負けず嫌いな奴
休日。俺はお使いを頼まれ、醤油と洗剤を買いに行っていた。幸いお目当てのものはすぐに見つかった為、後は家に帰るだけだ。
帰り道。太陽は高く頭上にあり、生温い風が髪の隙間から首筋を撫でる。うたた寝には最適な日だ。
そう感慨に耽っていると覚えのある声がした。
「だーかーら!行こーぜ!ゲーセン!」
荒々しい少女の声。それはクラスメイトであるのぞみのものだ。
「………もう。いつまでついてくるのかなぁ。」
もう一方のぼやくような声は不和という少女から発せられるものだった。珍しい組み合わせに、つい声をかける。
「のぞみ。不和。2人してどうしたんだよ。」
「あ!柳!見てのとおり、コイツをゲーセンに連れてく途中だ!」
「見ての通りストーカーされてる途中だよぉ。」
「なっ!?ストーカーじゃねぇ!勧誘だ!か!ん!ゆ!う!」
のぞみはそう言うが、どこからどう見ても付き纏いの姿である。
何せ、電柱にしがみつく不和を無理やり引き剥がそうとしているのだ。通りがかる人間は何事かと目を凝らさずにはいられないだろう。
勿論、本人の意思に反して無理を強いるのは良いことではないと思う。が、これはある種のチャンスでもあると感じた。
というのも、不和は他人との接触を拒む傾向にある。なのでこの際、多少強引でものぞみと遊びに行くのは悪くないかもしれない。
「不和。せっかくだしのぞみとゲーセンに行こうぜ。」
「どうしてきみまでそんなこと…。まさかストーカー仲間?」
「ちげぇよ!のぞみと一緒にすんな!」
「そもそもあたしはストーカーじゃねぇよ!」
誘ってみたはいいものの、のぞみは乗り気でないようだ。
なので。
俺ものぞみと不和の綱引きに参加することにした。
「!?何してるの!?」
「来ねぇなら引きずってでも連れてこうと思ってな!…よし!いくぞのぞみ!」
「おうよ!」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!?」
2対1。どれだけ彼女が拒絶してもかなうはずがない。
2人でズルズルと不和を引っ張りゲームセンターへと向かう。
カラフルな建物の自動ドアを超えた先。筐体の愉快な音楽が俺達を迎えた。
「ほら座れ座れ!はやくやるぞ!」
「…………一回だけだよぉ。」
遂に折れた不和は格闘ゲーム機の前の丸椅子に腰掛けた。
ゲーム本体を隔てた向かい側に座るのぞみは腕捲くりをして準備万端といった具合。
そして、互いにキャラクターを選択する。
のぞみは以前と同じ青年のキャラクター。不和は意外にも、年老いた腰の曲がっているキャラクターを選択した。
「へぇ。中々見る目あんじゃねぇか。」
「…………まぁねぇ。」
「?強ぇえキャラなのか?」
首を傾げる俺にのぞみは人差し指をたて左右に振る。
「おうよ。コイツはクセがあっけど、使いこなせばおもしれーんだよ。だから、初代からマニアには愛されてんだ。」
「へぇー。」
マニア向けのキャラクターを使用するということは、不和はこのゲームの経験者なのだろうか。
そんなことを思っていると筐体から『ゲームスタート』という声が響いた。
2人は途端にボタンとレバーを動かす。
実力は拮抗していた。
体力を削り合い、時には攻撃をガード。
そうして遂に決着がついたのは時間制限ギリギリであった。
結果はというとのぞみの勝利である。
「ふぅ。あんた、案外強かったぜ。」
「…………そう。」
席を立つのぞみ。しかし、不和がそれを制止した。
「待って。まだ、終わりじゃない。」
「もっかいやりてーのか?いいぜ!」
「……わたしが勝つまでやる。」
「お前負けず嫌いなんだな…。」
「別に。そういうわけじゃないよぉ。」
俺の言葉に対し、無理に笑顔を作り答える。やはり、悔しいのだろう。口元が僅かに引きつっているのが確かに見て取れた。
今日は長くなりそうだ。なんて思い、2人の勝負を見届けることにするのだった。




