11
屋敷の入口でアランと合流した俺とリゼット。
昨日と同様、丘を下っていき、街中へとやってきた。
中央にある噴水広場では、幼い子供たちが水を浴びてはしゃいでいる。
走り回っている子供に対して、大人の数は少ない。
時刻は昼前といったところだろうか。
働き盛りの大人たちは畑に出払っていた。
「見ているだけで、なんだか癒されますね。それに、すっきりとした街並みで開放感があります」
「魔物除けの【聖域】が広いおかげで、家を密集させる必要がないからね。領民も気立ての良い人ばかりで、事件なんかも少ない。平和な領地だよ」
リゼットの言葉に、アランが誇らしげに胸を張る。
もっとも、その広大な【聖域】はメリットだけをもたらすわけじゃない。
中央の貴族から目をつけられているのはそれが理由なのだ。
そして、アランが努力して騎士を目指しているのは、中央をけん制してこの領地を守るためだが……。
本人が黙っている以上、ここでそんな話を持ち出すのは野暮というものだろう。
俺は小さく息を吐くと、目の前ののどかな光景に合わせて肩の力を抜いた。
「せっかくだし、リゼットも一緒に水浴びしてくればどうだ?」
「……私を子供扱いしないでください」
冗談めかして言うと、リゼットはぴしゃりと返し、ムッと唇を尖らせた。
すると、横で聞いていたアランがくすくすと笑い出す。
「ノエルってば。本当は自分が水遊びしたいんじゃないの?」
「なっ……」
予想外の指摘に、俺は思わず言葉を詰まらせた。
俺は前々世では子供の頃から病弱で、外で遊ぶことはなかった。
前世は戦ってばかりだったし……。
少しだけ、羨ましいと思ったのは事実だった。
内心の動揺を隠してそっぽを向く俺を見て、今度はリゼットが小さく吹き出す。
「ふふっ。ノエル様でも、図星を突かれるとそんなお顔をされるんですね」
「気のせいだよ」
わざとらしく言い捨てる俺を見て、アランとリゼットが楽しげに笑う。
すっかり調子を狂わされてしまったが、不思議と悪い気分じゃない。
――そんな時だ。
「た、大変だ! 誰か、衛兵を呼んできてくれ!」
広場の向こう側から、血相を変えた若い男が走ってきた。
見たことのある顔だ。
この街に住む領民の一人だろう。
「どうしましたか? 落ち着いて、何があったのか話してください」
男の前に歩み出たアラン。
いつの間にやら、真剣な顔つきに切り替わっている。
「あ、アラン様!? それに、ノエル様まで……!」
男は俺たちに気がつくと、驚いたように足を止めた。
しかし、すぐに顔を青ざめさせ、首を横に振る。
「いけません、今すぐお屋敷へお戻りください! 向こうの酒場で、ガラの悪い冒険者たちが暴れているんです!」
「冒険者が……?」
眉を寄せ、アランは続きを促す。
「はい! 無銭飲食をして、そのまま立ち去ろうとしたところを店の親父さんが注意したんです。そうしたら、いきなり殴り飛ばされて……。俺は衛兵を呼びに行くところでした」
男は息を切らしながら、早口で状況を説明した。
酒場の方角から、かすかに怒号のようなものが聞こえてくる。
アランはそちらへ視線を向けると、男の肩にそっと手を置いた。
「教えてくれてありがとうございます。衛兵は、あなたがこのまま呼びに行ってください」
「は、はい! しかし、アラン様はどうなさるおつもりで?」
「僕は酒場に向かいます」
迷いなく答えるアランに、男はぎょっとしたように声を上げた。
「アラン様。まさか、止める気ですか!? 相手は大人で、しかも武装したならず者ですよ!」
「ええ。ですが、クラヴィエ領の大切な民が危険な目に遭っているのに、領主の息子である僕が背を向けるわけにはいきません」
その言葉に、男は目を見開いた。
目の前にいるアランが、守られるだけの子供ではないと気付いたのだろう。
「……わかりました。すぐに衛兵を呼んできます!」
男は深く頭を下げ、再び走り出した。
そんな様子を見届けた後、アランに視線を合わせる。
「兄さん、俺たちも行きましょう」
「うん。頼りにしているよ、ノエル」
アランは迷わず頷いた。
完全に、戦力として数えられているのだろう。
ギデオンとの模擬戦で勝ってしまった上に、昨日も森の奥で倒れていたリゼットを見つけて連れ帰っている。
今さら危ないから下がっていろ、とは言われないか。
「私もお供いたします」
リゼットも、当然のように俺たちの後ろへ続く。
見た目は可憐な少女だが、魔力持ちの元冒険者だ。
自分の身くらいは守れるだろう。
そんなわけで、三人揃って酒場へと向かう。
男の言う冒険者たちが、余計な力を使わずに済む相手ならいいんだがな……。




