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――side リゼットその2。
従騎士試験を終えた私は、近くにいた係の方から本試験の場所を聞く。
ノエル様たちは第二試験の最中で、機動演習場にいらっしゃるらしい。
聞いた通りに通路を進むと、広々とした訓練区画が視界に入る。
泥地や石壁、高低差のある足場。
さらに奥には、木と石で組まれた関門がいくつも並び、その間を受験者たちが駆けていた。
先ほど小演習場まで届いた歓声も、ここから上がったものなのだろう。
演習場全体を見渡せる観客席へ目を向けると、上段にギデオン様の姿を見つけた。
「おお、リゼット。そちらはもう終わったのか?」
私に気づいたギデオン様が、片手を上げる。
「はい。無事、合格することができました」
観客席へ上がりながら、私は小さな銀の徽章を取り出した。
――従騎士候補章。
試験の合格者に与えられるもので、仕える相手が騎士として正式に任官すれば、従騎士としての登録を進められるらしい。
「ほう、見事じゃ。まあ、お主なら心配はいらんと思っておったがのう」
「ありがとうございます」
徽章を胸元へ留め、外れないよう指先でそっと確かめる。
これでノエル様が騎士になられれば、私も任務へ同行できる。
まだ試験に合格しただけではあるが、目的へ一歩近づけたことは素直に嬉しかった。
「ところで、ギデオン様。そちらの方は?」
ギデオン様の隣には、全身を重厚な鎧で覆った方が座っていた。
兜まで身につけているため、表情はまったく窺えない。
ただ、ギデオン様の隣に座っていることからして、騎士団でも相応の立場にある方なのだろう。
「おっと、自己紹介が遅れたな」
鎧の方がこちらへ顔を向ける。
「俺はガレス・ヴァンホルト。階級は黄金騎士で、普段は若い騎士たちの教官をしている。ガレスでも教官でも、好きな方で呼んでくれ」
「リゼットと申します。ノエル・クラヴィエ様にお仕えしております」
重々しい鎧姿とは裏腹に、随分と飾らない話し方をされる方だった。
どう返すべきか迷っていると、ギデオン様が顎髭を撫でながら口を開く。
「ガレスとは昔からの付き合いでな。若い頃には、何度も共に任務へ向かった仲じゃ」
「昔と言うほど、老いたつもりはないんだがな」
「ワシから見れば似たようなものじゃろう」
「お前と一緒にするな」
ガレス様は大げさに肩を落とした。
階級の高い騎士同士となれば、もっと張り詰めた関係を想像していた。
しかし二人の間に流れる空気は、長年付き合いのある友人同士のものに近い。
「事情は分かりました。それで、こちらの状況はいかがでしょうか」
私は二人のやり取りを切り上げ、演習場へ目を向けた。
受験者たちの中に、黒い上衣を身につけたノエル様の姿が見える。
「うむ。ノエルなら順調に試験をこなしておるぞ」
「順調というより、規格外だな」
ギデオン様に続き、ガレス様も話に加わる。
「見ての通り、第二試験でも好き放題やってくれている。他にも何人か有望そうな受験者はいるんだが……あいつのせいで、どうにも霞んで見えてしまう」
呆れたような口ぶりながら、声はどこか楽しげだった。
やはり、先ほどの歓声はノエル様へ向けられたもののようだ。
その実力が認められていることに、胸の奥が温かくなる。
「ところで、リゼットだったか」
ガレス様が改めてこちらへ身体を向ける。
「お前はあいつの従者なんだろう。ノエル・クラヴィエという少年は、いったい何者なんだ?」
「クラヴィエ家の次男で、私がお仕えしている方です」
「いや、それは知っている。俺が聞きたいのは、あの力のことだ」
「でしたら、それ以上のことは私にも分かりません」
そう答えると、ギデオン様が愉快そうに喉を鳴らした。
「ガハハハ! まあ、リゼットは知っておったとしても、簡単には喋らんじゃろうな」
「ノエル様が他の方へ明かしていないことを、私の口からお話しするつもりはありません」
「なるほど。従者としては満点の答えだな」
ガレス様はやれやれと手を広げると、それ以上追及することなく、再び演習場へ視線を戻した。
けれど、先ほどの答えは嘘というわけでもない。
ノエル様が人には明かせない力をお持ちであることは知っている。
私の失われた腕や瞳を治し、魔族すら圧倒するほどの力だ。
けれど――。
ノエル様が、なぜそのような力をお持ちなのか。
どこで戦い方を学び、普通なら知り得ないようなことまでご存じなのか。
その理由を私は何も知らない。
だから、分からないという答えは半分だけ本当だった。
無理に聞き出そうとは思わない。
ノエル様が隠しておきたいことならば、今はそれで構わない。
いつか、ご自身の口からすべてを話していただけるほど、ノエル様から信頼を得ること。
それが今の私の目標だった。




