34.王城への召喚
「王家の本当の秘密は妖精の存在を隠していることなのよ。」
ロリアの発言に、メリア、ジオラス、オルレアはピンときていなかった。
「それを知ってしまうことって問題になるの?」
オルレアは首をかしげた。
「妖精の存在が知られれば、その力を利用したいと思う人が出てくるでしょうね。それは国内の話だけではないわぁ。妖精の強大な力を利用しようと、戦争が起こることだって考えられるわ。」
ロリアの説明に、カミールもつけ足す。
「妖精たちは私たちの国と契約関係にあるはずよ。でも、他国でよりいい条件を提示されれば妖精達だって他に力を貸してしまう可能性があるわ。そうなれば、今の世界のパワーバランスが崩れて、2国間だけの戦争で済まなくなってしまうことだって考えられるのよ。」
「魔法を使える人間がいる国ってのも珍しいしな。すべての国民が何がしかの魔法を使えるなんてうちの国くらいだもんな。」
ジオラスは言った。
「確かに。他国では聖女や聖人みたいな、神に選ばれた人間だけが使えるっていうものね。魔法を使えるだけでなく、妖精と協力関係にあるとわかれば、『他国へ侵攻しようと強大な力を隠している』とかありもしない陰謀論が流れて、隣国がこぞって攻撃して来るってこともあり得るね。」
メリアが言うとカミールは頷いた。
「そうよ。だから強大過ぎる力は漏らさずに隠すべきなの。それを私たちは知ってしまったのよ。」
「だからこそ、」とカミールは目を光らせる。
「私たちには王家のつよーい味方が必要なの。皆さん、添削よろしくね。」
カミールはそう言うと、サラサラと手紙を書き出した。「添削よろしく。」と言われたものの、ちょっとだけロリアとメリアが修正案を出したくらいで、ほぼカミールの書いたもので決まった。
「幸運を祈りましょう。」
カミールの言葉に、全員が頷いた。
王城への召喚状が届いたのは、その3日後だった。メリア、ロリア、カミール、オルレア、そしてジオラスは授業が免除となり登城することになった。
5人は無言で門をとおり、城の入り口へ向かった。メリアは立ち止まり、空を見上げた。晴れ渡った澄んだ青空が広がっている。それなのに、ピリピリするような、不穏な気配が漂っている。髪が少し逆立つような感覚があった。
……これは、たぶん、見られている。
メリアはブルブルと身震いをして気を引き締めた。
「緊張し過ぎだぜ?」
ジオラスはメリアをからかったが、歩き方がおかしくなっているところを見るとやはり緊張しているようだった。
王の侍従に案内されたのは、城で重要な会議が行われる際に用いられる最上階の部屋だった。見晴らしがよく、学園や王都の街並みもよく見えた、が、見方を変えれば逃げ出すことのできない部屋とも言える。メリアは室内を見る。部屋の中央に大きなテーブルがあり、その中央には豪奢な花瓶と、それと負けないくらい美しく花が生けられていた。ジオラス以外は中央テーブルの席にかけるようにと言われ、指定された席に座った。ジオラスはと言うと、奥の別室で待つように言われ、心配そうにメリアに視線を送ると、言われた部屋に入っていった。
「フフッ、彼って本当にあなたが大事なのね。」
カミールはメリアに微笑んだ。「本当にこの人のメンタルはどうなっているんだろう。」とメリアは思う。カミールはどんな状況でも微笑みを絶やさない。それどころか、大変な状況ほど楽しんでいる気配がある。
メリアが探知魔法を使うと、テーブルの中央の生け花から怪しげな気配。ジオラスが連れて行かれた部屋にも、隠された何かの気配があった。ピリピリして待つと、メリア達が通ってきたところとはまた別の扉が開いた。ギィッと軋んだ音を立てて扉が開くと、王のデルフィムとイセンが入ってきた。堂々としているデルフィムに比べて、イセンは明らかに萎縮していた。
メリア達は一斉に立ち上がり、王と王子に向って礼をした。
「召喚状が届いた理由はわかっておるだろう。だが、楽にしていい。かけなさい。」
王の言葉に「ありがとうございます。」と口々にに言って、メリアたちは椅子にかけた。言葉とは裏腹に、王の顔に笑顔はなく、瞳は鋭く光っている。
「さっそくだが、質問させてもらおう。婚約候補者であったお前たちがお披露目会に来なかった理由を誰か説明してくれるかな?イセンの側近によれば王族のみが管理する花園にいたということだが?」
「理由など予測はついているだろうに。」とメリアは思ったが、質問にどう答えるべきか考えあぐねていた。下手なことを言えば、学園を退学だけでは済まないのではと思えた。
こんな状況であるのに、「ウフフ。」と笑ってカミールは立ち上がった。
「恐れながら陛下。私たちはこの婚約者候補争いが茶番だと気がついてしまったのです。私は光属性の魔法使いです。光属性は妖精の魔法に近いと言わていますから、以前から妖精の魔法には強い興味を持っておりましたわ。」
「パナケイア家の娘だな?では、この婚約者候補争いが茶番というのはどういうことかな?」
「私たちは魔法による行動制限を受けていましたわ。それは妖精の魔法でしかできないことです。人間の扱うことができる魔法は、自分達の属性に関連する生活魔法、攻撃魔法、探知魔法だけですから。それに、王家は妖精の王から特殊な魔法を授けられたと伝えられています。そうであれば、イセン様が何がしかの理由で妖精の魔法を使ったということになりますわ。」
「そして、ここにいるメリアは探知魔法の精度が格段に優れていますの。」
急に話題を振られて焦ったメリアだが、それを微塵も感じさせぬよう落ち着いて言葉を継ぐ。
「私は、数ヶ月間自分らしからぬ行動を続けておりました。目に余る行動は陛下のお耳にも届いていたかと存じます。しかし、誰から届けられたかもわからない花を生けた花瓶を割った日から、私は自分を取り戻すことができました。そのことから、私の部屋にあった花には何かの魔法がかかっていたと思ったのです。そこで、探知魔法をかけたところ、あの花園に行きつきました。」
デルフィムの顔つきが変わった。明らかに眉間のシワが深くなっている。ふと部屋が暗くなる。メリアは視線を僅かに動かし窓の外を見た。あれだけ天気が良かったのに、今にも雷雨になりそうな暗さだ。




