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距離をとって向かい合う俺とギデオン。
ギデオンは木剣で肩をぽんぽんと叩きながら口を開いた。
「模擬戦の条件じゃが、魔力で身体や剣を強化するのは構わん。じゃが、魔法そのものを放つのは禁止じゃ。あくまで純粋な力比べといこう」
「はい」
「決着は単純。真剣であれば致命傷となる一撃が入るか、あるいは降参して自ら負けを認めた時点で勝負ありじゃ」
「わかりました」
子供らしく、素直に頷く俺。
いきなり降参、なんてことは流石に出来ないよな。
離れた位置で様子を伺っているアランを横目で見つつ……。
俺は魔力を隠すのを止め、解放する。
「むっ、これは。本当に魔力を持っておったのか……!」
「ええ……。まあ、一応」
俺の周囲に漂い始めた気配を察し、顔つきを変えるギデオン。
いくら膨大な魔力があろうと、身に纏っていなければ意味がないからな。
ただの子供の身体で、魔力の込められた大人の攻撃なんて受けたら一撃で病院送り――否、この世界風にいえば教会送りか?
なんにせよ、無事ではすまないというわけだ。
ちなみに、俺が今使っているのは死属性の魔力ではない。
アッシュの血を引く人間として転生した俺ことノエルは、聖属性の魔力も別に持っているのだ。
死属性魔力と比べれば量は少ないが、表立って使える力としては十分といえる。
「それだけの魔力を纏えるのであれば心配はいらんな! 心置きなくいかせてもらおう!」
声を大にすると同時に、ギデオンの姿がブレた。
年齢を感じさせない鋭い踏み込みだ。
一瞬で俺の懐へと侵入したギデオンは、容赦なく木剣を横に薙ぐ。
子供相手だから手加減はしているようだが、普通の十歳児なら反応すらできずに吹き飛ばされているだろう。
俺は迫りくる剣筋を冷静に見極めると、半歩だけスっと後ろへと退く。
ブンッ、という風を裂く音と共に攻撃は空振りした。
「ほう……! 今のを避けるか!」
気にする様子もなく、再び剣を振るギデオン。
対して俺は、最小限の動きで躱しつつ様子見だ。
まずは手を出さず、相手の攻撃をやり過ごして実力を探る。
これは俺の、前世からの癖だった。
圧倒的な力を持つ【不死王】だった俺は、下手にこちらから攻撃を仕掛けると、相手を簡単に消し飛ばしてしまう。
無駄に人間を殺したくなかった俺にとって、後出しで相手の力量を測り、殺さない程度に手加減をする戦法は、ルーティーンのようなものなのだ。
「はぁっ!」
空気を震わせる連続攻撃。
一撃、二撃、三撃……。
打ち込まれる度に、ギデオンの剣速が上がっていく。
――ギデオンは本当にただの引退騎士なのだろうか?
一瞬、そんな言葉が脳裏をよぎる。
全身を動かして避けるのが面倒になった俺は、木剣の切っ先をスっと上げる。
ギデオンの猛攻を直接受け流すことにしたのだ。
カンッ! パァン! ガガンッ!
乾いた音が裏庭に響き渡る。
不死王は魔法主体の魔物なのだが、前世の初期形態はただのスケルトンだった。
そのため、剣で戦った経験も豊富なのだ。
騎士やら冒険者やらの達人たちと剣を交え、その技を盗み見してきたおかげで、並みの剣術ならあくびをしながらでも捌ける。
「すごい……! あんなに速い先生の剣を全部避けて、それに打ち合ってる。やっぱりノエルはすごいよ!」
外野で見学していたアランが、興奮したように声を上げた。
その声が聞こえたのか、あるいは俺の技量にあてられて火がついてしまったのか。
「ガハハハハ! 見事じゃ! ならば……これはどうだ!」
ギデオンの全身から、先ほどまでとは桁違いの魔力が噴き出した。
「……え?」
ギデオンは大地を抉るような踏み込みと共に、大上段からの振り下ろし――いわゆる、唐竹割りを放ってきたのだ。
この人、俺が十歳の子供だって忘れてないか?
驚きつつも、俺の身体は勝手に反応していた。
まともに受ければ木剣ごと叩き割られる。
俺は自ら相手の懐へと潜り込んだ。
向かってくるギデオンの剣の側面を叩き、力の流れをズラす。
ズンッと地面が揺れ、ギデオンの渾身の一撃は俺のすぐ横の土を深く抉った。
空振りの勢いでギデオンの体勢が前のめりに崩れる。
「なっ――!?」
俺は、無防備になったギデオンの手首。
剣の根本をめがけて、下から木剣を跳ね上げた。
鋭い打撃音と共に、ギデオンの持つ木剣が弾き飛ばされる。
俺は手首を返し、クルリと木剣を反転させると……。
そのまま、目を見開いて硬直するギデオンの喉元へとピタリと突きつけた。
「…………」
「…………」
裏庭に沈黙が落ちる。
ギデオンは突きつけられた木剣と、俺の顔を交互に見つめ……。
やがて、ほうっと息を吐き出し肩を落とした。
「見事じゃ。ワシの負けじゃな」
その声には悔しさというより、驚嘆の色が滲んでいた。
信じられないものを見たというような感じだ。
これにて一件落着……。
って、何をやってるんだ俺は!?
ハッと我に返った俺は、慌てて木剣を下ろした。
適当に打ち合って、頃合いを見て武器を弾き飛ばされて敗北。
そんなプランを立てていたハズが、蓋を開けてみれば逆のことをしていた。
指導者相手に完全勝利を収めてしまっているではないか……!
そもそも、ギデオンがいきなり本気の攻撃をしかけてきたのが悪くないか?
防衛本能で身体が勝手に動いてしまった。
しかし、心の中で言い訳を並べ立てたところで後の祭りだった。
十歳の子供が、指導者を一騎打ちで圧倒したという事実だけがそこにある。
五百年かけて染み付いた戦闘経験というのは恐ろしいものだなと、自分自身でも驚いたのだった。




