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「はああああっ!」
裂帛の気合いと共に、目の前の騎士が踏み込んでくる。
【瞬動】だ。
込められた魔力は十分で、速度もあった。
だが、真っすぐ突っ込むだけでは、動きを読むのは難しくない。
一瞬、かつての自分の姿が脳裏をよぎる。
ノエルやリゼットに剣筋を見切られ、何度も地面を転がされた頃の記憶だ。
僕は最小限の足さばきで相手の突進を躱し、すれ違いざまに訓練剣を振るった。
刃引きされた剣先が、その首筋の寸前で止まる。
「勝者、アラン・クラヴィエ!」
判定役の声が、練兵場に響いた。
踏み固められた土の上で、対戦相手が悔しげに膝をつく。
見守っていた騎士たちの間に、低いざわめきが広がる。
「また勝ったぞ……」
「ギデオン様の弟子だって噂だ。そりゃ強いはずだ」
「実力はあるんだろうが……辺境の出が、ずいぶん派手にやるものだな」
聞こえていないふりをして、僕は訓練剣を下ろす。
ギデオン先生に師事したことを、特別な肩書きにするつもりはない。
クラヴィエ領の出であることを、恥じたこともない。
大事なのは、何を守るために剣を振るうかだろう。
そんなことを考えていた時だった。
がしゃり、と重い金属音が響く。
それだけで、周囲のざわめきがぴたりと止まる。
先ほどまで好き勝手に話していた騎士たちも、慌てたように姿勢を正した。
「はいはい、そこまで。練兵場は品評会じゃないぞ」
入口に立っていたのは、全身を鎧で覆った男だった。
この合同訓練で教官を務めており、階級は黄金騎士。
七聖騎士に次ぐ、王国でも上位に位置する存在だ。
威圧感のある姿とは裏腹に、言葉の調子はどこか気安い。
「アラン・クラヴィエ」
「はい」
名を呼ばれ、僕は一歩前へ出る。
鎧の騎士は、がしゃがしゃと音を立てながらこちらへ歩いてくると、兜越しに僕を見下ろした。
「さっきのは気にするな。騎士団に入ると、剣より先に口が達者になる奴もいる」
「大丈夫です。言われたところで、僕の出身が変わるわけでもありませんから」
「……おい」
鎧の奥から、呆れたような声が漏れた。
「少しは落ち込んでいてくれ。せっかく慰める言葉を考えたんだぞ」
そう言って、鎧の騎士は肩をすくめる。
顔は兜に隠れているのに、不思議と表情まで伝わってくるようだった。
♦
合同訓練も終了し、僕は教官と並んで本部棟へと続く廊下に入った。
「騎士団の若い連中は、魔力があるとすぐ派手にやりたがる。速い、強い、だから勝てる。まあ、間違いではないんだがな」
「僕にも、覚えがあります」
隣を歩く教官が、兜越しにこちらを見やる。
「誰でも通る道だ。……だが今のお前は、派手さより先に勝ち筋を見ている。そういうところも、ギデオン仕込みか?」
「先生には、何度も叩き込まれました。それに、力任せではどうしても勝てない相手が身近にいたんです」
「ほう。ギデオン以外にもか?」
教官が、面白そうに声を上げる。
「はい。弟です」
「……弟?」
教官の声に、わずかな困惑が混じった。
「ノエルというのですが、僕とは比べ物にならないくらい強いんです」
そう口にすると、自然と声が弾んでしまう。
自分のことではないのに、胸を張りたい気分になった。
「お前も二年で白銀騎士まで駆け上がった秀才だろうに、持ち上げるじゃないか。身内びいきが入ってないか?」
教官が首を傾げるのも無理はない。
白銀騎士は最初の騎士階級である青銅騎士から二つ上の位で、青銅・黒鉄・白銀・黄金・七聖と続く騎士階級のちょうど真ん中にあたる。
そんな僕よりも強いとなると、黄金騎士や七聖騎士に並ぶ、国家最上位の存在ということになるわけだけど……。
今思い返しても、いや、騎士として研鑽を積んだ今だからこそ分かる。
ノエルの力は異常だ。
「むしろ、控えめに言っているつもりです。教官は今日行われる騎士入団試験の監督をされるんですよね? ちょうどノエルがその試験を受けに来るので、ご自分の目で確認してください」
「そこまで言われると、嫌でも気になるな。分かった、よく見ておこう。……ただし、特別扱いはできないぞ。試験は試験だからな」
「もちろんです」
ノエルなら、騎士試験で遅れを取ることはない。
……手を抜かなければ、の話だけれどね。
やる気なさげに剣を振るノエルの姿を想像し、思わず笑みがこぼれた。
「そういえば、お前はこれから遠征だろう。自慢の弟が試験を受けに来る日に限って、間が悪いな」
「……はい」
視線が床へ落ちた。
僕は今から任務で王都を離れるので、ノエルとはすれ違いになってしまう。
分かっていたことだけど、改めて言われると胸にくるものがあった。
「そんな顔をするな。遠征も立派な騎士の務めだろう」
「分かっています。助っ人も呼んでいますし、僕は自分の仕事を果たします」
「助っ人? まだ何かあるのか……」
教官は兜の奥で深く息を吐いた。
せっかくなら、答え合わせは試験本番まで取っておいてもらおう。
――あとは頼みました、ギデオン先生。




