33.王家の秘密
イセン王子を抱えて帰って行く側近たちを見送ると、「さて」と言ってカミールはジオラスを見た。
「メリアを助けた素敵な騎士のあなた。きちんと挨拶したことはなかったわよね?すでにご存知かもしれないけど、私はカミール・パナケイア。よろしくね。」
カミールは上品にお辞儀した。そんなカミールに見とれてぼーっとしていたジオラスは、メリアに小突かれて我に返り自己紹介した。
「オレはジオラス・オピオン。メリアと同じ射撃部だ。今日は……たまたま中庭にいて、城壁の前で何かやってる君たちを見かけて、イセン様もその後慌てて走ってきたもんだから、気になってついて行ったんだ。」
「そうだったのね。あの時私たちだけではメリアを救えなかったわ。ありがとう。」
カミールが礼を言うのを見て、メリアも慌てて礼を言った。さっきは気絶してしまったのでお礼が言えていない。
「ジオラス!さっきは本当にありがとう。」
「いいって。役に立ててよかった。お礼はクッキーでいいぞ。」
軽口を叩くジオラスをメリアはまた小突いた。おかしくて2人で笑っていると、再びカミールが声をかけた。
「仲睦まじいところ悪いんだけど、ジオラス君の扱いはどうしましょう。私たちは仕方ないとしても、無関係の彼まで巻き込むのはいかがかと思うの。」
「どういうこと?」
メリアはカミールを見た。カミールの表情は相変わらずにこやかだったが、どこか不穏な気配がある。
「私たちが知ったことは恐らく国家機密に値するわ。この場所だってそう。妖精の魔法だってそう。例の水晶もね。私たちは直接術にかかっていた訳だから、真相を知る必要があったし、覚悟もあったわ。でもね、ジオラス君は違う。メリア、あなたを助けるためにここに来て、秘密を知ってしまった。」
「それってどうなるんだ?」
ジオラスはゴクリと生唾を飲んだ。
「何が何でも秘密を守らせるために王家が強行手段に出る可能性があるわ。例えば、ジオラス君の家族を人質に、王家の監視下にある機関で働かせるとか。」
「でも、オレは部外者だから、さっき急に妖精の恋の魔法だの、何だの言われたところでよくわかってないぞ?」
「バカね。でもその存在を知ってしまったでしょう。」
ロリアは呆れて言った。
「じゃ、どうしろって言うのさ?」
ジオラスは困惑して言った。
「記憶を消すのよ。」
「記憶を修正しましょう。」
カミールとロリアは同時に言った。ジオラスは固まっている。
「待って、待って!記憶を消すって、そんな簡単に!」
メリアは焦った。ジオラスは命の恩人なのに、こんな仕打ちいいはずがない。
「さっきの側近達はジオラスがいたのも見てる。こんな状況で記憶を消したところで、機密を知った疑いは晴れないでしょ。」
「それもそうね。」
ロリアは残念そうに言った。カミールも納得したようで、顎に手を当てて考えている。
「こうなったら、奥の手を使うしかないわね…。」
「奥の手?」
メリアは不審そうにカミールに聞き返した。またとんでもないことを考えてるのではないかと思ったのだ。「光属性は闇と共にある」発言から、メリアはカミールに対し、不穏な気配を感じていた。
「そう。私たちはお披露目会を無断欠席した上、本来の知られることのなかったこの花園で、妖精の魔法陣まで見てしまっている。だから、王家の人間を味方につける必要があるわ。その方に手紙を書くのよ。」
「まさか。」
メリアは呟いた。カミールはニヤリと笑う。
「パナケイア家は、王室の信頼が厚いからね。でも、文面については少し相談したいわ。このあと、私の部屋に来られるかしら?いつまでもここにいるわけにはいかないし。」
そこでメリア達はカミールの提案通りに花園を後にした。帰りは特に鍵開けのために特別なことをする必要はなく、城壁も近づけば出口が現れた。
そして、今はカミールの部屋で全員がお茶をしているところだった。カミールが入れた紅茶はプチチェリーのジャムが入っていて、その甘酸っぱい味は心身共に癒してくれた。さらに、カミールの部屋に行く前に、ジオラスは寮の食堂から軽食にとパンを持ってきてくれた。お披露目会が午前の開催だったため、全員お昼を食べていなかった。話はお腹を満たしてからということになったのだ。
「こうして皆で和やかに食事をとっていると、花園での出来事がまるで嘘みたいだ。」
メリアはパンを頬張りながら言った。
「このあとどうなるんだ。」
続けてジオラスが尋ねた。
「恐らく、王室から城に来るように召喚状が来るでしょうね。」
「私たちが欠席した理由を確認するのね?」
オルレアが言った。
「それもあるかもしれないれど、一番は口封じよ。何度も言うようだけど私たちは国家機密を知ってしまったのよ。」
カミールは言った。
「でも、王家は妖精の魔法を伝えられていることは史実としてあることでしょ。」
メリアが聞くと、今度はオルレアが言った。
「婚約者候補争いが操作されたものだってバレるのはマズイんじゃない?」
「それもそうなんだけどねぇ、一番の問題はわたくしたちが使い魔を見てしまったことなのよ。」
ロリアは眉間にしわを寄せて言った。
「使い魔って何なんだ?あの羽根が生えた猿みたいなやつか?」
ジオラスが聞いた。
「猿って。」とロリアは少し吹き出したが、真面目な顔で答えた。
「使い魔は妖精が魔法で作り出す魔獣よ。使い魔は契約魔法が失敗したときに、その対価を回収する役目を果たすと言われているわぁ。」
メリアは使い魔がイセン王子の胸に突進し、魂を抜き取ったのを思い返していた。
「じゃ、今回の恋の魔法は契約魔法だったの?」
メリアが聞くとロリアは答えた。
「王家に伝えられてた妖精の魔法の全てが契約魔法にあたるはずよ。妖精と契約して、その力を借りて魔法を使うわけだから。」
「で、だからなんで、使い魔を見ちまったことが問題になるんだ。」
ジオラスは混乱しているようだったが、ロリアは「わからないの?」と呆れている。
カミールは「まぁまぁ。」と穏やかに言って説明した。
「さっきロリアが言ったとおり、使い魔は妖精が作り出した魔獣なの。つまりね、妖精は今も存在してるってこと。歴史のなかでは、人間と交わって、純血の妖精はいなくなったことになっているけど。」
「と、いうことは!」
ロリアは劇がかって、人差し指を立てながら言った。
「王家の本当の秘密は妖精の存在を隠していることなのよ。」




