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 オルヴィスとの闘いから数週間後。

 お馴染みとなっている街周辺の草原で、アランとギデオンが対峙している。


「【風刃ノ衣】……! 行きますよ、先生!」


 アランが魔法を唱えると、全身を覆うように風の刃が循環する。

 触れれば裂かれ、踏み込めば加速する効果もあるようだ。

 攻めにも守りにも使える、風属性らしいバランスの良い魔法。

 

 アランは言葉通り、迷いなく突進する。

 やっていることは単純だが、魔力を持っていなければ、今のアランに勝てる者はいないだろう。

 もっとも、相手は熟練の国家騎士。

 当然アランの魔法にも対応する。

 

「よい踏み込みじゃ。じゃが、ワシと足を競うには、まだ早いぞ! 【迅雷瞬動】」


 ギデオンの身体が紫電を纏う。

 アランの攻撃を避けたかと思うと、そのまま並走して走り出す。

 二つの軌跡が草原の草をゆらした。


「……お二人は、何をしているのでしょうか」

「さぁな。先生の中では、これも修行なんだろう」


 やれやれといった具合にため息をつくリゼットに、俺も手を広げて相槌を打つ。

 まるで陸上競技でもしているかのようだ。

 しかし、俺は忘れていないぞ。

 リゼットもギデオンと戦っていた時は、氷の上を滑っていたではないか……!

 いつからこの草原はスポーツ会場になったのだろう。

 そんなことを心の中で突っ込んでいると、アランが仕掛けた。


「【解放】――届けっ!」


 風の刃がアランから離れ、そのままギデオン目掛けて飛んでいく。

 なるほど、攻撃は二段構えになっているのか。

 至近距離で放たれた刃がギデオンを捉えたかに思えたが……。


 ひゅん、と風切り音と共にギデオンが掻き消える。

 相変わらず容赦がないというか、なんというか……。

 やはり、速度はギデオンの方が一枚上手だった。


 風の刃は地面を抉り、消滅する。

 首を回し、後方に立っていたギデオンを確認するアラン。

 さきほど同様【風刃ノ衣】を発動し、再び踏み込もうとした瞬間だった。

 足元から、雷の鎖が飛び出し、アランの手足を縛り上げる。


「よくできた魔法じゃ。じゃが、足元への警戒が甘かったのう」

「っく、抜け出せない……!」


 必死に手足を動かすアランだったが、完全に拘束されてしまったようだ。

 あるいは、旋回する風の刃を使って鎖を斬ることも出来そうだが、今はそこまでのコントロールは無理なのだろう。

 まだまだ修行が必要だな。


「そこまでじゃ、アラン」


 ギデオンが指を鳴らすと、雷の鎖は紫電となってほどけていった。


「待ってください、先生。僕はまだ……」

「慌てるでない。お主は合格じゃ」

「ですが、僕は一撃も当てていません」


 ギデオンの言葉に、アランは戸惑いながらも【風刃ノ衣】を解く。

 その顔にはまだ困惑が残っていたが、疑問を晴らすようにギデオンは指を立てた。


「最初にも言ったが、ワシを倒せと言っておるわけではない。実戦で使える魔法だと分かれば、それで十分じゃ。今の魔法、まともに受ければ並の相手ならただでは済まん」

「ギデオン先生……ありがとうございます!」


 ぐっと両手を握りしめ、ガッツポーズを取るアラン。

 今はまだ一つの魔法を完成させただけだが、騎士になる頃には、きっと今とは比べものにならないほど成長しているだろう。


「アラン様の腕前には目を見張るものがあります。私も、うかうかしてはいられませんね」

「……リゼットの本業はメイドのはずなんだがな」


 ぼそりと呟く俺。

 リゼットは子供ながらに、メイドの仕事をしながら修行もこなす二足の草鞋状態だった。

 俺から見れば、完全にブラック環境である。

 ただし、当の本人がやけに生き生きしているので、口を挟みにくいのだが。

 そんなことを考えていると、戻ってきたギデオンが俺の前で足を止めた。


「さて、ノエル。お主の方はどうじゃ。何か形にはなったのか?」

「はい。一応は」

「……一応、とはまた歯切れが悪いのう」


 ギデオンが顎髭を撫でながら、こちらを窺うように目を細める。


「少し危険な魔法なので、模擬戦で使う前に見てもらえませんか」

「ガハハハ、七聖騎士を舐めるでない! と、言いたいところじゃが、お主が言うなら笑い話では済まんのじゃろうな。よかろう。まずは見せてみよ」


 ギデオンの言葉に俺は頷き、一歩前へと出る。

 目標は、前方の樹々でいいだろう。


「【双極剣】」


 聖と死の魔力が組み合わさり、白く輝く魔法剣が顕現する。

 オルヴィスとの戦いで感覚は掴んだ。

 剣を生み出すだけなら、もう失敗する気はしない。


「む、これは……」


 背後でギデオンの声が低くなるが、驚くのはこれからだ。


「【天断ノ剣】」


 横薙ぎの一閃で、前方十数メートルの樹々がなぎ倒される。

 込められるだけの魔力を注いだ、全力の一撃だ。

 ここまで見せるのは、俺なりにギデオンを信用しているということでもある。


 もっとも、これで完成というわけではない。

 二つの魔力をバランスよく合わせる必要がある以上、聖属性の扱いが発展途上の今は、まだ理想の威力には届いていなかった。

 

「やはり、お主はとんでもないのう。ワシでも正面から受ける気にはなれんぞ」

「……ということは、俺も合格ということでいいんですか?」


 そう尋ねると、ギデオンは肩をすくめるように笑った。


「うむ。これを見せられて不合格とは言えんじゃろう。ノエル、お主も合格じゃ」

「やったね、ノエル!」

「流石はノエル様です」


 自分のことのように喜ぶアラン。

 その隣で、リゼットも満足げに頷いていた。


「よし。これで全員合格じゃな。今日はここまでにして、屋敷へ戻るとしよう」

「父上たちにも、報告していいでしょうか?」


 アランが弾んだ声で尋ねる。


「もちろんじゃ。胸を張って伝えるがよい。お主らは皆、よく励んだ」


 ギデオンの言葉に、アランは嬉しそうに頷いた。

 リゼットも静かに頭を下げる。


 こうして、ギデオンから与えられた最後の課題は無事に終わった。

 アランもリゼットも、それぞれの形で確かに前へ進んでいる。

 ギデオンが王都へ戻った後も、二人ならきっと歩みを止めることはないだろう。

 かくいう俺も、魔族の件を伏せた以上、何もしないわけにはいかない。

 合成魔法の扱いを、もう少し磨いておくとしよう。


 俺たちは夕暮れの草原を後にし、屋敷へと戻った。

 その日の食卓が、いつもより少しだけ豪華だったことは言うまでもない。

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