40.名誉挽回
頭を下げるロリアとカミールをマリワは見ていた。
「今後王家の書棚を利用したいときは勝手なことはしないように。内容によっては本当に見せてはいけないものもあるわ。それこそ、契約違反と見なされるとこちらも危ういからね。」
「承知しました。」
カミールとロリアは声を揃えて言った。マリワはそんな2人のことをじーっと見つめる。
「王妃様?」
カミールが声をかけるとマリワは言った。
「うーん、ちょっと動機を知っておきたいわねぇ。危険を冒して王家専用書棚の本を読みたかった理由を。このあと、私の部屋へおいでなさいね。」
マリワは有無を言わせぬ笑顔でカミールとロリアにいった。
「仰せのままに。」
カミールは深くお辞儀し、ロリアもそれにならった。ロリアはチラリとカミールの表情を盗み見たようだった。
マリワは次にメリアに視線を移した。
「それにしても、メリア。あなたは本当に誠実な生き方をしているのね。花びらに入れるのに罪の確認は私の中で必須よ。悪く思わないで欲しいけどメリアのことも見させてもらったわ。でも、ここまで何もない人間は珍しいわ。強い信念のもとに、今まで精進してきたのね。そんなあなたには散々苦労をかけてしまったわ。成績の低下、周囲からは嫌われ、両親からも見放されたと聞いたけど、よく自力で評価を取り戻したわね。」
「恐縮です。」
メリアはお辞儀した。
「そこで、あなたが望めばだけど、研修が終了し、実戦経験も積んだら、1期生の部隊の1つをあなたに任せたいと思う。メリア、あなたには部隊長候補として頑張ってもらいたいの。」
メリアは目を見開いた。胸の奥がカッと熱くなるのを感じる。
「そして、お前の指導者として……。」
マリワがそこまで言うと、メリアたちが入室したときの扉が開いた。
「お呼びでしょうか。王妃様。」
姿を現したのはエルタ・イローサンだった。
「ナイスタイミング、エルタ。前に少し話したことがあったと思うけど、私の花びらを結成することにしたわ。手始めにこの娘を指導してやって欲しいの。」
「えぇと?いきなり何をおっしゃるのですか?私は王の専属護衛ですよ?花びら?……というか、これは何の集まりなんですか?」
エルタは困惑顔でメリアたちを見回した。
そんなエルタには一切かまわずマリワは続けた。
「ほら、前に相談したことがあったでしょう?私専属の騎士団を作りたいって。私の側に控える者として親しめるように“花びら”と称して。」
「それ、何年前の話ですか?それこそ、王妃になる前、王室護衛隊時代に酔っ払って話してたことじゃないですか。そんな戯言まだいって……。」
「エールータッ!!私は本気だといつも言っているでしょう!」
今度はエルタの方がマリワを無視してメリアたちに声をかけた。
「ごめんなぁ。王妃様の思いつきに振り回されちゃったわけか。大変だったろう?ほら、おいちゃんが甘いものおごってあげるから、みんな行こう!」
「話はまだ終わってないわっ!」
メリアはマリワとエルタのやり取りをヒヤヒヤと見ていた。マリワの表情を見るととても楽しそうであるのに気がついた。
……学生時代もこんな感じでじゃれていらしたんだろうな。
そうこうしているうちに、マリワは炎の魔法でエルタを焼こうとしていた。さすがのエルタも焦ってわぁわぁと手を上げて言った。
「悪かったって!なんか、学生時代の雰囲気に戻った気がしてつい。それで、花びらが何だって?」
問いかけるエルタにマリワは事の経緯を説明した。
「……なるほど。事情はわかった。確かに魔獣の脅威が増す現状を考えれば、新規の騎士団の立ち上げは頷ける。だが、ここの嬢ちゃんたちは納得してるのか。間違いなく危険な状況に身を置くことになるんだぞ。」
「覚悟はあります。」
メリアは言った。メリアに続き、カミールたちも頷いてみせた。
「魔獣への脅威に対応するだけじゃない。デルフィムが手を出せないようにするという目的もあってよ。それに、メリアにとってはなかなかにいい名誉挽回になるじゃないかと思うんだけど?」
マリワはイタズラっぽくメリアを見た。
「この上なく、嬉しいです。」
メリアは目頭が熱くなるのを感じた。本当に今まで散々だった。花瓶を割った日、すべてが狂った日常に投げ出された。授業は置いていかれ、射撃もままならず、親しい人たちを知らずに傷つけ、両親にも呆れられた。冷めた視線、嘲笑、それらを無視して自分を鼓舞してここまできた。課題に追われる毎日でも、やっぱり自分の意思に関係なくしたことで周りに疎まれるのは心のどこかで堪えていた。
「”花びら“の件は、婚約者の決定を公表したあと、状況が落ち着いたら発表するわ。いろいろ根回しや今後の運用なんかもよく固めておきたいしね。」
「この件が発表されれば、お前たちを見る周囲の目は一瞬で変わるわ。特にメリアはね。」
「メリア、良かったな。お前の戦闘能力は俺が磨いてやる。あ、もちろん、望むのであれば君達も。」
「本当ですか!」
ジオラスは目を耀かせた。一方でロリアは眉をひそめ、カミールは「私は遠慮します。」と笑顔で断った。
マリワは少ししょんぼりしたエルタに「2人は少しタイプが違うからね。」と声をかけた。
「あのぅ、私もよろしいですか?もしかしたらダンスに活かせるかもしれないので。」
オルレアはニッコリ笑った。そんなオルレアをエルタは目を丸くして見た。
「『胡蝶』の花形のお嬢さんじゃないか!?えぇ、俺に指導できるかな?」
「何を言ってるんだお前は。いつもどおりやればいいだろう。」
マリワは呆れて言った。メリアたちは思わず笑った。晴れやかな笑い声が室内に響く。ふと気がつけば、竜の気配も消えていた。




