吐き出す奴
俺は走る。不和を追いかけるためだ。
彼女はファミレスを出ると左へ曲がる。ファミレスに隣接したビル。その横道。狭く薄暗い路地裏へと駆け込んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁ。……う、うぅ……。」
不和は路地裏へ入ったかと思うと壁に手をつき、胃の中から吐瀉物を吐き出す。
その姿を前に、彼女の名を呼ぶこど出来なかった。
「うっ……あ、あぁ……。」
体を震わせ、うずくまる。どう見たって普通の状態ではない。
「……………大丈夫か。」
「きみ、なんでここに、」
俺に気付いた不和は目を見開いたあと、きっと瞳を鋭くさせ睨む。
「近寄らないで!!」
足を止める。これ以上前へ行けば命を取ると言わんばかりの気迫だ。
「なに。なにか、用なの。」
「…………様子、変だったから来たんだ。………俺に出来る事があれば……。」
「ないよ。ていうか、ついてきたの?………もしかしてファミレスから…?」
「………あぁ。……お前の席の後ろにいたんだ。……悪い。」
やはり不和は気付いていなかったようだ。それほどファミレスでの出来事が彼女を追い詰めていたのだろう。
のろりと立ち上がり、侮蔑を孕んだ視線が此方へ向けられる。
「じゃあ聞いてたんだ。話。」
「…………あぁ。」
不和は乱暴に髪をかく。
「あぁ。……そう。そっか。それで、なに。面白いと思った?」
「は?んなわけ、」
「いいよ否定しなくて。……面白いでしょ?だって、ぽっと出の知らない男に母親取られちゃったんだもん。……わたし、父親が欲しいなんて言ってないのに。ただ、一緒に居れれば良かったのに。」
「…………不和……。」
一歩、彼女へ近付く。
こんな時どうすればいいか分からない。しかし、このまま不和の言葉を内に秘めさせるのは憚られた。
他人の考えなど外へ出さなければ伝わらないのだから。
「なぁ。一回、母親と話してみねぇか。」
瞬間、不和は顔を上げた。
「考え直すかもしれねぇだろ。……伝えにくいことは、そりゃあるけど。でも、家族なら分かって、」
「勝手言わないでよ!!」
鋭い視線と甲高い声。
自ずと足は止まる。
「家族だから分かってくれる!?そんなわけないでしょ!誰も、誰もわたしのことなんて分からない!誰もわたしを見てなんかいないんだからさ!」
「んなこと、」
「じゃあきみは今、わたしに何をしてくれるの。ねぇ。…………本当にわたしのことを見て分かってくれるなら、何してくれるのか教えてよ!」
俺が今、不和に対して出来る事。それはなんだろうか。
口を閉ざし、必死に探す。
「ほら!何も出来ないでしょ!きみは、わたしのことなんて見てないし、分からないんだよ!……分かったら、どっか行って!!」
涙交じりの声。くぐもった彼女の表情。
俺はただ静かに頷く。
「…………あぁ。分かったよ。」
そうして不和ひとりを残し、路地裏を出るのだった。




