ごめん。手伝いなのに偉そうに……」
「いや、そういう提案は助かる。むしろ大歓迎だ」
「そう……よかった」
「じゃあ、さっそく千景は俺と紹介文のフォーマットを考えよう」
「……うん」
「フォーマット、ですか?」
紺野が首を傾げる。
「各クラスや部活に好き勝手書かせたら、長さも文体もバラバラになるだろ。書く項目をある程度決めておけば、後でまとめやすい」
「あっ、なるほど……!」
「例えば、『団体名』『出店名』『おすすめポイント』『ひとことPR』とかかな」
「それなら枠も作りやすいです!」
「よし。千景、その内容で簡単な下書きを作ってくれ。紺野はそれをデータに起こす」
「……わかった」
ここまでで、パンフレットの作業はだいたい見えてきた。
俺はホワイトボードの前でペンをくるりと回し、改めて全員を見回す。
「じゃあ、今日決まったことを確認するぞ」
表紙イラストは聖羅。
会長挨拶文も聖羅。ただし、長すぎたら千景と圧縮。
校内マップとレイアウト、紺野。
ステージの仮タイムテーブルは優乃。
模擬店紹介文は、千景がフォーマットを作って、俺が配布と回収の流れを整える。
うん。悪くない。
「よし。会議はこんなところ――」
「……ん」
会議を締めようとしたところで、机の端から小さな声がした。
千景が、おずおずとノートをこちらに差し出してくる。
「なんだ?」
「……議事録」
「もう書けたのか?」
「……たぶん」
受け取って、俺は思わず目を止めた。
そこに並んでいたのは、ただのメモではない。
会話をそのまま書き写したものでもない。
見出しごとに、きれいに整理されていた。
【本日の決定事項】
・表紙イラストは美術部へ依頼済み。仮表紙ラフ三案を明日受領予定(担当:金城)
・会長挨拶文は1ページに調整(原稿:金城/要約補助:千景)
・校内マップは完成済み。挨拶文と他原稿の完成後にレイアウト入力(担当:紺野)
・ステージタイムテーブルは各団体確認後に確定(担当:桃井)
・模擬店紹介文はフォーマット作成後、各担任・顧問経由で配布/回収(担当:黒瀬/補助:紫藤)
【次回までの作業】
・金城:会長挨拶文の初稿完成
・紫藤:模擬店紹介文フォーマット作成
・紺野:紹介文入力用テンプレート作成
・桃井:ステージ参加団体へ最終確認
・黒瀬:紹介文配布・回収方法の調整
【保留事項】
・模擬店紹介文の本文作成(回収後)
・ステージ最終タイムテーブル(確認後)
「よく書けてるな」
「そ、そう?」
「この短時間でうまくまとめてあるぞ」
「……ありがと」
優乃が興味津々で身を乗り出してきた。
「えー、見せて見せて」
ノートを覗き込んだ優乃が、ぱちぱちと瞬きをする。
「わぁ……すごい。分かりやすい……!」
「ほ、本当ですか?」
紺野も慌てて立ち上がり、横から覗き込んだ。
「うわ……! これ、もうそのまま作業表にできますよ! 次に何をすればいいか、全部見えてる……!」
「やっぱり千景はすごいな……智也がもう一人いるみたいだ」
聖羅も目を輝かせながらノートを受け取る。
机の上には、ようやく揃った五人分の資料。
そして、その真ん中には、まだ少し緊張した字で書かれた最初の議事録。
文化祭まで三週間。
それまでに文化祭を開催できる目処をつけないといけない。
それでも――。
「やることはたくさんあるが、このメンバーならできるはずだ。みんな、がんばろう!」
聖羅の掛け声とともに、俺たちは確実に前に進む。
――千景もノートを見ながら、小さく「おー」と言っていた。
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