影の薄い奴
平日。当然、学生の身分である俺は学校へ行った。何事もなく平和に進んだ時間。気付けば下校時間となる。
帰り道にて。ぬるい風に頬を撫でられ、思わず欠伸が出た。
「ふわぁ。…ねむ。」
背伸びをする。
その時、ふと視界の隅に不思議なものが目に映った。
もの、というか人というか。
「あの……大丈夫ですか。」
制服を着て立ち止まる女子生徒へ声をかける。
彼女は何故かコンビニの自動ドア前で立ち止まっていたのだ。
「あ、ありがとうございます…!」
「え…ありがとうって…?」
首を傾げると、女子生徒は今にも泣き出しそうな瞳でこちらを見る。
「その……コンビニ、入りたかったんですけど……ドア、反応しなくて……。」
「そ、そうだったんですか。」
自動ドアが反応しないことなんてあるのかと驚く。確かに女子高生にしては些か小さいが、まさかそれほどまでとは。
なんて思っていると、女子高生が俺を見上げて続ける。
「あ、あの……私、細川 浅って言います……。摩訶高の……1年なんですけど……あなたも、ですよね?」
「おう。俺も摩訶高1年。柳 留唯ってんだ。よろしくな。」
自己紹介をしたところで、疑問が沸き立つ。
どうして浅は俺が1年だと分かったのだろう。無論、摩訶高の生徒であることは制服で判別できるが、学年までは難しい。
「なぁ。なんで俺が1年だって分かったんだ?」
「そ、それは……その、同じクラス……なので。」
「!?そうなのか!?」
「は、はい……。ずっと、教室で見かけました……。」
「教室でって、お前登校してたのかよ!」
「は、はい……。」
再びもじもじと指を動かす様を見つめる。いくら記憶を辿れど彼女の姿が思い出せない。果たして本当に教室に居たのだろうか。
だが、どうしても浅が嘘をついているようには見えない。だとすると、俺は彼女の存在を無下にしていたことになる。
大切なクラスメイトの1人をぞんざいにしていたことへ申し訳なさが募るばかりだ。
「浅。悪い。……その、今まで分からなくて。」
「い、いいんです。……いつも、そうなので……。」
困ったように眉を下げる。
「家でも……そうなんです。ご、ご飯の用意を忘れられたり……お風呂の、電気消されたり……。」
「イジメじゃねぇか!?」
「ち、違うんです。………気付いた時、皆、すっごく謝ってくれますし……。」
「そうか…。」
それほど謝られるというのなら、確かにわざとではないのかもしれない。
自動ドアのシステムすら誤認する彼女の薄さ。人であれば尚更、その存在を見過ごすことだろう。
だが、このままにしておくのは俺の心が許さなかった。
「よし。浅。イメチェンしてみようぜ!イメチェン!」
「え、えぇ!?どうして、ですか?」
「そりゃあ存在感を出すためだよ!そうすりゃ、お前も私生活で困らねぇだろ?」
「でも……そ、そんなご迷惑を…。」
「迷惑じゃねぇって!善は急げだ!」
半ば強引に浅のイメチェン大作戦を決行することになった。




