↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

4

 距離をとって向かい合う俺とギデオン。

 ギデオンは木剣で肩をぽんぽんと叩きながら口を開いた。


「模擬戦の条件じゃが、魔力で身体や剣を強化するのは構わん。じゃが、魔法そのものを放つのは禁止じゃ。あくまで純粋な力比べといこう」

「はい」

「決着は単純。真剣であれば致命傷となる一撃が入るか、あるいは降参して自ら負けを認めた時点で勝負ありじゃ」

「わかりました」


 子供らしく、素直に頷く俺。

 いきなり降参、なんてことは流石に出来ないよな。

 離れた位置で様子を伺っているアランを横目で見つつ……。

 俺は魔力を隠すのを止め、解放する。

 

「むっ、これは。本当に魔力を持っておったのか……!」

「ええ……。まあ、一応」


 俺の周囲に漂い始めた気配を察し、顔つきを変えるギデオン。

 いくら膨大な魔力があろうと、身に纏っていなければ意味がないからな。

 ただの子供の身体で、魔力の込められた大人の攻撃なんて受けたら一撃で病院送り――否、この世界風にいえば教会送りか?

 なんにせよ、無事ではすまないというわけだ。

 

 ちなみに、俺が今使っているのは死属性の魔力ではない。

 アッシュの血を引く人間として転生した俺ことノエルは、聖属性の魔力も別に持っているのだ。

 死属性魔力と比べれば量は少ないが、表立って使える力としては十分といえる。


「それだけの魔力を纏えるのであれば心配はいらんな! 心置きなくいかせてもらおう!」


 声を大にすると同時に、ギデオンの姿がブレた。

 年齢を感じさせない鋭い踏み込みだ。

 一瞬で俺の懐へと侵入したギデオンは、容赦なく木剣を横に薙ぐ。

 子供相手だから手加減はしているようだが、普通の十歳児なら反応すらできずに吹き飛ばされているだろう。


 俺は迫りくる剣筋を冷静に見極めると、半歩だけスっと後ろへと退く。

 ブンッ、という風を裂く音と共に攻撃は空振りした。


「ほう……! 今のを避けるか!」


 気にする様子もなく、再び剣を振るギデオン。

 対して俺は、最小限の動きで躱しつつ様子見だ。


 まずは手を出さず、相手の攻撃をやり過ごして実力を探る。

 これは俺の、前世からの癖だった。

 圧倒的な力を持つ【不死王】だった俺は、下手にこちらから攻撃を仕掛けると、相手を簡単に消し飛ばしてしまう。

 無駄に人間を殺したくなかった俺にとって、後出しで相手の力量を測り、殺さない程度に手加減をする戦法は、ルーティーンのようなものなのだ。


「はぁっ!」


 空気を震わせる連続攻撃。

 一撃、二撃、三撃……。

 打ち込まれる度に、ギデオンの剣速が上がっていく。


――ギデオンは本当にただの引退騎士なのだろうか?


 一瞬、そんな言葉が脳裏をよぎる。

 全身を動かして避けるのが面倒になった俺は、木剣の切っ先をスっと上げる。

 ギデオンの猛攻を直接受け流すことにしたのだ。


 カンッ! パァン! ガガンッ!


 乾いた音が裏庭に響き渡る。


 不死王は魔法主体の魔物なのだが、前世の初期形態はただのスケルトンだった。

 そのため、剣で戦った経験も豊富なのだ。

 騎士やら冒険者やらの達人たちと剣を交え、その技を盗み見してきたおかげで、並みの剣術ならあくびをしながらでも捌ける。


「すごい……! あんなに速い先生の剣を全部避けて、それに打ち合ってる。やっぱりノエルはすごいよ!」


 外野で見学していたアランが、興奮したように声を上げた。

 その声が聞こえたのか、あるいは俺の技量にあてられて火がついてしまったのか。


「ガハハハハ! 見事じゃ! ならば……これはどうだ!」


 ギデオンの全身から、先ほどまでとは桁違いの魔力が噴き出した。


「……え?」


 ギデオンは大地を抉るような踏み込みと共に、大上段からの振り下ろし――いわゆる、唐竹割りを放ってきたのだ。


 この人、俺が十歳の子供だって忘れてないか?

 驚きつつも、俺の身体は勝手に反応していた。

 まともに受ければ木剣ごと叩き割られる。

 俺は自ら相手の懐へと潜り込んだ。

 向かってくるギデオンの剣の側面を叩き、力の流れをズラす。


 ズンッと地面が揺れ、ギデオンの渾身の一撃は俺のすぐ横の土を深く抉った。

 空振りの勢いでギデオンの体勢が前のめりに崩れる。


「なっ――!?」


 俺は、無防備になったギデオンの手首。

 剣の根本をめがけて、下から木剣を跳ね上げた。

 

 鋭い打撃音と共に、ギデオンの持つ木剣が弾き飛ばされる。

 俺は手首を返し、クルリと木剣を反転させると……。

 そのまま、目を見開いて硬直するギデオンの喉元へとピタリと突きつけた。


「…………」

「…………」


 裏庭に沈黙が落ちる。

 ギデオンは突きつけられた木剣と、俺の顔を交互に見つめ……。

 やがて、ほうっと息を吐き出し肩を落とした。


「見事じゃ。ワシの負けじゃな」


 その声には悔しさというより、驚嘆の色が滲んでいた。

 信じられないものを見たというような感じだ。

 これにて一件落着……。


 って、何をやってるんだ俺は!?

 ハッと我に返った俺は、慌てて木剣を下ろした。

 適当に打ち合って、頃合いを見て武器を弾き飛ばされて敗北。

 そんなプランを立てていたハズが、蓋を開けてみれば逆のことをしていた。

 指導者相手に完全勝利を収めてしまっているではないか……!


 そもそも、ギデオンがいきなり本気の攻撃をしかけてきたのが悪くないか?

 防衛本能で身体が勝手に動いてしまった。

 

 しかし、心の中で言い訳を並べ立てたところで後の祭りだった。


 十歳の子供が、指導者を一騎打ちで圧倒したという事実だけがそこにある。

 五百年かけて染み付いた戦闘経験というのは恐ろしいものだなと、自分自身でも驚いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。