動かない奴
「どうした底辺ホスト。早く何か話せ。」
偉そうに腕を組む少年に、俺と静奈の登校は邪魔だてされていた。
傲岸不遜な態度にあてられつつ、俺は答える。
「あのなぁ。そもそも名前も知らねぇ奴と悠長におしゃべりするつもりはねぇよ。まず、名乗るべきだろ。」
「む。名乗りか。いいだろう。ワガハイは明星輝。姓、名、共にワガハイに相応しく神々(こうごう)しいだろう?」
「そうだな。こーごーしいな。」
「分かればよし。で、キサマらの名は?」
相手が名を名乗ったのだから俺もそうするべきだろう。
少し背を伸ばし口を開く。
「俺は柳留唯。」
輝ほどで神々しい名ではないが、俺は自分の名を気に入っていた。
唯一に留まる、つまりはオンリーワンというのが俺の名。両親が考えに考えてくれたことが分かり、誇らしい気持ちだ。
「………私は、柊静奈。」
「ほう。留唯に静奈か。特別に覚えといてやる。」
「そりゃどうも。にしても輝。お前、学校どこなんだよ。ちんたらしてると遅刻するんじゃねぇのか。」
考えてみれば、輝は制服すら着ていない。制服がない学校なら理解できるが、そうでないなら問題だ。
すると輝は鼻を鳴らす。
「ふん。学校などという下らん場所に行くつもりはない。ワガハイの時間は有限だ。無駄なことに裂く暇はない。」
「…………ということは……行ってないって、こと?」
「籍は置いてある。確か、摩訶高とかいう珍妙な所だ。」
「うちじゃねぇか!!」
確かに摩訶高であれば出席せずとも卒業できるが。しかしだからといって、一度も学校へ来ないという勿体ないと思ってしまう。
学生たるもの、自らの足で歩き、机へ向かい、級友と交流を深める。それが俺の理想とする姿だ。
「よし。輝。今から学校行くぞ。」
「ワガハイが?キサマらと?」
「あぁ。そうだ。ほら早く!」
俺の言葉に対し、輝は目を細める。何か言いたげな顔だった。
が、出るはずの意見を呑み込み、ため息をついた。
「よかろう。だが、ワガハイは一歩も動かんぞ。無駄は嫌いだからな。」
「一歩も……。じゃあ、私達が連れて行かないと……だね。」
「うーん。そんじゃ、引っ張ってくか。」
輝の腕を掴み、引っ張る。
しかし、意外にも相手の力は強く、びくともしない。
大地に根を張ってしまったのか、宣言通り一歩も動かないのだ。
「っ。静奈。片腕を頼む…!」
「…………了解。」
二人がかりならばどうだと思い、右腕を俺、左腕を静奈が引っ張る。
「せーのっ!」
「ぐっ……。」
されども輝は眉ひとつ動かさなかった。その頑固さに驚きつつ、俺は兎に角次なる策を講じるのだった。




