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右手に聖属性。
左手に死属性。
二つの魔力を体の前で重ね合わせる。
白い光と黒い霧が絡み合い、剣の形へと組み替わっていく。
だが次の瞬間。
甲高い音を立てて、魔力の刃は弾け飛んだ。
「やはり、簡単にはいかないか……」
俺の様子を見ていたオルヴィスは、喉の奥で小さく笑う。
「何を企んでいるかは存じませんが、私は小心者でしてな。悠長に待つより、こちらから参らせていただきます」
言って、地面を蹴るオルヴィス。
一見すると無手にも見えたが……。
「【存在変換】」
懐から取り出した小枝が剣へと変貌する。
やはり、魔族の使う魔法は変わっているな。
「【冥鎌】」
俺は死属性の魔力で鎌を作り出し、応戦する。
魔力を込めた一振りで、迫ってきた剣を両断した。
だが、オルヴィスは驚かない。
切り落とされた刃の片割れを掴むと、再び魔法を唱える。
砕けた剣が形を変え、今度は二本の短剣となった。
二方向から迫る追撃を、俺は後方へ跳んで躱す。
そして、着地と同時に魔法を放った。
「【朽蝕】」
双剣が腐り、灰と化す。
しかし、これは悪手だったな。
オルヴィスは懐から新たな小枝を取り出すと、再び武器を作り出した。
今度は槍。
大きく振りかぶり、こちらへ投げ放ってくる。
贅沢な攻撃方法だ。
そんな突っ込みを胸中で入れつつ、俺は冥鎌を振るう。
黒い衝撃波が槍を粉砕し、そのままオルヴィスへと迫る。
だが、オルヴィスの姿がふっと縮んだ。
燕尾服の男は、一羽の梟へと変わり、衝撃波をかわすように夜空へ舞い上がる。
「言っておくが、空からの奇襲は俺には通じないぞ【霊化】」
肉体が輪郭を失い、霧散する。
霊の身体は目も見えず、音も聞こえず、生者の世界に干渉することはできない。
しかし、自身の魔力の痕跡があれば、それを目印に移動する技として使える。
俺は上空に待機させていたナイトアイズのもとへ転移し、【空歩】で位置を調整。
空を飛ぶオルヴィス。
そのさらに上から、【冥鎌】を振り下ろす。
「馬鹿な、いつの間に――!」
オルヴィスが咄嗟に翼を畳み、軌道を変える。
黒い刃は直撃こそしなかったものの、その片翼を浅く裂いた。
「【死鎖】」
地面へ降り立った俺は、すぐさま追撃する。
魔法陣から複数の鎖が飛び出し、敵を目掛けて追尾していく。
そのうちの一本が、空を舞うオルヴィスの片足を捉えた。
「ぐっ……!」
鎖が軋み、梟の身体を強引に地面へと引きずり下ろす。
体勢を立て直す間もなく、オルヴィスは森の広場へ叩きつけられた。
直後、残る鎖が一斉に落下地点へ殺到する。
ドドドッ、と地面を抉る音が響いた。
黒い鎖が何本も突き刺さり、土と草を巻き上げる。
まともに受ければ、ただでは済まない。
そう思った瞬間だった。
鎖の中心で、魔力が膨れ上がる。
轟音と共に黒い鎖が弾き飛ばされ、爆煙が広場に広がった。
「見事ですな。子供の魔法とは思えぬほど、無駄がない。まるで、長い年月を戦いの中で過ごしてきた老魔法使いを相手にしている気分です」
奥から、オルヴィスの声が聞こえる。
当たらずとも遠からずといった感じだろうか。
俺はオルヴィスのように変身しているわけではなく、身体は子供。
だが中身は五百年以上の戦いを経験した不死王でもある。
そんなことを考えていると、人型へ戻ったオルヴィスが姿を現した。
燕尾服の袖は裂け、片翼を負傷した名残か、肩口からは血が流れている。
「どうやら、少々見積もりが甘かったようですな。……できれば、この手は使わずに済ませたかったのですが」
こちらを見据えるオルヴィスの魔力が高まっていく。
不用意に踏み込むのは危険だな。
相手が奥の手を切るというなら、こちらも試すとしよう。
俺は冥鎌を消し、改めて両手に魔力を集める。
先ほどは、ただ重ねようとしたから弾かれた。
ならば、互いに押し合う力を無理に潰すのではなく、循環させればいい。
聖属性を死属性に、死属性を聖属性に。
互いを変化させ混ぜ合わせるイメージ。
奇しくも、オルヴィスとの戦闘が参考になった。
「……今度は、いけそうだな」
白い光と黒い霧が絡み合う。
先ほどのように反発して弾けることはない。
二つの魔力は螺旋を描きながら一つの形へ収束し、俺の手の中で異質な剣を成していく。
現れたのは、白く輝く剣だった。
ただし、その白は聖属性の清らかな光とは違う。
すべてを呑み込み、無へと還すような、危うく冷たい白。
聖と死。
相反する二つの魔力が混ざり合い、破壊の力となって剣の内側で渦巻いている。
ちょうど、相手の方も準備が終わったようだ。
オルヴィスの身体が内側から膨れ上がる。
骨格が軋み、細身だった手足に異様なほどの筋肉が宿っていく。
身に纏っていた燕尾服は、その変化に耐えきれず裂けた。
黒い布地が肩と腰に残り、紫色の肌をした逞しい上半身が露わになる。
灰色だった髪は、月光を浴びたような銀色へと変わり、背中まで長く伸びていく。
頭部から生えた二本の角も、先ほどまでとは違う。
漆黒の角は太く、禍々しくねじれながら天へ向かっていた。
ただのパワーアップとは少し違う気がするな。
紫色の肌からして、魔族であることには間違いないが、顔つきが先ほどまでとはまるで違っていた。
痩せた執事然とした面影は消え、若く精悍な男の顔へと変わっている。
そんな疑問に答えるかのように、オルヴィスが口を開く。
「この姿は、我らが上位に立つ御方を模したもの。そう長くは保ちませんゆえ……早速、第二幕と参らせていただきます」
右腕を持ち上げるオルヴィス。
その掌に、先ほどとは毛色の違う、黒紫色の魔力が集まり始めた。
ただの魔力弾を作っているわけではないな。
周囲の空気が歪み、足元の草が見えない力に押し潰されていく。
背後で、リゼットが息を呑む気配がした。
軋むような音と共に、オルヴィスの魔法がこちらへと放たれる……!




