10話 僕のヒーロー
先頭にいるのは――
「黒瀬……先輩」
黒瀬先輩は僕の前に立つと、掴まれていた僕の腕を静かに外した。
「はいはい。暴力はいけませんよ。朝っぱらから、元気だなお前達」
黒瀬先輩は軽い感じで言っている。
なのに、なぜか空気が一瞬で張り詰めていくようだ。
「……なんだよお前」
「俺か? 俺はただの一般生徒だ。用があるのはこいつだ」
黒瀬先輩の後ろからひょこっと顔を出したのは金城先輩だった。
腕を組んで、自信満々のその姿は、いつもと違う。
いつもの……黒瀬先輩に怒られてる会長じゃ――。
「今の話、全部聞こえていたぞ!」
会長は胸を張って言う。
「私の連絡先が欲しいんだろう!」
「……は?」
クズ達はみんな目を丸くしていた。
「残念だが断る!」
「そこじゃねぇよ……会長」
黒瀬先輩が盛大なため息をついた。
すると、さらにその後ろから桃井先輩が出てきた。
いつも天使のように穏やかな微笑みを浮かべている彼女が、今は笑っていない。
「ねぇ……私のことを尻軽って言ったやつはどいつ?」
なんか……いつもの桃井先輩じゃない……。
「止まれ優乃。落ち着けって」
黒瀬先輩が桃井先輩の頭をポンポンとあやしている。
「だってぇ……だってぇ……」
桃井先輩が今度は泣きそうになった。
黒瀬先輩ってやっぱりすごいんだ。
あの会長と副会長を、まるで手のひらの上で転がしているみたいだ。
……この学校で一番強いのは、たぶんこの人だ。
しかし、クズ達はそれでも止まらない。
「なぁ会長さん。こんな無能より俺達と仲良くしましょうよ。副会長も色々教えてあげますよ」
その様子を見て、黒瀬先輩は桃井先輩と一緒に一歩下がった。
「聖羅、こいつらはお前に話しがあるみたいだ。あとは頼んだぞ」
「はっ! ついに私の出番ってことだな! 任せろ!」
会長は引くどころかどこかワクワクしているようだった。
「これは文化祭の予算表だ」
会長は一枚の紙をスクールバッグから取り出し、ひらひらと振った。
「この予算、全部紺野が整理してくれたんだぞ」
クズ達はポカンとした顔をしている。
「全校生徒、約六百人。クラス企画、部活出店、模擬店、備品費用……」
会長はニヤリと笑った。
「これを三日でまとめたんだ」
そして紙をパンパンと、軽く叩く。
「お前達にできるか?」
「はっ? そんなの知らねーよ」
「だろうな」
会長はやれやれといったように両手を広げる。
そのままキッと三人を睨み――
「だから私は紺野を必要としているんだ」
そして一歩踏み出し、見たこともない迫力でクズ達に迫る!
「紺野が無能? そんなはずはない。彼はこんなにも優秀なんだ。君たちにはできないんだろ?」
そして、冷たい声で囁いた。
「無能はどっちだ?」
いつも黒瀬先輩に怒られてる会長じゃない。
そこにいるのは選挙のとき、僕が憧れた人だった。
クズ達はそれ以上なにも言い返さない。
いや、言い返すことができなかったのだ。
会長は満足したように満面の笑みで僕に言った。
「紺野、生徒会の件、改めてお願いする。私たちに力を貸してくれないか?」
会長が……あの金城聖羅が僕を必要としてくれる。
それだけで僕の視界は滲んで、前なんか見えなくなっていた。
「はい……僕ができることは、なんでもします」
「よし! 言質はとった。なら一緒に来てくれ」
会長が僕の手をとってずいずいと進んでいく。
「えっ……どこへ?」
「決まっているだろ。紺野の教室だ」
「えぇー!」
後ろに「ホームルームに遅れるなよー」という黒瀬先輩の声が響いた。
金城先輩は一体なにをするつもりなんだ!?
一年三組の教室では、始業前でもうほとんどの生徒が教室に入っていた。
僕は先輩に引きづられるように一緒に教室に入る。
クラスメート達はみんな驚いていた。校内で最も有名な生徒会長が僕を連れてきたのだから当然だ。
クラス中の視線が教壇に立った会長に集まる。
「授業前にすまない。生徒会長の金城聖羅だ。みんな、私の話を聞いて欲しい。紺野、こっちへ」
僕は会長に促され、彼女の隣に立った。
「気持ちは変わらないな」
「は、はい」
「ならいい」
そう言った会長の笑顔を僕は生涯忘れないだろう。
会長は前を向くと高らかに宣言した。
「この度、一年三組の紺野和樹を生徒会の会計として任命することにした」
会長がそう言うと、教室の中から「おぉ!」という声が上がった。
「紺野は数日前から文化祭の予算を整理してくれていた。それがまた難しくて私でも音を上げていたし、他の生徒会メンバーでもダメだったんだ」
会長は僕を褒めてくれる。いつも、どんなときも。
「はっきり言うぞ。紺野はすごい。これからも生徒会で活躍してくれるだろう」
再び僕を見た会長は太陽みたいに輝いていた。
「一緒に頑張ろうな、紺野」
「は、はい!」
僕は、正式に生徒会に入ることになった。
◇ ◇ ◇
紺野が生徒会の会計に任命された日の昼休み。
俺――黒瀬智也はまだまだ未熟な新米会計と、屋上で昼食を共にしていた。
「――てゆうことがあったんですよ! 会長かっこよすぎません?」
「はは。聖羅らしいな」
あいつの行動は予測不能だ。長い付き合いなのに、いつも予想の斜め上を飛んでいく。
「黒瀬先輩はいいですね。あんな素敵な幼馴染がいて」
「ん? そうだな。あいつが幼馴染でよかったよ」
紺野が購買のパンを食べるのをやめた。
「意外です……」
「なにがだ?」
「いや、いつも会長のこと、けなしてたんで、てっきり鬱陶しいと思ってるのかと……」
「まあそんなときもある。否定はしない。普段はアレだからな」
俺はフェンスの向こう側を指さした。
下の方をからなにやら慌ただしい声が聞こえたからだ。
「お弁当わしゅれた〜」
聖羅が物凄いスピードで購買に走っていく。
今さら購買に行っても、なにもないというのに。
「あー確かにアレですね」
「でもな、あいつはあれでいつも真剣なんだよ」
「ええ。僕も今回のことで、会長がどんな人なのか、なんとなく分かりました」
「そうだろ。いつも的外れなことばかり言ってるが、困ったやつは見過ごさないし、必ず手を差し伸ばす。実際に俺も、あいつに救われたからな」
「なんですかその話!? 詳しく教えて下さいよ!」
「まぁ……機会があったらな……」
「えぇ……今、完璧に話す流れでしたよね!?」
「そのうちな。今はこの、購買で買ったコロッケパンを会長に届けることが先決ではないかね、新米会計よ」
俺はコロッケパンを掲げて紺野に嫌味っぽく見せる。
「と、届けないとどうなりますか?」
紺野は無駄に顔を引きつらせていた。
「放課後、めちゃくちゃ不機嫌になる」
まずいと思ったのだろう。紺野は紙袋の中から購買で買ったパンを一つ差し出した。
「それじゃあ、僕もこのカレーパンを寄付しますね」
「それはいい。きっと泣いて喜ぶぞ」
空を見上げると青が深く、雲がずっと遠くを流れていた。
時折、乾いた風が吹いて屋上を通り越していく。
「黒瀬先輩、どうしました?」
「なんでもない、行くぞ! 紺野」
「はい!」
紺野の元気な返事が、静かな秋空に吸い込まれていった。
【作者からお願い】
私は趣味で小説を書いてる、幼い子どもが二人いる父親です。
少しでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばれ、応援してる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして、
【★★★★★】にしてくださるととても嬉しいです!
皆様の応援が、作品を書く最高の原動力になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!




