表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
摩訶高校の奴ら  作者: とんぼ。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/67

昼飯を作る奴

 せんのイメチェン作戦から数日。


 普段通り、学校へ登校する。そしてまた、普段通りの昼食。これといって異変もない。


 強いて言うならば俺の昼飯が購買頼みということか。

 いつもはお弁当なので、新鮮な気持ちで購買のパン争奪戦へと臨む。


 「…予想よりやべぇな。」


 ごった返す人は、自分が先だと他者を押しのけ、ひとつでも多くパンを得ようとしていた。


 ぎゅうぎゅうと両隣や前後から圧迫される。


 この瞬間ほど人体の骨に感謝したことはない。骨がなければ、俺はとっくにペチャンコの肉塊になってただろう。


 そうして、なんとか入手したパン2つを抱えて食堂の一席に座る。


 「………ん?」


 ふと地面を見る。


 そこにはヘトヘトでくたびれた人がいた。


 「だ、大丈夫か。せん!?」


 その人は細川ほそかわせんであった。


 「だいじょうぶ……です。」

 「あんま大丈夫そうには見えねぇぞ。」


 察するに、影の薄い彼女は人混みに揉まれてしまったのだろう。


 「昼飯あんのか?」

 「…………いえ……。その…ひとつも、買えませんでした……。」

 「そ、そうか。なら俺のを、」


 そう言いかけた瞬間、横から手が伸びてきた。


 「それでしたら私と一緒にお昼をとりましょう!」

 「新米にいまい先生!?いつの間に…。」


 軽快な声と共に現れたのは担任の新米にいまい先生だ。彼女は何やら紙袋を抱えている。


 「え、えっと……いいん、ですか…?」

 「勿論です!そうと決まれば移動しましょう!やなぎくんも!」

 「は、はい!」


 普段より幾分かおかしい調子に違和感を覚える。


 が、先生のことだ。心配はいらないだろうと思い、大人しくついていく。


 向かった先は調理室であった。


 先生はまず調理室内の冷蔵庫前に立ち、その扉を開ける。


 「いちから作るんですか?」

 

 パンを抱えながら覗き込んでみた。


 「はい!ですがすぐに作れますから!」


 冷蔵庫から取り出したのは卵、牛乳、ベーコン。それから紙袋に入っていた砂糖と小麦粉をテーブルに置く。

 材料を見るにホットケーキでも作るようだ。


 「せ、先生……。その、私……手伝います…。」

 「!本当ですか!それではせんさんにはホットケーキを焼いてもらいます。少し待って下さいね。材料を混ぜますから。」

  

 テキパキとボールに一式を入れてかき混ぜる。ぼんやりと眺めていると、先生と目が合った。


 「やなぎくんは目玉焼きとベーコンをお願いします!」

 「目玉焼きとベーコン?ホットケーキに乗せるんですか?」

 「もちろんです!ホットケーキとの相性は抜群ですからね!」


 確かに甘じょっぱさは格別だろう。想像するだけで思わず喉が鳴る。


 出来上がりに心を弾ませながら、フライパンの用意を始め、卵とベーコンを焼くことにした。

 それと同時に先生は手にしていたボウルをせんへと渡す。


 「よし。生地は完成です!後は任せましたよ!」

 「は、はい……!」


 3つあるコンロの内、俺の隣。せんはそこにフライパンを乗せる。


 火をつけ温めると油を引き伸ばした。


 それからボウルの中身をフライパンへ流し込む。


 「え、えっと……ぷつぷつしたら、焼き加減を見て…裏返し、ですよね……。大丈夫でしょうか。」

 「心配いらねぇよ。応援してるぜ!」

 「………はい……!」


 肩をはり、せんはフライ返しを手にする。

 そして、パンケーキの下へと滑り込ませひっくり返す。のだが、勢い余って生地がフライパンから飛び出してしまった。


 「あっ………ご、ごめんなさい!!」

 「大丈夫です!まだ生地はありますから!」

 「は、はいっ……。」


 見守られる中、再び生地が良い焼き加減になる。


 「よし………あっ、」


 意気込みひっくり返す。が、また先と同じように生地はフライパンから離れ、コンロ下へと落下する。


 「ご、ごめんなさい…!ごめんなさい!」

 「んな謝んなよ。まだ生地も時間もあるしな。」

 「そうですよ。そう落ち込まないで下さい。」


 3度目の正直。次こそパンケーキが完成するだろうと思われた。

 そんな希望虚しく。結果としてパンケーキが完成することはなかった。


 あれから何度か試したものの、その全てが床やコンロに吸い込まれたのだ。


 3人で掃除をする。


 せんはおもむろに俯いていた。


 「…………ごめんなさい。こんなに、無駄にしてしまって……途中で……交代すれば、良かったですよね…。」

 「んな落ち込むなよ。それに昼ならあんぜ。」


 くいっと顎先をフライパンへやる。


 その先には蒸し焼きにした目玉焼きとベーコンがあった。


 「皆でアレ食おうぜ。それと、コレも。」

 

 そう言って購買で買ったパンの封を切る。中は切れ目の入っていない分厚い食パンだ。幸い、包丁はあるので切り分けられる。


 「……教師生活をしていて、食パン一斤を買う生徒を初めて見ましたよ…。」

 「先生、新任ですよね?教師生活ってそんなに長くないじゃないですか。」

 「こ、細かいことはいいんです!」


 先生の言うとおり、細かいことは気にしないことにした。

 何はともあれ昼食は確保できたのだ。早速、食パンを分けて目玉焼きとベーコンを載せる。


 「ほらせん。昼飯出来たし食おうぜ。」

 「は、はい……。その、ありがとうございます……。」


 手を合わせ、3人で昼食をとる。


 調理実習のような心地がして、なんとも不思議な感覚だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ