迷う奴
「おはよう浅!」
登校した俺は浅へ声をかけに行く。
「お、おはよう……ございます。柳さん…。」
今日び控えめな印象を受ける浅。だが、今はイメチェンに挑戦中。
きっと、あと数日をすれば彼女が自分に自信を持てるようになるはず。
「そんでよ。次は何する?なんも決まってなかったら美奈さんにでも聞いて…。」
「そ、その話…ですが、」
おずおずと口を開く。
「イメチェンは……もう、いいかなと……思いまして……。」
「そ、そうか。…また、なんかあったら言ってくれよ!」
「……………はい。」
彼女の様子は何処かおかしかった。少なくとも俺はそう感じた。が、それは気のせいかもしれない。
出会ってほんの数日。そんな関係性から、相手の何が見えるというのだ。
それに、この違和感はただの杞憂かもしれない。彼女は幼子ではないのだ。他人が心配しようがしまいが、問題ない可能性はある。
それでもやはり、胸には小さなつっかえがあった。
棘ほど鋭くなく、しかし確かに異物であると主張する不和。
一体どう対処すればいいか分からないまま、席につき朝のホームルームを過ごした。
休み時間。トイレへ行き、教室へ戻る。
その途中。白い廊下を歩いていると、突然後ろから袖を引っ張られる。
「!?」
ややバランスを崩しながら後ろを見ると、そこにはクラスメイトの楠橋 不和がいた。
「ど、どうしたんだよ。いきなり。」
「べつにぃ。ただお話しようと思っただけだよぉ。………大好きなクラスメイトとお話するのに理由が必要かな?」
「……お前、相変わらず適当言うよなぁ。ま、いいけど。」
ヘラヘラと笑い、大好きなどとのたまう彼女の言葉はそのまま信じてはいけない。
話半分ほどで充分だ。でなければ気力がかなり削がれてしまう。
「……きみ、最近よぉく話してる子がいるでしょ?どうしてかなって、気になったんだぁ。もしかしてその子が好きとか?」
「ちげぇよ!恋バナ好きすぎだろ!」
「あはっ。他人のは面白いからねぇ。」
廊下の壁にもたれ、腕を組む。
「とにかく、そういうわけじゃねぇよ。ただ浅がイメチェンしてぇっつうから手伝ってんだ。……まぁ、止めるらしいけどな。」
「ふぅん。…………そもそも、どうしてイメチェンしようとしたの?」
「あー。あいつ、影が薄いって言ってたからよ。なら存在感出すためにイメチェンしようって話になったんだ。」
「へぇ。でも、もうイメチェンはしないんだよね。」
「………あぁ。そうみたいだ。」
肯定するものの、やはり気になる所はある。
どうして突然、イメチェンをやめるだなんて言い出したのだろう。
気を張るのが疲れてしまった、だとかそんな理由か。もしそうなら、俺が口出しすべきではないかもしれない。
結局のところ、今どうすべきか分からない、堂々巡りの状況というわけだ。
「別に悩むぐらいなら何もしなくていいんじゃないの?」
「え。」
「無理に踏み込んだところで面倒だもんねぇ。クラスメイトって言っても他人だし。」
「…………少なくとも他人よりは近ぇと思ってる。……だから、出来ることはしてぇ。」
あくまで俺は、だが。
確かに不和の言う通り他人と切り捨てられてしまうかもしれない。
しかし、本当にそれでよいのだろうか。
クラスメイトとやらはそれほど非情なものなのだろうか。
俺には分からない。病室で過ごすばかりだった俺には正解が見えてくることはなかった。
だからこそ。やはり、何もしないままは嫌だ。
「どうすればいいか分からねぇ。でも、何もしねぇのはやっぱ嫌だ。……まずは、浅と話す。行動はそれからだ。」
「…………………だってさ。浅ちゃん?」
「!?浅!?」
不和の寄りかかった壁。その後ろの曲がり角から浅がおずおずと顔を出す。
「いやぁ。念のために呼んでおいて良かったよぉ。わたしってば策士だなぁ。」
「…………最初から言ってくれりゃあ……。」
「それじゃあ意味ないよ。さぁ、お話しようか。」
不和の根回しに感謝を覚えつつ、浅と向き合う。
先の会話が聞かれていたとなると気恥ずかしさを感じるが、それは置いておこう。
今は目前の彼女と向き合う時だ。




