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「リゼットちゃんをメイドに? ええ、いいですよ。ぜひうちで働いてくださいね」


 エリーゼは私室で書類仕事をしていた。

 流れるように羽根ペンを走らせる所作には、生来の気品が漂っている。

 リゼットのことを相談してみたのだが、これほどあっさりと頷いてくれるのは予想外だった。


「即答ですね」

「理由は簡単ですよ、なぜなら……」


 エリーゼは紅茶を一口すすり、言い放つ。


「リゼットちゃんは可愛いから!」


 ビシッっとリゼットを指差すエリーゼ。

 対するリゼットは「そんな理由で大丈夫なのですか?」と小首をかしげる。

 急に働きたいなんて言い出したら、間者を疑うのが普通だろう。

 あるいは、適正試験的なものを予想していたのかもしれないが……。


「ふふ、問題ありません。私はこう見えても貴族の子女として、たくさんの人と関わってきました。リゼットちゃんの言葉が本心であることくらい、見抜いているのですよ」


 言って、エリーゼは悪戯っぽく片目をつぶってみせた。

 茶目っ気を感じさせる態度に、気負いも晴れたのだろう。

 リゼットは肩の力を抜き、頭を下げた。


「ありがとうございます、エリーゼ様。未熟者ですが、これからよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 ほほ笑みながら返事するエリーゼだったが……。

 何かを思い出したようにポンと手を打つ。

 

「そうだ。今日、ダリウスとギデオン様は朝から出かけていますよ。だからノエル、リゼットちゃんに屋敷の中を案内してあげてください」

「俺が、ですか? まあ、構いませんが」


 頷きつつも、内心では首をかしげる。

 普通、新人の案内など先輩の使用人がするはずだ。

 俺がそんな役目を頼まれたことなど、一度もないのだが……。

 そんな疑問を知ってか知らずか。

 エリーゼは両手を頬に当ててニヤニヤと笑い始めた。


「ふふっ、可愛い女の子と二人きりなんだから、しっかり楽しんでくるのですよ?」

「もう、何を言っているのですか……」


 思わずずっこけそうになるのを堪える。

 さっきの心を見抜く貴族の目はどこにいったんだ?

 相変わらず勘違いしたままのエリーゼを尻目に俺たちは部屋を後にする。


 ♦


 気を取り直して、俺はさっそく屋敷の案内を始めることにした。

 エリーゼの私室もあるこの二階は、主にクラヴィエ家の自室となっている。

 一部屋ごとの面積が広いため、部屋数は少ない。

 最初は来ることも少ないだろうから、足早に見て回る。


 階段を降りて一階の表側には、客間や食堂がある。

 来客を通しやすいよう、当主の執務室もこの場所だ。

 

 そして、リゼットの仕事場にもなるであろう、一階の奥。

 厨房や洗濯場、それに大きな浴場に使用人の控え室などを順々に巡って行った。

 すれ違う使用人たちは辺境らしく気さくな者が多い。

 新入りのリゼットを温かく歓迎してくれているようだ。


 最後に裏庭へ続く勝手口の近くまでやってきたときだった。

 扉が反対側から開かれ、木剣を片手に汗だくになったアランが歩いてくる。

 どうやら朝の自主練を終えたところらしい。


「おはよう兄さん」

「おはようノエル。それと貴女は、昨日森で保護したエルフの……?」


 アランに声をかけると、身綺麗になったリゼットを見て目を丸くした。


「リゼットと申します。本日から屋敷で働くことになりました」


 白いワンピースの裾を軽く摘まみ、優雅なお辞儀をしてみせるリゼット。 

 昨日の姿からは想像もつかない、洗練された立ち振る舞いだ。

 アランは一瞬あっけにとられていたが、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべた。


「これからよろしくね、リゼット。それで、二人は何をしているの?」

「屋敷を案内してました。この後、裏庭を見せて最後になります」

「なるほど……。あっ、そうだ」


 アランは思いついたように手をポンと打つ。

 つい先ほど、エリーゼも同じようなことをしていたよな。

 デジャヴを感じる俺を横目に、アランは提案する。


「せっかくだし、この後三人で街に行こうよ。これからここで暮らすなら、街の様子も知っておいた方がいいだろうし、僕も案内を手伝うよ」

「俺は構いませんが……。リゼットもそれでいい?」

「はい。ぜひお願いしたいです」


 リゼットの快諾を得て、アランはパッと表情を輝かせた。


「よし、決まりだね。屋敷の案内が終わったら、表門で集合しよう。僕は先に汗を流してくるよ!」

 

 足早に去っていくアランを見ながらリゼットがぽつりと呟く。


「……とても元気な方ですね」

「ああ。でも、あれくらいが本来の子供の姿だろうな」


 周囲からすれば、俺やリゼットの方が年不相応に落ち着いていると感じるだろう。

 内心でそう結論づけ、裏庭に足を踏み入れる俺たち。

 軽く説明を済ませた後は屋敷の外周を回って、待ち合わせ場所である表門へと向かうのだった。

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