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「リゼットちゃんをメイドに? ええ、いいですよ。ぜひうちで働いてくださいね」
エリーゼは私室で書類仕事をしていた。
流れるように羽根ペンを走らせる所作には、生来の気品が漂っている。
リゼットのことを相談してみたのだが、これほどあっさりと頷いてくれるのは予想外だった。
「即答ですね」
「理由は簡単ですよ、なぜなら……」
エリーゼは紅茶を一口すすり、言い放つ。
「リゼットちゃんは可愛いから!」
ビシッっとリゼットを指差すエリーゼ。
対するリゼットは「そんな理由で大丈夫なのですか?」と小首をかしげる。
急に働きたいなんて言い出したら、間者を疑うのが普通だろう。
あるいは、適正試験的なものを予想していたのかもしれないが……。
「ふふ、問題ありません。私はこう見えても貴族の子女として、たくさんの人と関わってきました。リゼットちゃんの言葉が本心であることくらい、見抜いているのですよ」
言って、エリーゼは悪戯っぽく片目をつぶってみせた。
茶目っ気を感じさせる態度に、気負いも晴れたのだろう。
リゼットは肩の力を抜き、頭を下げた。
「ありがとうございます、エリーゼ様。未熟者ですが、これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
ほほ笑みながら返事するエリーゼだったが……。
何かを思い出したようにポンと手を打つ。
「そうだ。今日、ダリウスとギデオン様は朝から出かけていますよ。だからノエル、リゼットちゃんに屋敷の中を案内してあげてください」
「俺が、ですか? まあ、構いませんが」
頷きつつも、内心では首をかしげる。
普通、新人の案内など先輩の使用人がするはずだ。
俺がそんな役目を頼まれたことなど、一度もないのだが……。
そんな疑問を知ってか知らずか。
エリーゼは両手を頬に当ててニヤニヤと笑い始めた。
「ふふっ、可愛い女の子と二人きりなんだから、しっかり楽しんでくるのですよ?」
「もう、何を言っているのですか……」
思わずずっこけそうになるのを堪える。
さっきの心を見抜く貴族の目はどこにいったんだ?
相変わらず勘違いしたままのエリーゼを尻目に俺たちは部屋を後にする。
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気を取り直して、俺はさっそく屋敷の案内を始めることにした。
エリーゼの私室もあるこの二階は、主にクラヴィエ家の自室となっている。
一部屋ごとの面積が広いため、部屋数は少ない。
最初は来ることも少ないだろうから、足早に見て回る。
階段を降りて一階の表側には、客間や食堂がある。
来客を通しやすいよう、当主の執務室もこの場所だ。
そして、リゼットの仕事場にもなるであろう、一階の奥。
厨房や洗濯場、それに大きな浴場に使用人の控え室などを順々に巡って行った。
すれ違う使用人たちは辺境らしく気さくな者が多い。
新入りのリゼットを温かく歓迎してくれているようだ。
最後に裏庭へ続く勝手口の近くまでやってきたときだった。
扉が反対側から開かれ、木剣を片手に汗だくになったアランが歩いてくる。
どうやら朝の自主練を終えたところらしい。
「おはよう兄さん」
「おはようノエル。それと貴女は、昨日森で保護したエルフの……?」
アランに声をかけると、身綺麗になったリゼットを見て目を丸くした。
「リゼットと申します。本日から屋敷で働くことになりました」
白いワンピースの裾を軽く摘まみ、優雅なお辞儀をしてみせるリゼット。
昨日の姿からは想像もつかない、洗練された立ち振る舞いだ。
アランは一瞬あっけにとられていたが、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべた。
「これからよろしくね、リゼット。それで、二人は何をしているの?」
「屋敷を案内してました。この後、裏庭を見せて最後になります」
「なるほど……。あっ、そうだ」
アランは思いついたように手をポンと打つ。
つい先ほど、エリーゼも同じようなことをしていたよな。
デジャヴを感じる俺を横目に、アランは提案する。
「せっかくだし、この後三人で街に行こうよ。これからここで暮らすなら、街の様子も知っておいた方がいいだろうし、僕も案内を手伝うよ」
「俺は構いませんが……。リゼットもそれでいい?」
「はい。ぜひお願いしたいです」
リゼットの快諾を得て、アランはパッと表情を輝かせた。
「よし、決まりだね。屋敷の案内が終わったら、表門で集合しよう。僕は先に汗を流してくるよ!」
足早に去っていくアランを見ながらリゼットがぽつりと呟く。
「……とても元気な方ですね」
「ああ。でも、あれくらいが本来の子供の姿だろうな」
周囲からすれば、俺やリゼットの方が年不相応に落ち着いていると感じるだろう。
内心でそう結論づけ、裏庭に足を踏み入れる俺たち。
軽く説明を済ませた後は屋敷の外周を回って、待ち合わせ場所である表門へと向かうのだった。




