有名な奴
「つ、つかれたぁ。」
激動の1日を終えた俺は、息を吐き肩の力を抜く。
結局、輝と浅の雑巾がけ対決は勝敗が決することなく終わった。驚くことに、2人のスピードは同等だったのだ。
なんやかんやで掃除後の放課後。
まだ輝が学校に不慣れだと思い、声をかけに行く。
「よっ。輝。帰り道、大丈夫か?」
「全く。誰に聞いている。問題など、あるわけなかろう。」
あいも変わらず偉そうに腕を組み答える。
「だが、ついて行きたいというのなら許可してやろう。」
「お前なぁ…。ま、いいや。そんじゃ、帰ろうぜ。」
2人で帰りたいのなら素直に伝えろと言いかけたが止めた。
この1日で理解したが、輝は中々素直ではない奴なのだ。わざわざこちらから指摘するのも億劫である。
そうして学校の敷地を出て、付近の住宅街を並んで歩く。
「お前、普通は車使って移動してんだろ?よく帰り道覚えてんな。」
「当たり前だ。ワガハイを誰だと思っている。」
「誰って…輝だろ?……そういやお前の家って有名なとこなのか?」
彼の姓は明星。なんとも華やかな字だ。
俺が知らないだけで、もしかすると有名企業の子息であるのかもしれない。
そんな俺の疑問に、輝は眉をひそめて答える。
「なんだ。知らないのか。明星、といえば明星食品だろう。」
「あー。だしとか売ってる…。え!?お前、の家ってあの明星なのかよ!?」
「ようやく気付いたかマヌケめ。」
明星食品といえば創業150年、戦前から存在する大企業だ。その子息が目前にいるというのは不思議な感覚である。
「じゃ、将来は明星食品の社長か。」
「………あぁ。そうだな。」
珍しく歯切れの悪い態度だった。
後を継ぐことに対し、何か悩みがあるのかと聞こうとした瞬間。突然、輝が駆け出す。
「お、おい!どうしたんだよ!」
「愛らしい猫がいたのだ!またとない機会!追うぞ!」
「放っといてやれよぉ…。」
俺の静止も聞かずに走る。
疑問を口にするタイミングを逃してしまったが、今はとにかく彼を追うことにした。




