↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/41

18

 案内先は一階奥の小部屋だった。

 正面玄関からは遠く、いざという時は裏口から逃げることが出来るわけだ。

 もっとも、襲撃者たちが素直に表から来るとは限らないので、絶対に安全というわけではない。


 部屋に入ると、アランとリゼットの姿があった。

 そのほかにも、若いメイドが数名、部屋の隅で不安そうに身を寄せている。

 クラヴィエ家の使用人は街に家を持つ者が多いため、ほとんどは日が落ちれば屋敷を離れるわけだが……。

 それでも、夜番として最低限の人手は残しておく必要がある。

 今ここに集められているのは、そうして屋敷に残っていた者たちだった。

 

「ノエル、無事だったんだね」


 俺の姿を確認して、アランはほっと息をつく。


「兄さんも無事で何よりです、リゼットも」

「はい。私は問題ありません」


 リゼットは静かに頷いたあと、俺の方へ一歩近づいた。


「ですが、ノエル様のお姿が見えず、心配しておりました」

「俺は部屋にいただけだよ。倉庫の方で騒ぎがあったと聞いて、ここに移るよう言われたんだ」

「倉庫の方……。やはり、盗賊たちが?」

「恐らくはそうだな。ただ、ギデオン先生が向かったらしい」

「それなら、きっと大丈夫だね」


 隣で聞いていたアランが相槌を打つ。

 確かに、倉庫を襲っている連中だけなら問題ないだろう。

 だが……。


 ドタンッ、と廊下の向こうで何かが倒れる音がした。

 室内に緊張が走る。

 

「僕が様子を見てきます。皆さんはここで待っていてください」

「兄さん、危ないですよ」

「大丈夫、外へ出るわけじゃない。廊下の様子を確かめるだけだよ」


 言って、アランは部屋から出て行ってしまう。

 まずいな。

 廊下の向こうで倒れたのが見回りの衛兵なら、敵はすでに屋敷の中だ。

 俺はすぐに後を追おうとした。

 しかしその瞬間。

 ナイトアイズの一匹が、屋敷の外に潜む影を捉える。


「これは……」

「ノエル様、何かありましたか?」


 思わず呟いた俺に、リゼットが首を傾げる。

 俺はリゼットに向き直り、視線を合わせた。


「敵の親玉らしき奴を見つけた。俺はそいつを止めに行く。リゼット、屋敷の方を頼めるか?」

「珍しいですね。ノエル様が、私に何かを任せてくださるのは」

「今はリゼットが一番頼りになるからな」


 これは気休めではない。

 屋敷に残っている衛兵や使用人の中で、獣人の盗賊を相手にまともに戦える者は限られている。

 その点、リゼットは元冒険者であり、なにより規格外の魔力を持っていた。

 言葉通り、屋敷を任せる相手として、彼女以上の適任はいない。


 とはいえ、危険な役目を任せることには変わりない。

 返事を急かさず、ただリゼットの言葉を待つ俺だったが……。


「承知しました。アラン様と、屋敷に残っている方々は、私が必ずお守りします」

 

 リゼットの答えは、すぐに返ってきた。

 背筋を伸ばしたその姿には、わずかな迷いも見えない。


「ありがとう。リゼットがいてくれてよかった」


 リゼットは目元を和らげた。

 そして、いつものように丁寧に頭を下げる。


「……はい。どうか、ノエル様もお気をつけて」

「リゼットも、無理はするなよ」


 それだけ告げて、リゼットに背を向けた。

 リゼットなら、しっかりと屋敷を守ってくれるだろう。

 俺は俺で、やるべきことを片づけなければならない。


♦


 屋敷の裏手側。

 聖域の境目にあたる森の縁に、その獣人は身を潜めていた。

 

 俺と同じ黒い髪。

 その間から覗く丸い獅子の耳。

 見た目は子供だが、周囲にいる他の獣人と比べても、ひときわ大きな魔力をその身に宿している。


 少なくとも、ただの手下の一人ではないことは間違いない。

 

「七聖騎士ってのは、爺だって聞いてたんだがなぁ」


 俺が背後に立つより早く、獣人の少年はそう口にした。

 まるで、最初からこちらに気づいていたかのように。


「その情報は正しいよ。俺は七聖騎士じゃない」


 答えると、少年はゆっくりとこちらを振り返った。


「なんだ、お前。貴族の家のガキか?」


 俺を見下ろすように笑う少年。

 年格好は大して変わらないくせに、随分と偉そうな態度だ。


「まあ、なんでもいいけどな。オレの後ろに立った奴を、生かして帰すつもりはねえよ【地爆礫】」


 少年が指を鳴らす。

 同時に、俺の足元の地面が発光し――爆ぜる。

 衝撃が地面を伝い、周囲の樹々を揺らした。


「……あっけねえな」


 爆煙の先で、少年の呟きが聞こえた。


「それはどうかな」


 俺は返事をしてやった。

 今のは罠魔法だ。

 身体の一部を媒介にして、離れた場所へ魔力を仕込む技術。

 普通の遠距離魔法より威力を維持しやすいのだろう。

 咄嗟に死属性の魔力を纏っていなければ、無傷とはいかなかった。


「……へえ。今ので死なねえのか」


 煙が薄れる。

 少年は声を荒げることなく、つまらなそうに肩をすくめる。

 その一方で、周囲へ漂う魔力は先ほどよりも濃くなっていた。


「驚くのはまだ早いぞ、後ろを見てみろ」


 俺は少年の背後を指差す。

 少年が振り返った先では、森の陰に潜んでいた獣人たちが地面に倒れていた。

 

「ニ、ニクス様……」


 かろうじて意識があった一人が、呻くようにその名を呼ぶ。


「テメェ、何をした?」

「邪魔をされたら面倒なので、先に片付けさせてもらった。さあ、続きといこうか。ニクス」


 名を呼ばれたニクスは、苛立たしげに舌打ちした。

 続けて、足元の地面へ乱暴に片足を叩きつける。


 土が盛り上がり、黒い棒状の武器が姿を現した。

 ニクスはそれを掴むと、引き抜く勢いのままこちらへ踏み込んでくる。


 ただの棒、というわけではなさそうだ。

 表面を走る魔力の気配に、俺は自然と口角を上げていた。


 夜の森で、二度目の衝突が始まる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。