37.煉獄
「今日、理由がわかったわ。」
マリワはデルフィムを睨みつけながら言った。
「あなたも妖精の魔法陣とやらを使っていたのね。」
マリワの言葉にデルフィムは狼狽える。
「いや、違うんだ。君は忘れているだけだ!ほら、学園時代に、魔獣討伐演習で。君は植物の根に足を取られて、襲ってきた魔獣から私が救ったのだ。」
「何を言っているの?逆でしょう?あなたが石に躓いて転んだの。それを私が助けたのよ。気がついたらあなたが私を助けたことになっていて、私はあなたに夢中になっていた。」
マリワはデルフィムに迫りながら言った。デルフィムは何も言い返せないでいる。
「恐らくこの恋の魔法はゆーっくりと、その効果が薄れるようになっているのでしょうね。違和感なく魔法が解けた頃には、後戻りできない状況になっている。先日、魔法陣を拝見したときに、花が徐々にしぼんでいくように魔法が解ける設計になっているのを確認しましたわ。本当に面白い魔法ですね。」
カミールはそう言ってニッコリと微笑んだ。
「そんなことまで……!」
デルフィムは口元をヒクヒクさせながら呟いた。
「古代文字をそこまで解読できるなんて、本当に賢いお嬢さんね。」
マリワはニッコリとカミールに微笑んだ。その時、イセンがか細い声でマリワに言った。
「は、母上。僕のことは……どう、お思いですか?」
イセンはデルフィムとマリワが恋愛結婚であると疑ったことはなかった。それが今日、父であるデルフィムも恋の魔法を使っていたとわかったのだ。ということは、父は母が本当に愛した人ではないことになってしまう。
……僕は母の愛した人との子ではなかった
青い顔のイセンにマリワは言った。
「安心なさい、イセン。たとえ愛する人との子供でなかったとしても、あなたのことは間違いなく愛しているわ。」
「母上……。」
イセンは静かに涙をこぼし、オルレアはそんなイセンの背を撫でた。
「さぁ。裁きの時間よ。」
マリワはデルフィムに向き直った。デルフィムは顔面蒼白だ。マリワの目が太陽のようなギラギラした黄金色に変わる。
「な、何をする気なんだ!」
デルフィムは恐怖のあまり怒鳴った。
「貴方は人の人生を滅茶苦茶にしたのよ。まぁ、王妃の仕事はやりがいがあるし、私以外に適任がいると思ったこともない。それに、可愛い子供に恵まれたことも感謝してるわ。」
マリワは真っ直ぐにデルフィムを見据えた。
「でも、それはそれ。私のもつ祝福は分かっているわね?」
……王妃様の祝福は「煉獄」、罪の浄化だ。
メリアはピリピリと魔力が張り詰めて行くのを感じ取っていた。
「少し反省なさいな。」
マリワはデルフィムに向ってウィンクした。その瞬間、デルフィムの周りに渦巻くように炎が巻き起こった、ように見えた。
「うぎゃああああああっ!」
デルフィムは情けない悲鳴を上げて倒れた。メリアは側に寄って確認すると、デルフィムは気絶していた。メリアは困惑している。確かに炎は一瞬確認できたのだか、果たしてこれは「煉獄」だったのだろうか?メリアはおずおずとマリワの様子を確認した。マリワは笑い出した。
「アーッハッハッハ!おっかしぃ!ちょっとフランベしたくらいで気絶しちゃうなんで。」
マリワは腹を抱えて笑っていた。イセンと王の側近達は青ざめた顔でそれを見ていた。
「あら、何をしているの?早く王を救護室にでも連れて行きなさい。この子達の処遇は私に一任させてもらうわ。話が終わるまで人払いしておいてね。」
「はっ!」
部屋にいた王の側近2人は王を抱えると部屋を出ていった。それを確認してメリアは改めて聞いた。
「今のが『煉獄』だったのですか?」
「そうよ。」とマリワは事もなげに答えた。
「さすがに、一国の王の精神を壊しちゃ不味いから、本当にちょっと炙っただけ。灸を据える程度にね。にしても、まさか気絶とはねぇ。」
マリワはヤレヤレと首を振った。そして今度はイセンの方を見た。イセンは蛇に睨まれた蛙の如く縮こまった。
「さて、イセン。あなたはどうしましょう?」
マリワに射るような視線を送られたイセンは震えながらも確かに答えた。
「ぼ、僕も裁いてください。僕も彼女達を自分の都合のいいように操り、メリアに至っては評判も成績も落とさせました。僕も裁かれるべきです。」
イセンはそう言うとキューッと目を瞑ってた。
「ふむ。」とマリワは言うとメリアに尋ねた。
「どうかしらメリア?あなたが1番被害を受けたのだから、あなたが決めていいわ。焼いちゃう?」
あまりにも気軽に息子を焼くか聞くマリワに、メリアは少し吹き出しそうになっていた、が、その衝動はぐっと堪えて言った。
「いいえ、王妃様。イセン様は魔法を成功させた訳でもなく、私も評価を取り戻しつつあるところですから、裁きまでは求めません。」
「そう。命拾いしたわね、イセン。」
マリワの言葉にイセンは緊張がとけたようにその場にへたり込んだ。
「あのーっ。」おずおずとオルレアが手を上げた。
「どうしたの?」とマリワが尋ねる。
「イセン様が先ほど私を婚約者にと言ったのは本心だったのでしょうか?それに、あの魔法陣の影響度を調節する水晶が1つだけだったのは、どういう意味があったのですか?」
「も、もちろん!本心だ!だって、」
一瞬言葉に詰まったイセンだったが、意を決したようにオルレアを見た。




