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巨大な城門を前にして馬車が停車する。
「王都に到着でございます」
「ありがとう。助かったよ」
俺は御者に運賃を渡すと、リゼットに続いて踏み台に足を下ろした。
この馬車は、元々は定期便だったものを貸し切っただけなので、会場までは歩いていく必要がある。
「ガハハハ! 来おったか、ノエル。約束の刻限より早いとは、感心感心!」
聞き覚えのある豪快な笑い声に顔を上げた。
門の脇に立っていたのは、白銀の髪に立派な顎髭を蓄えた大柄な老人だ。
身に纏っているのは、五年前と同じ軍服のような服。
ギデオンだ。
相変わらず、遠目に見ても分かるくらい存在感がある。
「そんなに早かったか……?」
小さく呟きながら、城門のそばに設置された刻盤へ目を向ける。
約束の刻限までは、あと五分ほどしかなかった。
余裕を持って出たつもりだったが、思ったよりぎりぎりである。
ギデオンは俺よりも先に待っていたし、感心されるようなことではない気がするのだが……。
「貴族の中には、相手を待たせることで格を示そうとする方もおられます。約束の刻限より前に到着される方は、案外少ないのですよ」
首を傾げる俺に、リゼットがすぐ隣から補足した。
「……やっぱり貴族の付き合いって面倒だな」
やれやれと手を広げる俺。
貴族として生まれてから十五年経ったが、前々世の庶民感覚は未だ健在である。
そんなことを話しているうちに、俺たちはギデオンの前までやってきた。
「お久しぶりです、ギデオン先生」
「うむ。五年ぶりじゃな、ノエル。背も伸びたが、纏う空気も少しは変わったように見える」
満足げに頷くギデオン。
確かに、この五年で背は伸び、童顔気味だった顔つきも引き締まった。
子供用の簡素な服も卒業し、今は黒を基調とした丈の長い上衣に、革帯と動きやすいズボンを合わせた旅装を身につけている。
俺をひとしきり眺めたギデオンは、今度は隣に立つリゼットへ視線を移した。
「リゼットも一緒じゃったか」
「はい。ギデオン様も、お変わりないようで何よりです」
リゼットは背筋を伸ばし、丁寧に一礼する。
「今回は、エリーゼ様よりノエル様の付き添いを申しつかっております」
「なるほどのう。リゼットは腕も立つ上、礼儀作法にも明るい。少々気を抜きがちなノエルの付き添いには、うってつけというわけじゃな」
「母さんは俺を何だと思っているんだ……」
精神年齢だけで言えば、俺が一番上のはずなのだ。
しかし、思い返せば怠けた日々を過ごしていたので反論しにくい。
「いっそのこと、リゼットには従騎士という道もあるかもしれんのう」
「従騎士、ですか?」
聞き慣れない言葉に、リゼットは目を瞬かせた。
「騎士に付き従い、任務を補佐する者のことじゃ。騎士団の正式な階級ではないゆえ、そこから騎士へ昇格するわけではないが……。登録さえ通れば、仕える騎士の任務への同行も認められるわけじゃな」
「でしたら、ぜひ目指したいです」
即答だった。
「決断が早いな……」
「ノエル様のお役に立てるのであれば、迷う理由はありませんので」
真顔でそう返され、俺は思わず言葉に詰まる。
相変わらず、こういうところはまっすぐだ。
「ガハハハ! リゼットならそう言うと思っておったわい。じゃが、詳しい話はあとじゃ。いつまでも門前で立ち話をしておるわけにもいかん。王都へ入るとしよう」
言って、ギデオンは歩き出す。
城門には二つの入口があった。
一つは一般の旅人や商人が使うもので、長い行列ができている。
もう一つは貴族や騎士団関係者が使う入口らしく、たった今も絢爛な装飾を施された馬車が通り過ぎていった。
ギデオンはというと、迷いなく後者の入口へと向かっていく。
俺は貴族の子弟とはいえ、王都では顔も知られていない辺境育ちだ。
この入口を堂々と通っていいものかと、冷や冷やしながらギデオンの後に続いたのだが……。
入口に立っていた衛兵たちは、ギデオンの姿を見るなり背筋を伸ばした。
「ギデオン様、お疲れ様です!」
「うむ。ご苦労」
ギデオンは慣れた様子で片手を上げると、そのまま門をくぐっていく。
その後ろに続く俺たちを、衛兵が呼び止めることはなかった。
さすがは七聖騎士といったところか。
顔を見ただけで通されるあたり、やはり格が違うらしい。
そうして俺は、初めてアシュラント王国の王都へと足を踏み入れた。
まず目に入ったのは、広場の中央に立つ銅像だった。
何気に、この世界に来てから見るのは初めてかもしれない。
技術はあっても、造るのにはお金がかかるのだ。
そんなものがポンと置かれているあたり、ここが王国の中心なのだと実感させられる。
銅像の主は、言わずもがな初代国王アッシュである。
まさか、こんな形で再び顔を見ることになるとはな……。
銅像から視線を外すと、広場の先には大通りがまっすぐ伸びていた。
石畳の道を馬車が行き交い、道の両脇には店や建物が隙間なく並んでいる。
人の数も、クラヴィエ領とは比べものにならない。
思わず足を止めて眺めていると、少し先からギデオンの声が飛んできた。
「おーい、ノエル。王都見物はあとじゃ。早くついて来んか」
「今行きます」
慌てて返事をして、止めていた足を再び踏み出す。
王都に気を取られてしまったが、今は観光に来たのではない。
騎士試験を受けに来たのだ。
まずは、ギデオンの案内で試験会場へ向かうとしよう。




