06 変わっていること
「ねぇお姉ちゃん、まずはどこに行く?」
「うーん……」
ヒナタの問いに、わたしはおなかを押さえる。魔法を使うと魔力だけじゃなくカロリーも消費するんだよねぇ。大して使ってはいないのだけど、さすがに一時間近く走ってたせいもあってお腹が減っている。
「ちょっと早いけどお昼ご飯からでいい?」
「いいよー」
「構いません」
「どのお店にしよっか」とヒナタが情報端末を軽快に操作して付近の飲食店マップを表示させる。相変わらず早い。わたしは表示されたいくつもの店名を見て、これもいいな、ここも捨てがたい……と心の中でよだれを垂らしながら悩み、結論を出す。
「戻ってからまだお米食べてないし、久しぶりにがっつり和食が食べたいんだけど、エルフェリアがいきなりお米チャレンジして口に合わなかった時が大変だろうから、色々選べるファミレスにしようか」
「おっけー」
「……そんなに種類が色々あるのですか?」
「ニホン人は食事にうるさいからね」
基本的にパンが主食だった異世界とは違い、米、パン、パスタ、麺と色々あるからねぇ。パンにしたって食パンやふわふわロールパン、逆に固いフランスパン、菓子パンに惣菜パンと挙げればキリがない。う、想像しただけで食べたくなってきた。でも今はガマンだ。
「いらっしゃいませー」
アリマツダンジョン最寄りのファミレスに入店する。ピーク前のおかげか待つことなくすんなり席に着くことができた。わたしはエルフェリアの隣に座り、メニューを一緒に見る。初めて見るそれにエルフェリアは目を丸くしていた。
「……これは……文字だけのメニューと違ってとてもわかりやすいですね」
「文字だけメニューのお店も結構あるけど、ファミレスは基本的に写真付きかな。見てるだけで美味しそうでどれも食べたくなっちゃうんだよね」
「ファミレスはデザートも美味しいんだよね!」
「わたしも甘いの食べたいし、頼んじゃおうか」
「……甘味がそんなに簡単に手に入るのですか……」
異世界も異世界で魔法があって便利な部分もあるけれど、高度に最適化された流通網と輸送技術のことも加えると圧倒的にこの世界に軍配があがる。おかげで毎日スーパーに野菜や果物、肉、魚と豊富に並ぶのが日常だ。あちらでは干物以外の魚なんか海沿いか川沿いでしか食べられなかったけど、ここでは海なし県で寿司とかも普通だしね。
色々考えた結果、わたしは味噌カツ定食、エルフェリアはミックスサンド、ヒナタはオムライスを頼んだ。あとケーキ二種類とパフェ一つ。乙女にあるまじきカロリー摂取量な気はするけれど、気にしてはいけない。
ほどなくしてデザートを除く全員分の注文が届き、いただきますと手を合わせて食べ始める。まずはお米を一口。
「~~~うまっ! 久しぶりのお米うまっ!」
「……美味しいです」
もちっと感とほんのりした甘さが口内に広がる。おかずなしでも食べられそうなほどに美味しい。隣でエルフェリアも食パンの柔らかさと新鮮なレタスのシャキシャキ感、たっぷりマヨネーズをからめた卵フィリングに目元が緩んでいる。そして味噌汁の優しい温かさにほっと胃が癒されたところに、味噌だれのたっぷりかかったトンカツを……うまい! 甘辛い味噌、サクサクに揚がったトンカツ、どちらも最高! そしてご飯がまたすすむ!
「ねぇお姉ちゃん、あたしのオムライスと味噌カツ一切れトレードしない?」
「いいよ。うん、卵がふわふわだしケチャップもいい具合に絡んでいて、これも美味しいね」
わたしとヒナタが食べ物交換するのはよくあることで。それを見ていたエルフェリアもおずおずと提案してくる。
「あの、セツナ、私もそれを食べてみたいです」
「いいよ~。ほら、あーん」
わたしが箸でつまんで差し出した味噌カツの一切れに、エルフェリアは一瞬戸惑ってから口を開ける。
……あっ。ヒナタ相手と同じノリでついやっちゃったけど……いやもうここまできたらやるしかない!と口の中に入れてあげる。
「……これも美味しいですね」
「う、うん、それはよかった!」
そんなわたしたちをテーブルの対面からヒナタがニヤニヤと見ていたことにも気付かずに。
やがてご飯を食べ終わり、デザートを待っている間にヒナタが思ってもみなかったことを言ってくる。
「ちなみに、お米も小麦もダンジョン産だよ」
「えっ」
「アンジョーの田園地帯の大半がダンジョンに呑まれちゃってね。でもダンジョンに入ってみたら、なんとびっくり中で育ってた! ……っていう。今では牛とかニワトリとか、色んな物を育ててるってさ」
「あぁ、プラント型ダンジョンね……」
この場合のプラントは、植物という意味でも間違ってないけど、主に工場という意味で使われる。今回の場合はお米生産工場みたいな。異世界にもプラント型ダンジョンがあったし、入ったこともある。プラント型の中でも食料タイプのダンジョンは特に大事にされていた。わたしのリアクションにヒナタは「やっぱり知ってたかぁ」みたいな顔をした。
デザートが運ばれ、わたしとエルフェリアがケーキを、ヒナタがパフェを食べる……のだったけれど、これも三人で分け合って食べることに。うーん、甘くて美味しい~。
「果物も、お肉も、なんでもかんでもダンジョンで育つんだから不思議だよねぇ」
「そこはわたしも不思議。エルフェリアは知ってる?」
「仕組みまではあまりわからないです……」
エルフェリアはわたしの魔法の先生でとても物知りなんだけど、この世界の研究者みたいにあちこちから集まって意見を交わしたり、論文を読んで知見を深めるということがあまりできず、一人もしくは特定の組織以外での研究はあまりできなかったみたい。……そうなると、この世界だと魔法とか関連技術が発展しやすくなったり……?
「最初のうちは『食の安全ガー!』とか騒がれていたけど、今となってはみんな普通に食べてるかな。なんか場所によっては普通に育てるより美味しくなってるらしいし」
「……それでも、こちらの食べ物はあちらよりとても美味しく感じるのですが……」
「んー、多分だけど品種改良の差かな?」
異世界も素材が悪いってわけじゃなかったんだけどねぇ……それでも食文化がこちらに比べて遅れていた。品種改良だけでなく、調理方法も、調味料も、豊富ではなかった。まぁモノによってはとても美味しいものもあったけれどもね。あちら固有の生物の肉とか。
そんなわたしの呟きにヒナタが食いついてくる。
「なになに? ひょっとしてドラゴン肉とか食べちゃったりした?」
「いやあれは食べられなくて……一番美味しかったのはブルガノス――牛みたいなやつだったよ」
「ふーん、そうなんだ……。ん? つまり戦ったことはある、ってこと?」
「まぁそうだね」
ヒナタは叫び声を上げようとして慌てて自分で口を塞いでいた。……ファミレスですからね。えらい。
「まぁ、あっちのことは家でおいおい話してあげるよ」
「やったー、楽しみにしてるね!」
こうして過去をゆっくりと振り返ることができるのも、帰ってきたって実感がするねぇ……。




