07 ヒナタの懸念
ファミレスでの食事の後、わたしは五年振りの故郷に感慨深いものを抱きながら、エルフェリアは異世界カルチャーに目を白黒させながら、ヒナタはそんなわたしたちが面白いのかニヤニヤとして。
あとはエルフェリア用の日用品を買い足したりしてから自宅に帰り、ヒナタが言っていた『気になること』について改めて聞くと。
「ずばり、お姉ちゃんは強すぎます!」
「……えぇ……?」
ヒナタがいうに、ロックゴーレムは関節部を狙って文字通り手も足も出なくしてから、持ち込んだ鈍器や、それこそもぎ取った岩の手足で殴って倒すのがセオリーだったらしい。わたしみたいにナイフ(見た目だけだけど)で斬るのは、有名探索者でもほぼ見ないのだとか。
そりゃ確かに異世界で勇者をやって魔王を倒してきたので結構強いとは思うけど、そんなに気にしなければいけないことなのかな?
「お姉ちゃんは認識が甘い! ここは異世界じゃありません!」
「それは……そうだね?」
「いくらダンジョンが生えたからって、お姉ちゃんほど強くなった人はいません!」
「それで何か問題があるの?」
「大ありです! 場合によってはマスコミとか企業とかが押しかけてきます!」
……なるほど。
異世界では強い人はそこら中にいた。それこそ勇者のわたしより強い人だっていた。魔力が湧き出し、ダンジョンが生成されたことで否が応でもこの世界の人は強さを得始めたけれども、異世界と比べたらまだ全体的にレベルが低い。
そこに突出したわたしが出てこれば、話題に飢えてるマスコミや、ダンジョン産アイテムで利益を得たい企業からすれば垂涎の的ということか。
「でも……わたしが五年で魔王を倒せたのだから、ダンジョンが生えてから五年で同じくらい強くなってる人がいてもおかしくないのでは?」
「……セツナと一緒にしてはいけませんよ」
「……あぁ、わたしの場合は先生でありお医者さんでもあるエルフェリアがいてくれたからか……」
「それもあるかもしれませんが……あそこまでストイックに鍛錬できる人は少ないですから」
え、あれくらい普通では?と首を傾げたけれど、エルフェリアには苦笑を浮かべられた。
まぁともかく、いわゆる密度的なものが違うことはわかった。そしてわたしがこの世界ではおそらく上から数えた方が早いくらいに強いことも、なんとなく理解した。座りは悪いけど。
「お姉ちゃんがちやほやされたいなら別だけど、そうじゃないなら、人前では本当の実力を出さないとか、正体を隠すとか、そういう工夫が必要になると思う」
「ちやほやされたいわけでもないし、ヒナタに迷惑は掛けたくないなぁ」
お金は必要だけど、今すぐ稼がなければいけないほど家計が逼迫しているわけでもない。しばらくはソロで活動をして人目につきにくくして、何らかの理由でパーティ活動する時は力を押さえて……非常時には変装でもすればいいかな?
変装、変装かぁ。エルフェリアみたいに幻影を纏うのもありかもだけど……と考えて、ふと、部屋の端に置いてあるテレビが目に入る。
……いいこと思い付いたかも。
夜も更け、ヒナタは就寝し、わたしとエルフェリアは、わたしの部屋でパソコンモニターを、正確にはモニターで流している配信を眺めていた。エルフェリアはいわゆる科学技術がほとんどない異世界からきたことで興味津々に見ているのだけれど……わたしはなんだか落ち着かない。
だって、エルフェリアがお風呂上りなんだもん! 好きな人がいい匂いをさせて(同じの使ってるからわたしも同じ匂いだけどさ!)、すぐ近くにいたら緊張の一つや二つしても仕方ないじゃん! いやいやこんなことではダメだ。探索者について知識を得るためにやっているんだから、マジメに見なきゃ……!
「この方たちが、一番強いと言われているはいしんしゃとやらですか……」
「あ、う、うん。イギリスっていう、ここからかなり遠い国の人たちだね」
時差の関係であちらはまだ昼だ。ダンジョン探索には良い時間である。それをわたしたちはリアルタイムで眺めていた。言語はわからないけれど、動きは十分にわかる……って、あれ?
「……なんでわたし、英語がわかるんだろう?」
勇者になったことで多少なりとも知力の補正もされているけれど、英語なんて学校でちょっと習ったくらいなのに……どうして? その疑問には、エルフェリアが答えてくれた。
「セツナ、貴女は世界を渡ったことで、神により言語理解の祝福が与えられていますよ。私たちの世界に来ても困らなかったでしょう?」
「え……あの召喚特典、この世界でも効果あるの!?」
「ちなみに、私もこちらに来た時にいただいたようです。おかげでヒナタと不自由なく会話ができます」
「そういえばそうだ!?」
全く疑問に思ってなかったよ! バカじゃんわたし!
「連携はやたらとこなれていますね」
「あぁ、多分だけど元は軍人さんなんじゃないかな? 銃器の扱いも様になってるしね」
モンスターに銃は効かない……なんてことはない。普通に効く。ただ、強いモンスターになると魔力の鎧を纏うので、銃に限らず魔力の籠っていない武器は効きにくくなる。この人たちもそれはわかっているようで弱いモンスターは銃で掃討し、強いモンスターには魔力を帯びた剣で斬りかかっている。ふむふむ、悪くない。
しかしエルフェリアのお目には敵わなかったようで。
「……セツナの方がずっと強いですね」
「……あはは、ありがとう」
褒めてくれるのは嬉しいけど、本当に強い人は配信者をやっていない可能性だって十分にある。あまり調子に乗らないよう気を付けよう……。
◇◇◇◇◇
時は少しばかり遡り、夕方頃。探索者協会アリマツ出張所の事務室にて。
「係長! この映像確認しましたか!?」
「おや、どれのことかな?」
係長と呼ばれた男――セツナがダンジョン訪問した時に受付をしていた男――が部下の持ってきた端末に視線を向ける。
「これは……あぁ、今日初めて探索しにきたお嬢さんだね。この子がどうかした――」
「初めてですって!? ウソでしょ!?」
部下の剣幕に係長は思わず椅子から転げ落ちそうになったけどなんとか留まり、部下を落ち着かせるべく手を振る。
「いや落ち着いてる場合じゃないですよ、見てくださいよ!」
「全く、なんだというんだね……。……おや、ロックゴーレム……?」
確か一時間足らずで引き返してきたはず。それなのに最奥のガーディアンが映っているのは何故なのか。もしや特殊個体が発生したのか?と一瞬焦りを見せたけど、周囲に映っているのは間違いなく最奥の部屋だった。
そして次の瞬間、セツナがナイフでロックゴーレムを一刀両断したシーンに目を剥いた。
「新人が岩をナイフで斬るなんてありえないでしょう!? というか最奥に辿り着くまでもめちゃくちゃ早くて! この子一体なんなんですか!?」
なに、と聞かれたところで係長にもわかるわけがない。
それでも一つ、彼には、彼らには、守らなければいけないことがある。
「どうします? アイチ支部に報告します?」
「……そうだね、報告はしておこうか。でも、外部への情報漏洩は、厳禁だよ?」
「――はい、もちろん承知しています」
その部下の返事に係長は気を良くしながら胸中で独り言ちる。
――ひどい大人たちに、利用されないようにねぇ……。




