決断する奴
柳留唯と共に帰宅した明星輝。
彼は普段通り、仰々しい門に迎えられて家へ入る。
レンガによって形造られた家、もとい屋敷のなかに入るとすぐに赤い絨毯が目につく。その次に映るのは使用人の姿だ。
「おかえりなさいませ。お坊ちゃま。」
「……………あぁ。」
なんとも時代錯誤な光景である。
輝は先ほどまでクラスメイトと帰っていた自分と、今ここにいる自分が同一でないかのような錯覚に襲われた。
そうして黙っていると彼の鞄を預かった使用人が突然、頭を下げる。
「お坊ちゃま。今朝の件、ご迷惑をおかけしました。大変、申し訳ございません。」
今朝の件とは、彼らが乗る車が故障した出来事だ。
おかげで元の予定は狂ったが、その代わりに学校というものをその身で体験できた。
「気にするな。とは言わないが、必要以上に気負うな。」
「左様ですか。………ありがとうございます。」
踵を絨毯に沈ませながら自室へと行く。
側には上着や鞄を預かった使用人がいる。
「お坊ちゃま。明日のご予定ですが、」
「明日は学校だ。」
「!学校、でございますか…?」
使用人が驚くのも無理はない。
何せ、彼らの雇い主かつ輝の父は義務教育以降の学校を不要と判断していたからだ。
故に、今日この日まで輝が高校へ顔を出すことはなかった。
「あぁ。そうだ。」
「………僭越ながら。理由を聞いてもよろしいですか。」
「理由か。」
部屋の前。ドアノブへかけた手を止める。
彼自身、学校に行くという行為へどのような意味づけをすればいいか迷っていた。が、そこで柳留唯との会話を思い出す。
「………無駄ではないからさ。少なくとも、得るものはある。……父には私から伝えておく。」
「畏まりました。」
使用人の返事と共に自室へ入る。
「ふ。」
輝は小さく息をこぼして、明日からの学校生活への期待を内にし体を休めるのだった。




