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摩訶高校の奴ら  作者: とんぼ。


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48/50

見てくれる奴

 やなぎ 留唯るいが去り、路地裏に残された不和ふわはうずくまる。


 直ぐ側には先ほど彼女が吐き出した吐瀉物があり、鼻を突く酸っぱい匂いが充満していた。

 

 不愉快極まりない空間であったが、今の不和ふわにとってはどうでも良い。


 「…………やっぱり、誰もわたしのことなんて……。」


 去っていったやなぎ。そして再婚するという選択をとった母。その全てに苛立つ。


 「裏切りもの…!」


 彼女は2度、裏切られた。


 1度目はやなぎ。彼は自身と同様、周囲となじめず他人を妬み、そのことに苦しんでいると思っていた。

 だが、どうだ。いざ学校へ行ってみると、彼は何もなかったかのようにクラスメイトと話しているではないか。


 それは彼女にとって何よりの裏切りだった。疎外感に打ちひしがれ、孤独を感じる、憐れで可哀想なやなぎ不和ふわはそんな彼にシンパシーを感じていたというのに。


 そして2度目の裏切りは母親。


 娘である不和ふわがいるにも関わらず、彼女は男を選んだ。不和ふわにとってその男は父などではなく、ただの母の恋人。血の繋がりのないただの他人である。

 そのような人間を家に招き入れる選択もまた、裏切りだ。


 肩を震わせ、目を瞑る。


 この場から一歩たりとも動きたくなかった。何処へ行ったって、彼女の居場所はないのだ。


 そう思っていると、乾いた靴の音がした。一緒にビニールが擦れる音も。


 「……?」


 目蓋を開け、音の方向したを見る。


 そこには先ほど去ったはずのやなぎがいた。


 「は……。なに、して…、」

 「何って片付けだ。………ゲロ、そのまんまにするわけにはいかねぇだろ。」


 やなぎはしゃがみ、ビニール袋からゴム手袋やら消毒液やらを取り出す。

 それと同時にペットボトルを1本手にして不和ふわへ渡した。


 「あとこれ。吐いたあとって、気持ち悪いだろ。なんか飲んだほうがいいと思うぜ。」

 「………………いらない。……何のつもりなの。」


 吐瀉物を片付けていた手を止めると、やなぎは強い瞳で不和ふわを見る。


 「何のつもりって見てのとおりだ。片付けてんだよ。それと、気分が悪りぃクラスメイトに飲み物渡しただけ。」

 「たのんでないよ。そんなこと。」

 「…………お前なぁ。」


 ひと息つき、言う。


 「じゃあ何して欲しいんだよ。そういうのって、言わなきゃ伝わんねぇだろ。………それに、んなトゲトゲしてたらマトモに会話も出来ねぇじゃねぇか。」

 「…………………。」


 分かってほしい。だというのに、相手を突き放す不和ふわ

 

 彼女はそんな相手からの評価にそっぽを向く。

 

 「きみだって、言いたいこと言い切れないくせに。……それで、もやもやしてたでしょ。」


 ぶっきらぼうないい口にあっ、と声が返ってくる。


 「そのことだけどよ。俺、ちゃんとすっきりしたぜ。」

 「…………それじゃあ、なんで静奈せいなちゃんを避けてたの?」


 咄嗟に恥ずかしくなり、頬を掻く。


 「………その。……静奈せいなが遠いとこ行ったみてぇで寂しかったんだよ。……んで、ヘソ曲げて避けたくなっちまったんだ。」

 

 寂しいというのに相手を遠ざける。そんな矛盾した行為の理由に気付けたのだ。

 

 「はっ。カッコ悪いね。さびしかった、とか。……男のくせに。」

 「あ!そういうのよくないぞ!」


 やなぎの答えを聞き、馬鹿馬鹿しくなった不和ふわは身体の力を抜く。

 

 そして右手を差し出した。


 「?握手か?」

 「違うよ。………掃除、わたしもする。」

 「お、おおっ。そうか。よし。そんじゃ早く片付けようぜ。」

 「…………うん。」


 2人はしゃがんで黙々と吐瀉物をふき取った。仕上げにアルコールを吹きかける。不思議と、先まで漂っていた淀んだ空気までも浄化されたような気分となった。


 そうしている2人に声がかかった。


 「お二人ともどうしたんですか。……まさか、体調でも…。」


 丁度通りがかった担任、新米にいまいだ。彼女はエコバッグを片手にぶら下げて2人へ駆け寄る。


 「いや。俺はなんともないです。」

 「で、では不和ふわさんの方が…?」

 「……わたしも……。いや、やっぱり少し気持ち悪いです。」

 「そうなんですね!それじゃあすぐにでも病院へ…!」

 「あっ。その、それほどでは、ないんです。」


 それを聞くと新米にいまいは胸をなでおろす。


 対するやなぎは慌ただしい彼女の様子を見て疑問に感じて口を開く。


 「先生。そういや早い帰りですね。」

 「えぇ。……実は不和ふわさんの様子を見に行こうと思っていたんです。手土産もありますよ!」

 

 大袈裟な、と不和ふわは確かに思った。しかし、そこであることに気付く。


 なんだ。自分を見てくれる人間がいるではないか。


 彼女が見ようとしていなかっただけで、彼女自身を見てくれる人は居たのだ。


 「…その、ありがとうございます。」

 「いえ!そんな!お家まで送っていきますよ!心配ですし!あっ。プリンでも食べながら行きます?」


 新米にいまいから渡されたカッププリンを凝視する。すると、不意に横からやなぎが小突いてきた。


 「不和ふわ。気ぃつけて帰れよ。」

 「うん。また、明日。」


 柔らかく微笑む。


 その姿に一切の不安を抱くことはない。きっと彼女は宣言通り、学校へと来てくれるだろう。


 確信、それから安心と共に2人と別れるのだった。

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