08 メイコーダンジョン
さらに翌日、わたしは朝から中級者向けと言われているメイコーダンジョンへと足を延ばした。今回は一人でのお出かけである。アリマツダンジョンと違ってすぐに終わらないだろうから、あまり長いこと待たせるのも悪いからね。
「うーん、海の匂い」
メイコーダンジョンは港に生成された。なので近付けば当然ながら海の匂いがする。……水族館も巻き込んだのは恨み言を言いたい。エルフェリアと一緒に見に来たかったよ……。
溜息を吐きながら情報端末で再度予習をする。
「攻略階層は八層まで。下層への移動経路は見つかってないけれど、コアルームも見つかってないので奥がある可能性あり、か」
わたしが気になっているのは、この『コアルームが見つかっていない』の文言である。予測としては、海フィールドの中にあるのではないか、とのことで。潜って探そうにも、水中での機動力に長けた水棲モンスターが多いため探せないらしい。
なのでわたしがこのコアルームを探してみようかと思って。……ダンジョンは偶に異常事態が起こるからね。その内容は特殊個体の発生だったり、ダンジョン外までモンスターが溢れる噴出の発生だったり。どちらも悲惨なことになるので、コアをすぐ破壊して機関停止できるようにしておきたい。
中級ダンジョンだけあって人気で、アリマツ出張所に比べて何倍もの広さがあるメイコー出張所で受付をする。
受付のお姉さんがわたしのライセンスカードを確認した時に眉をあげていたけど……特に何も言われるでもなくドローンを貸し出してくれた。カードにはわたしの探索情報も入っている。つまりわたしがまだ探索二回目ということもバレてるはずだけど……不干渉なのかアリマツ出張所から何か通達でもあったのか。
「えーっと、ドローンのIDを入力して、プライベート配信の設定をして……おっと、昨日買ってきたARデバイスも装着して……っと。あー、あー、ヒナタ、エルフェリア、聞こえる?」
『バッチリだよ! 映像も見えてる!』
『はい。今日も見守っていますね』
配信だけだとわたしの声をあちらに届けることしかできない。だからやりとりをするには別途デバイスが必要となる。これは多くの探索者パーティがやっていることで、規模が大きくなればなるほどバックアップは重要となってくるから正しい。
これで準備はおーけー、ダンジョンに突入だ!
「……おー……なるほど」
『他の配信者さんの見てたから知ってるけど、広いよねぇ』
ポータルから出てきたら、そこは広い広い平原だった。頭上を見上げれば空だって見える。
ダンジョン内は空間が捻じれている。なので外から観測できる範囲と、内部から観測できる範囲に大きな隔たりがあることはよくある。そして内部構造も洞窟型、平原や森林など様々な形態を含む屋外型、迷宮型など千差万別なのである。
キョロキョロと辺りを見回していたら、同じく入口付近で固まってしゃべっている四人の男女がいた。みんなドローンに目線が行っているし……ひょっとして配信者か?
『あ、メイダイバーズだ』
「……メイ……なに?」
『メイ大の学生と卒業生のみで構成された探索者パーティだよ。結構強いし、期待されてて人気もあるんだよ?』
あぁ、あの県下トップの大学の。頭良くて戦えるってまさに文武両道だね。
『剣士二人、魔法使い二人で、そのうち片方は貴重なヒーラーなんだよね~。ちなみにあたしの推しは剣を持ってるポニーテールの女の人。美人さんでしょ?』
ふむ、あの人か。ぴょんぴょんと飛び跳ねていて活発さを感じさせる。うっすらと魔力を纏っているのが見えて、今後の成長が見込めそうな女性だ。美人は美人だけど、エルフェリアの方が美人……というのはおいといて。他のメンバーもなかなかだし、ヒーラーと思われる人は特に魔力が高いな。期待のパーティであるのも頷ける。
……あ、やべ、ジロジロ見すぎて目が合ってしまった。慌てて頭を下げてからその場を離れる。
「ヒナタ、あっちの配信見てなくていいの?」
『えへ、実は二窓してる。お姉ちゃん映ってなかったから安心していいよ』
「さいですか……」
苦笑しながら奥へと進もうとしたら……後ろから声が掛かる。メイダイバーズとは違うパーティであり、近付く気配には気付いていた。
「ねぇそこの君、一人?」
男性三人のパーティだ。全員前衛なのか剣を持ち、軽鎧を着こんでいる。使い込んでいるようには見えるけど……メイダイバーズに比べて全然魔力が低いな。
「見覚えないからひょっとして初心者さん? ここは中級者向けダンジョンだよ?」
「そうそう、一人じゃ危険だよ~」
「良かったらオレたちと一緒に回る? 色々教えてあげるからさ!」
……これは、ひょっとして……心配に見せかけたナンパか? 想定外の出来事に咄嗟に答えが出せないでいると、勘違いしたのかさらに近付いてくる。
「そんな緊張しちゃって、初々しいねぇ」
「やっぱ一人だと駄目だって、オレたちが通りかかって運が良かったね!」
などと言いながら、わたしの腕を掴んできた――ので、スルリと外し。
「ごめんなさい、間に合ってますので」
早すぎない程度の速度で走り出す。それでも一般探索者よりは早かったみたいで、後ろから「早すぎねぇ!?」とか「待てよ!」とか聞こえてくる。もちろん無視だ。
十分に離れ、追ってきてないことを探知で確認してからフゥと一息吐く。
「いやぁ、びっくりした」
『……私がその場にいれば報いを受けていただくところでした』
「……エルフェリアがいたら、みんなエルフェリアに声を掛けたんじゃないかなぁ……」
『セツナも可愛らしいことをいい加減自覚するべきです』
「あっ、はい……」
どう考えてもエルフェリアには負けてるんだけどなぁ、とは口に出さずにおいた。
気を取り直して、と。ここはアリマツダンジョンに比べれば探索者が多い。うっかり他のドローンに映った状態で変なことをしないように気を付けないとな。
『お姉ちゃん、第一層のマップ送るね』
「ありがとう、ヒナタ」
ヒナタが送ってくれたマップをARで視界の端に映す。こういう点は異世界より便利だなぁ。
『赤いマーカーが第二層への通路で、黄色いのが換金におすすめの素材が生えてるところだよ』
「そうだね、ちょっと集めていこうか」
異世界でパーティメンバーと一緒に行動していた時とはまたちょっと違う感覚。むしろ面白いとさえ感じているわたしがいる。
……油断で怪我をしないようにな、と気を引き締め直してから、わたしはまず最寄りの黄色マーカーへと駆けるのだった。




