気の使えない奴
ボーリングへ行った翌日。普段通りの学校。だが、気になることがひとつ。
俺は席の隣りにいるのぞみへ声をかける。
「なぁのぞみ。……昨日、不和とゲーセンに行ったんだろ?どうだった。」
「あー、それがよぉ。」
頭をかき答える。
「不和のやつ、あたしから逃げやがったんだ!だから今日は逃さねぇ!柳も手伝えよな!」
「まぁ、出来たらな。」
不和の姿はまだない。ホームルームだが遅刻なのだろうか。マイペースな彼女のことなのでそんな気はするが。
俺の予想は正しかったらしく、不和は午後からの登校だった。
お昼時、静奈たちと教室で弁当を広げる中、不和が現れたのだ。
しかし、談笑している俺達を見て、開いた扉を閉めてしまう。
「……不和ちゃん、どうかしたのかな………。」
静奈が立ち上がろうとする。
それを片手で静止して俺は席から離れた。
「俺、様子見てくる。」
「……なら、私も……。不和ちゃんのこと……心配だから……。」
「いや。飯食っちまえ。俺は食べ終わったからよ。大丈夫。任せろ。」
「…………うん。」
丁度、不和に話したいこともある。
せっかくのチャンス。俺は教室から去った彼女を追いかけるようにした。
「不和!」
廊下を出て階段を登る。そこに、彼女の姿があった。
片足を一段上の階段に乗せ、振り返る。
「どうかしたの。」
「どうかって…。お前こそどうしたんだよ。教室に居ないのか?」
不和は目を細めた後、小さくため息をつく。
空気の出る音はしなかったが、そう感じた。
「あんな所にいたら疲れちゃうからねぇ。だから、昼休み終わるまでは適当に時間を潰すよ。きみの顔も視界に入れたくないし。」
「…………俺が嫌いだからか。」
「別に。前に言ったけど、きみのこと嫌いじゃないよ。まぁ、前と同じ風にはみてないけど。」
「………?同じふうに見えないってどういう……あっ、おい!」
言い切る前に不和は走り去ってしまう。
勿論、追いかけるが、今は昼休み。人がひっきりなしに廊下を埋め尽くしている。
後ろ姿はすぐに見えなくなってしまう。
昼休みいっぱい校内を探したが、結局発見することは出来なかった。
彼女が姿を見せたのは昼休み明けの授業が始まってからだ。
「!不和さん!大丈夫ですか。どこか、体調でも……。」
教壇に立つ先生は心配そうに眉尻を下げる。対する不和はへらりと笑って答えた。
「少しお腹がいたくて。………トイレに籠もっていたんです。」
「!そうだったんですね。無理はしないでくださいね!」
「はぁい。」
彼女の言葉が嘘か真か分からない。しかし、どうにも俺にはウソとしか思えてならなかった。
授業が終わり、そんな不和へ話しかけようとする。が、やはり走って逃げていく。
「おい!不和!」
彼女が駆け込む先は女子トイレ。残念ながら足を踏み入れることは叶わない、
であれば待ちしかないと思い、壁に背を預ける。
「………あんた、何してんだよ。」
冷ややかな視線を投げつけてきたのはクラスメイトであるのぞみ。
「不和と話したいから待ってんだ。」
「便所前でか?そーいうのストーカーっていうんだぜ。」
「………確かにちょっと気持ち悪いか…。それはそれとして、女子が便所なんか言うな。せめてトイレって言え。トイレって。」
「あ?変わんねーだろ。つぅか、女子がってのは今どき遅れてんぜ。現代はバリアフリーだかんな。」
得意げに胸を張ってのぞみは言う。
「………それ言うならジェンダーレスとかじゃねぇの。」
「んなもん一緒だ!一緒!」
馬鹿2人の会話は他人からすれば頭が痛くなるだろう。いや、俺も好きで馬鹿をやっているわけではないのだが。
そうしてしばらく不和を待ったものの、一向に姿は見えない。
のぞみは腰に手を当て、退屈そうにする。
「しゃーねぇ。出てこねぇし、呼んできてやるよ。」
と、入り口へ入ろうとした途端、通りがかった静奈がその前を塞ぐ。
「………不和ちゃん、お腹痛いって、言ってた……。そっとしといた方が……いいと思う……。」
「つっても、ウソかもしんねぇだろ。なぁ柳?」
のぞみの問いかけに小さく頷く。
「まぁ、その可能性もあるよな…。」
「と、とにかくだめ…!体調の悪い人を追い回すのは、いくら2人でも…だめ…。………私、止めるからね。」
妙に頑固な様子。彼女にしては中々珍しかった。
しかし、ここである考えが浮かぶ。
女子の腹痛、不機嫌、体調不良といえば思い当たる節があるのだ。
毎月訪れるという、いわゆる生理。
もし不和がそうだとすると、俺はとんでもないことをしているのかもしれない。
「分かった。とりあえず、諦める。」
「えぇー!?なんでだよ!」
「………のぞみちゃんも、諦めよう。……ね?」
肩をつかむ静奈の迫力は有無を言わさぬほど強かったので、のぞみは引き下がることに。
そうして、休み時間はあっという間に終わった。




