気分屋な奴
「え、えっと……盗み聞きしてしまって……すいません……。」
浅は忙しなく指を動かす。
俺はまず彼女を安心させるために笑顔を作ることにした。
なるべく自然に穏やかに。
「いや、謝る必要はねぇよ。そもそも不和に連れられてきたんだろ?」
「えぇー。わたしが悪いみたいに聞こえるなぁ。」
「…………んなことは言ってねぇよ。浅連れてきてくれてありがとよ。」
「いぃえ。どういたしまして。」
あいも変わらずマイペースな不和。しかし、今の状況では場を和ませるような、そんな気遣いを感じさせた。
気のせいかもしれないが。
「で、だ。浅。その、どうしてイメチェンすんのを辞めたんだ?」
「………それ、は……。」
言い淀む様子は、やはりよほどの事情があるのだろうかという予感を呼ぶ。
踏み込むべきではないのか。
情けないことに、またうじうじとした感情がやって来た。
だがそれを断ち切るように不和が手を叩いて告げる。
「そーだ。どうせならクイズ形式にする?わたしたちが理由を当てるの。」
「クイズか。おもしれぇな。」
「どう?浅ちゃん。あ。答えられたらジュース奢ってねぇ。」
「わ、分かりました…!」
「よっしゃ!気合入れていくぜ!」
こくりと頷く彼女を見て、不和は笑う。
「よぉし。それじゃあ、わたしから答えるね。……うぅん。イメチェンを辞めたのは、気分じゃなかったから?」
「……浅はお前ほど気分屋じゃねぇと思うぞ?」
「えー。じゃあお腹が空いて気分じゃなかったから?」
「さっきと同じじゃねぇか!」
「違うよぉ。で、どう?浅ちゃん。」
真面目に答える気があるのか無いのか、彼女はどう考えたって正解とは程遠いことばかりを口に出す。
そんな彼女のペースに戸惑いつつも、浅は言う。
「え、えっと……答えは、違います…。」
「ざんねーん。あっ。それじゃあ天気が曇りで気分じゃなかったから、とか?」
「だからさっきと同じじゃねぇか!?気分から離れろ!」
第一、真面目な浅のことを鑑みるとのらりくらり生きているようには思えない。
なんて感じているとふと別の考えが浮かぶ。
不和はもしや、わざとこんな軽い答えばかりを出しているのではないか。何か、彼女なりの意図が隠されているのかもしれない。
俺の予感に沿うように不和の、のんびりとした声がした。
「うーん。でも、気分で何かするのも悪く無いと思うけどなぁ。」
「気分で……ですか…?」
「そうそう。嫌だと思ったらふらふら逃げてもいいし、逃げるのを辞めたい時はビシッと背筋を伸ばして立ち向かえばいい。それだけだと思うよ。」
それはつまり、今は逃げてもいいと。いや、言い換えれるならばこの瞬間ムリに変わる必要はないということなのだろう。
だが、それでは俺が手伝うことなどないということだ。
見捨てるわけではないが、一歩も歩み寄らずにいる停滞は少しの恐れを呼び起こす。
不和は構わず、ゆったりとした口調で続ける。
「だからぁ。今、浅ちゃんがやりたいことをやってみよう。この人も手伝うし。ね?」
「!あ、あぁ!勿論!」
思わぬ言葉に驚く。
それと同時に舌を巻くような気持ちになった。
なるほど。無理にイメチェンをせずとも、ただ彼女のしたいことを手伝うだけでクラスメイトとして接することが出来るのだ。
俺は失念していた。
浅をイメチェンさせることばかりに意識が向いていたのだ。それでいて、彼女自身の意思を蔑ろにしていた。
不和の方が、よほど浅のことを見ている。
「……私の……やりたいこと…。」
「そーそー。なにかある?」
「………………のり………。」
「「のり?」」
上手く聞き取れずに首を傾げる。
「ふ、ふたりのりを……してみたい、です…!自転車の!」
顔を見合わせる。
手伝うとは言ったものの、あくまで法律遵守の方向でいきたい。
なので、どうにか彼女の願いを形にするため作戦を練るのだった。




