38.イセンの告白
イセンは意を決したようにオルレアを見た。
「王子としての僕ではなく、ありのままの僕を素敵だと認めてくれたのは君だけだったんだ。僕は君のそばなら安らかな気持ちでいることができたんだ。」
イセンは思い切って言った。
「王が会議で決定する前から、僕は君のことが好きだった。初めて王室主催のパーティで君の演舞を見たとき、本当に綺麗だと思った。パフォーマンスが終わって、君が僕たちの席に挨拶に来て、君は他の令嬢達が見せるような媚びた笑顔じゃなくて、その、天真爛漫な微笑みが、どれだけ僕を惹きつけたことか。それに、その時、『元気がありませんね?いつでも私をお呼びください。私の演舞で元気にして差し上げますわ。』って、目の前で舞ってくれて。そのことがとても嬉しくて、忘れられなくて、僕はあのとき、本当に救われた気持ちになったんだ。」
「だから、君だけは妖精の魔法の力を借りずに、僕を、1人の男として好きになって欲しかった。」
イセンはここまで言うと真っ赤になって俯いた。そんなイセンを見て、妖精の魔法を使うなど姑息な手段を取りつつも、ちゃんと男気はあるのだと、メリアは感心していた。オルレアの方を見ると彼女もまた感激しているようだった。
「僕は父上の言いなりになったり、誰かに嫉妬するような情けない人間だ。でも、本当に変わりたいとは思っているんだ。僕は本当の意味でオルレア、君を惚れさせたいと思っている。今はまだ無理でも、きっと、必ず、そうなるように努力するから……!」
「だから、君には僕のそばにいて欲しいんだ!」そう言うと、イセンは顔を上げ、オルレアを見た。オルレアは感無量という表情だ。「ヤレヤレ、惚気るなら他所でやって欲しいな。」とメリアが思っていた時だった。オルレアはイセンの手を両手で包み言った。
「イセン様はそのままでいいのですよ。」
「え、」とイセンは目を丸くする。そんなイセンを優しく見つめながらオルレアは言った。
「私は美しいものを集めるのが趣味なの。身につけるものも、部屋に飾るものもそう。勿論、私自身の演舞だって、最高に美しく見えるように心血を注いでいるわ。そんな私が今1番手に入れたいのがイセン様だったの!ひと目見た時から、その麗しさに私はトキメキが止まらなかったわ。美しいものを手に入れるためなら、王妃になることだって、そのための努力だって苦にはならないの。イセン様は麗しいだけと言われることが嫌だとおっしゃっいましたが、麗しいことの何がいけないのです?美しさ、麗しさは裏切らないわ。麗しさこそ、この世の至上なのです!イセン様はそれをお持ちなのよ!だからイセン様!私はあなたが情けないとか、1番になれないとかはどうでもいいの。今のままで、最高に美しいあなたを私は愛していますわ!」
「え?」という空気が流れる。ロリアは呆れて首を振り、カミールは「あらあら。」といつものごと楽しそうだ。メリアとジオラスは不憫そうにイセンを見た。そんな中、マリワは「クククッ。」と肩を揺らしている。
「アーッハッハッハ!本当に勝てないわねぇ。美しければ、あなたの心意気云々は関係なく愛してくれるって!良かったじゃないイセン。ま、それでは納得しないのでしょう?あなたの言う意味で本当に惚れされるのは険しい道のりでしょうね。ま、努力なさい。」
マリワは笑いながらそう言った。イセン王子は真っ赤になりながら言った。
「き、君が今のままでいいと言おうとも、ぼ、僕は、本気で努力するから!」
イセンがそう言うと、オルレアは「今のままで本当にいいんですよ。」と困惑顔だ。イセンの言うようにオルレアを惚れさせることは、ヘタをしたら学園イチの成績を取ることより難しいのではと、メリアは思わずにいられなかった。
「さて、双方の気持ちを聞けたところで、婚約者はオルレア嬢を立てましょう。念のため聞くけど、それで異論はないかしら?」
マリワはメリア、ロリア、カミールに確かめるように言った。
「もちろんです。」
メリアは言った。ロリアとカミールもそれに頷く。
「では、婚約者は決定ということで明日にでも王室の会議で報告しましょう。」
ニコニコとオルレアはお辞儀をした。メリアはマリワの次の言葉を待った。これで終わりなはずがない。
「……それで、次の問題はあなたたちが王家の秘密を知ってしまったことね。」
メリアたちは身構える。イセンはおどおどとしながら、「母上、しかしそれには僕に責任が……。」とゴニョゴニョと言った。マリワはそんなイセンを制止した。
「もちろん、秘密を知られた過失はこちらにあるわ。でも、確認は必要よ。正直に答えなさいな。そうね。カミール、あなた達が知った王家の秘密を答えてくれる?」
これは予想していたことだった。マリワの言葉には有無を言わせぬ力がある。カミールはメリアたちに1度目配せした。「覚悟はいい?」とでも言うように。
「……王家は、妖精の存在を隠していますね。人間と交わることのなかった、純血の妖精の存在を。」
マリワはフーッと息を吐くと微笑んだ。
「やはり、気がついていたわね。その通り。王家は妖精と協力関係になった頃から、妖精の王族達を匿っている。彼らはとりわけ病に弱い。人間にとっては些細な風邪でも彼らにとっては死活問題よ。だから、住む場所と、人間の薬学の知識を提供し、代わりに、妖精達は王家に必要な魔法を伝授してくれるの。」
「そんなことを私たちに教えてしまっていいのですか?」
カミールは静かに聞いた。だが、平静を装っているようでも、瞳は輝き、頬は紅潮している。自分たちの処遇がわからない状況にも関わらず、カミールは興奮していた。メリアは少し呆れたが、ロリアもそんな感じだった。
「まったく、肝が据わっているにもほどがある。」
そう言いながらもマリワは楽しそうだ。
「先に言ったとおり、秘密を知られた過失は私たちの側にある。だから、家族を人質にして何かさせるような、厳しい制約をあなたたちに課すつもりはないわ。でも、秘密を知った以上は私の目の届くところに居てもらいたいの。」
「そこで、」とマリワは続けた。
「あなた達には私を支える“花びら”になってもらうわ。王家を守る護衛隊とは違う、私の専属の騎士団。王妃の剣。通称、”花びら“に。」




