雑巾がけをする奴
騒がしい朝の時間を終えるとあっという間に放課後。学生は皆、己が用事のために散り散りになる。
その前に。我が校では掃除が行われることとなっていた。各々、教室や廊下に行き、またそこで役割をこなしていく。
俺は教室の雑巾がけを担当することになった。とはいっても、クラスの人数が少ないので廊下も雑巾がけしなければならない。
が、それはさほど問題ではなかった。
問題なのは、同じ担当に輝がいるということだ。ついでに浅も。
「…よし。やるぞ。」
腕をまくり用意万端。あとは他のふたりの用意のみだ。
「おいキサマ。まさか、ワガハイにこの布切れを使えと言っているわけではあるまいな?」
早速、輝がつっかかってきた。
予想通りといえば予想通りではあるものの、やはり先は長そうだ。
「わりぃけど当番は当番だ。ほら、やるぞ。」
「………断る。この布切れはワガハイにふさわしくない。」
「ガキかお前は!」
手にした雑巾に不満げな輝。親指と人差し指で雑巾をつまみ怪訝な顔をしている。
さてどうしたものかと考えていると、閉口していた浅がおずおずと言う。
「ぞうきんが……気に入らないなら、これは……どうですか。」
そうして見せつけるのは、変わらぬ布切れ。しかし、ただの雑巾には見えない。
何故ならその布地はザラザラとしたものではなく、フェイスタオル等を再利用したかのような手触りのよい生地だったからだ。
オマケにカラフルな花、恐らくコスモスやガーベラが散りばめられている。
正直、これはこれで輝の気が変わるとは思えないが。
「ほう。分かっているではないか。これこそ、ワガハイに相応しい…!」
「良いのかよ!?」
「なんだ。ワガハイに意見か?」
「意見ってか、ただの驚きだ…。」
「ならばよし。」
イマイチ輝のセンスが分からない。
しかし、当の本人は満足しているようなのでこれ以上深掘りしないでおく。
懸念していた輝は乗り気である為、俺も安心して雑巾がけに専念することにした。
ジャージの袖をまくって、地面に膝をつく。そして直角を作りながら白いタイルを吹いていった。
そのまま順調かと思った掃除だったが、きゅっきゅっという素早い摩擦音が嫌な予感を加速させる。
「!おい輝!あぶねぇぞ!」
視線の先には両手で雑巾を押し付け、クラウチングスタートのような体勢のまま走る輝の姿。いわゆる、一休さんがけである。
「なんだ。雑巾がけとはこうでないのか。」
「そうだけどそうじゃねぇんだよ。それじゃあ、怪我しちまうからな。いいか。こうやって拭くんだよ。」
と、お手本を見せようとしたものの、当の本人は体勢を変えずそっぽを向く。
「ふん。ワガハイよりも遅い奴の言葉を聞くつもりはない。言うことを聞かせたくば、スピードで勝ってみせるのだな。」
「いや、だからあぶねぇから、」
言い切る前に浅の上擦った声がした。
「そ、その挑戦……受けて、立ちます…!」
「浅!?」
「………安心、してください…。わ、私……そうじ、得意なんです……!」
「い、いや。そういう問題じゃ、」
「は!その意義やよし!この明星輝が受けて立つ!」
「あぁもう!じゃあ俺が審判やるよ!」
話を聞かない2人に折れ、雑巾がけのスピード対決という不毛な勝負を見届けることになった。
本音を言うならば、早く掃除を終わらせてしまい。
しかし輝が妙にイキイキしているので、この状況を受け入れることにするのだった。




