表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全無欠の幼馴染、実はポンコツで甘えてくるので、全部俺が支えてました  作者: なぐもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/21

11話 結婚はまだ早い

 ――そして放課後。


 「会長、よろしくお願いします」


 紺野は生徒会入会申込書にサインすると、丁寧に両手で聖羅へ差し出した。

ただ承認印を押してもらうだけなのに、額にはうっすら汗が滲み、どこか呼吸も落ち着かない。


「即、承認だ!」


 優乃のときと同じように聖羅はすぐに承認印を押す。

鼻歌でも歌いそうな勢いでご機嫌だった。


「これで、紺野は正式に生徒会会計だ。よろしく頼む」


「はい、僕にできることはなんでもします! と言っても、主に資料作成とかになっちゃいますが……」


 申し訳なさそうに頭をかく紺野に、俺は気になっていたことを訊いてみた。


「計算ソフト以外にも扱えるのか? 念のために把握しておきたい」


「基本的な操作なら大丈夫です。文書作成もプレゼンソフトも任せて下さい」


 一年でそこまで扱えるのか。

会計の補助どころか、資料作成まで任せられる。

こいつは間違いなく即戦力だ。


「それだけ出来れば申し分ない。期待してるぞ」


「は、はい! 僕、頑張りますね!」


「紺野くん、すごいね〜」


 さっきから生徒会室の奥でなにやらしていた優乃が、皿を手に戻ってきた。その上には、切り分ける前の焼き菓子がちょこんと乗っている。


「優乃、それは?」


「パウンドケーキだよ。家で焼いてきたの。紺野くんの入会祝い」


「なに!? 優乃のパウンドケーキ!?」


 聖羅が会長机から身を乗り出した。

まるで獲物を見つけたライオンのように、鋭い眼光を飛ばしている。


「僕の入会祝いまで用意してもらえるなんて……しかも、桃井先輩の手作り……ありがとうございます!」


 紺野もパウンドケーキに目を輝かせていた。


 俺は優乃にそっと身を寄せた。

紺野に聞こえないよう、耳元で小さく囁く。

ふわりと甘いシャンプーの香りがして、一瞬だけ言葉に詰まった。

どうにか気を取り直して、俺は小声で訊いた。

 

「紺野が生徒会に入らなかったらどうするつもりだったんだ?」


「そのときはね〜、おやつにしようと思ったの」


「どっちにしろ食べるつもりだったんだな」


「もちろんだよ。智也くんも食べるよね?」


「そうだな。せっかくだからいただくよ」


 優乃が包丁を使って綺麗にパウンドケーキを切り分けていく。

すると、ほのかに甘い香りが漂ってきた。


「良い匂いだな」


「りんごのパウンドケーキなの。さっき家庭科室のオーブンで温めたから出来たてみたいだよ」


「智也、優乃の作るお菓子は本当に美味いんだぞ」


 聖羅がフォークを構えながら今か今かとそのときに備えている。なんでだろう。さっきから聖羅が小さい子どもにしか見えない。会長の威厳とか、ほんとにない……。


「そ、それは期待できそうだな」


「優乃、早く早く!」


「はいはい、聖羅ちゃんどうぞ」


 手際よく皿に乗せて、順番に配っていく姿は妙に慣れていた。


「ありがとう優乃、いただきます」


 聖羅は一口食べると、続けて二口、三口と頬をパンパンにする。まるでリスだな。


「んん〜! 美味しい!」


 そんな聖羅を見て、優乃は嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。


「ふふ。良かった」


 入会祝いに手作りのお菓子を用意して、綺麗に切り分けて、さりげなくみんなに配る。

こういう気遣いを、優乃はいつも当たり前みたいにやってのける。


 聖羅とは対照的に、料理上手な若奥さんって感じだ。


「智也くんもどうぞ」


「ありがとう優乃、いただくよ」


 目の前に差し出されたパウンドケーキは、断面にりんごがごろっと顔を出していた。

一口食べると、生地はしっとり柔らかく、甘く煮たりんごはほどよく食感が残っていた。


「ん、美味いな」


「ほんと?」


「ああ。優乃と結婚するやつは幸せだろうな」


 ぽつりと言った自分の言葉に、俺は激しく後悔した。


「「「っ!」」」


 三人が反応して、さっきまでの団欒とした空気が一瞬で変わってしまったのだ。


「と、とととと智也くん、結婚は早いんじゃないかな……せめて高校くらいは出ておきたいし……」


 優乃が真っ赤になってそんなことを言えば、


「認めん! 認めんぞ私は!」


 聖羅はなぜか怒っているし、


「いや〜そんな。さすがに僕まだ、桃井先輩とは知り合ったばかりだし」


 紺野は照れていた。


「なんで紺野まで照れてるんだ?」


「いいじゃないですか! 夢ぐらい見させて下さいよ!」


「あ、そう」


 うん。

――書記はまともな人が良いな。


こいつらだけでも十分騒がしいんだ。

いずれ俺が抜けたあとを考えるなら、なおさらな。


 

 

 


「では、これからの流れを確認する」


 優乃が作ったパウンドケーキをみんなで食べた後は、例によって文化祭へ向けた会議だ。


 予算整理が済んだとはいえ、やるべきことも、決めなければならないことも、まだたくさんある。


 進行はいつも通り――なぜか部外者の俺だ。


「予算整理は紺野の尽力のおかげで、無事に終えることができた。次の生徒会の仕事は分かるか? 分かる人は挙手」


 期待せずに座っている三人を見回すと、


「はい!」


 キラキラした瞳で、聖羅がピンと手を上げた。

この会長の回答には期待薄だが、無視するわけにもいかない。

 

「はい、会長……」


「文化祭のパンフレットを作る、だ!」


 ほぉ……珍しく当てやがった。


「正解だ」


「おぉー」


 優乃と紺野は称賛の拍手を送る。

聖羅は得意げに胸を張った。


「ふふん。私だって伊達で生徒会長をしているわけではないぞ。このくらい当然だ」


「じゃあ、そんな会長に問おう。パンフレットの中身は考えているか?」


「うっ……まだ……です」


 あぁ、よかった。いつもの聖羅だ。

いやいや、安心している場合じゃないけど、俺にはやはりこっちの聖羅が落ち着く。


「まぁ、そうだろうな」


 しゅんとなった聖羅を横目に、今度は優乃が控えめに手を上げた。


「はい」


「はい、優乃」


「去年の文化祭のパンフレットを参考にしたらいいんじゃないかな?」


「そうだな。構成は去年のをベースにすればいい」


 俺は生徒会室の資料棚から去年のパンフレットを持ち出し、ぱらぱらとめくる。


「問題はこいつの中身だ」


「中身?」


 聖羅が首を傾げる。


「文章だよ。企画紹介、部活紹介、挨拶文、注意事項……去年とは違うからな。やり直しだ」


「うっ……」


 聖羅の顔がみるみる曇っていく。

一度に全部言うと、パンクするだろうから砕いてみるか。


「パンフレットの構成はそれほど複雑に考える必要はない」


 俺は生徒会室のホワイトボードに必要事項を書き出した。


・表紙イラストの依頼

・会長挨拶文の作成

・校内マップの作成

・模擬店紹介文の作成

・ステージイベントのタイムテーブル作成


「ざっくりだが、文化祭のパンフレットに必要なのは主にこの五点だ。各自に割り振るので、各々、その仕事を遂行するってことでいいか?」


 聖羅、優乃、紺野の三人はただコクコクコク、と頷く。

こいつら本当に大丈夫なのか。


「まず、パンフレットの表紙だが、こちらは例年通り美術部と相談して決めて欲しい。挨拶文も込みでこれは聖羅にやってもらう」


「わかった! 私に任せろ」


「次に校内マップだが、すでに各クラスや部活の出店場所は決まっている。こちらは主に打ち込み作業になるから、紺野にやってもらう」


「はい」


「優乃はメインステージで行うイベントのスケジュールを組んで欲しい。例年だとミスコンとか、ダンス部や軽音部の発表だから、去年のものを参考に予定を組んでみてくれ」


「は〜い」


「最後に、模擬店の紹介文だが……」


俺はホワイトボードの四番目を指でコンコンと叩いた。


「これが一番面倒だ」


「そうなのか?」


 聖羅が目を丸くして――


「各クラスと部活から説明文を回収して、それをまとめて、文章を整えて、誤字もチェックする」


 優乃が苦笑した――。


「それは、大変そうだね……」


「だろ? 本来は書記の仕事なんだが……」


「いないもんね……」


 そこでみんな黙ってしまった。

生徒会室に妙な静けさが落ちる。


 生徒会役員も残すところ書記を探すのみだ。

だが、書記というのは意外と大変だ。

会議では議事録を取り、各クラスや部活から提出物を回収し、パンフレットや掲示物の文章まで整える。

文化祭前となれば、下手をすれば会長より忙しい。


地味に見えて、実はかなりの実務職。

だからこそ、雑に決めるわけにはいかない。


 必要なのは、真面目さと気配り、それに最低限の文章力。聖羅の隣に立たせるなら、なおさら適当じゃ困る。

そんな条件に当てはまるやつなんて、そう何人もいるわけがない。


 ただ真面目なだけじゃ足りない。

散らかった情報を整理して、誰が見てもわかる形にまとめられるやつ。

できれば、板書を写すだけじゃなく、自分の頭で噛み砕いて残せるやつがいい。


 ……そんな都合のいい人材、そうそういるわけ――


 いや。

一人だけ、心当たりがあった。


……そうだ。

あいつなら――いいかも。

 

「聖羅、千景ちかげには声をかけたか?」


「もちろんだ! 智也に断られて、真っ先に会いに行ったんだが……」


「だが?」


「智也がいないから嫌だと言われた……」

 

「あいつ……」


 俺と聖羅がうーんと唸っていると、紺野が口を開いた。


「誰なんですか、そのちかげっていうのは?」


「俺のいとこの紫藤千景しどうちかげだ。確か、一年一組だったかな」


 ガタンッ、と紺野の椅子が鳴った。

さっきまで行儀よく座っていたのに、今は半ば立ち上がりかけている。


「紫藤千景ってあの『図書室の黒百合』ですか!?」


「なんだよ、その物騒な通り名」


「一年の間じゃ有名ですよ!? 誰も近寄れない高嶺の花……心を折られた男子は数知れず!」


「あいつそんな風に呼ばれてるのか」


 確かに千景は、愛想がいいタイプじゃない。

無表情なことが多いし、なにを考えているのかもよくわからん。


 顔立ちだけなら、聖羅や優乃にだって引けを取らない。

聖羅が太陽みたいに輝き、優乃が春風のように包んでくれるなら、千景は夜空で光る月だ。


 綺麗ではあるが、誰も気安く触れようとはしない。

そのせいで、初対面のやつには余計に話しかけづらく見えるんだろう。


 いとこの俺でさえ、そう感じることはある。今でこそ高校が一緒だからいいが、中学までは学校も別だった。

 けど、小さい頃は親戚が集まるたび、聖羅も交えて三人でよく遊んでいた。


 ……その頃の千景は、よく俺の後ろに隠れていたっけ。


 だから、新入生の列にあいつを見つけたときは、さすがに少し驚いた。


 ……まあ、『図書室の黒百合』なんて妙な通り名がつくのも、わからなくはない。


 とはいえ、聖羅が断られた理由は少し気になる。


 ――智也がいないから嫌だ。


 そういえば、ここ最近は文化祭の準備で忙しくて、図書室にも顔を出していなかったな。


 もしかしたら、それで機嫌を損ねているのかもしれない。


「……仕方ない。一度、行ってみるか」

【作者からお願い】


私は趣味で小説を書いてる、幼い子どもが二人いる父親です。


少しでも

「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新がんばれ、応援してる!」


と思っていただけましたら、

広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして、

【★★★★★】にしてくださるととても嬉しいです!


皆様の応援が、作品を書く最高の原動力になります!


なにとぞ、ご協力お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なかなかイイ性格してるな紺野後輩 そして第三のヒロイン…これはずっと矢印出てたけど智也が鈍くて気付いてないやつだな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ