05 勇者セツナの片鱗
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一方、休憩スペースにて。
セツナの初?のダンジョン探索を端末からリアルタイムに眺めている二人はというと。
「わー……すごい! ビッグラットが一刀両断だ……っ!」
セツナの戦うところを初めて見るヒナタは、セツナが鮮やかにモンスターを倒したことに歓声を上げていた。その横でエルフェリアは『これくらいは当然ですよ』と澄まし顔をしている……つもりで、嬉しそうな色を隠せないでいる。
「あ、あ、なんかすごい景色が流れるのが早くなった!?」
「これは加速の魔法を使ったからですね」
「魔法かぁ。配信で探索者の人たちが使ってるのを何度も見たことあるけど……こうやってお姉ちゃんが使っているのを見ると、なんだか不思議な気持ちになるよ」
「? こちらでは魔法が使えなかったとセツナさま……セツナに聞いておりますが、今は使える人がいるのですか?」
「みんながみんな、ってわけじゃないけど、結構使える人いるよー」
ヒナタの回答にエルフェリアは内心で唸る。
魔法のない世界とはつまり、誰からも魔法を教わることができない世界でもある。たった五年で使えるようになるのは驚くべき進歩だとエルフェリアは考えたからだ。
セツナが魔法を使えるのは、魔法を使うのが当たり前な異世界においてはすでにかなりの研究がされており、エルフェリアが教え込んだからである。セツナは覚えがよく、教え甲斐があったのも覚えている。そのセツナが特別なのだと思っていたけれど、チキュウ人自体が特別なのだろうか、とまで考え始めた。
……のちに、マンガやアニメの存在を知って、妙な笑いを零すことになるのだが。
「すごいすごい、みーんな一撃で倒しちゃうよ。これも魔法なの?」
「いいえ、使っておりません。剣の腕によるものです」
「へぇー!」
セツナは移動時間短縮のために速度強化魔法を使用したが、この程度のモンスター相手に他の強化魔法は使うまでもないとエルフェリアは知っている。
「うーん、ちょっと運動神経が良いってだけの、ただの女子高生だったお姉ちゃんがこんなすごい人になったのかぁ……」
ヒナタがセツナを褒めるたびに、エルフェリアは我がことのように喜びを見せる。それにはヒナタも気付いていて――
「ねぇ、エルおねーちゃん。うちのお姉ちゃんのこと好き?」
思わず、問いかけた。
それにエルフェリアは目を何度か瞬いてから……いともあっさりと答える。
「――えぇ、愛していますよ」
「ンフっ……思ったより高火力で返ってきたんだよ……!?」
親友ポジションかと思っていたのに、思いもよらぬ……頭の隅ではうっすらと感じ取っていたセツナに向ける信頼の根源に、ヒナタは聞いた方が恥ずかしいとばかりに頬を染めた。
「えっと、それは、お姉ちゃんが勇者として強いから?」
「……ヒナタは、セツナが召喚当初なんと呼ばれていたか想像が付きますか?」
「え、えー……なんだろ……少女勇者とか?」
質問に質問で返されて、何とも安直な案を出すヒナタだったが。
「答えは、『史上最弱勇者』です」
「えっ――」
「セツナは……記録にある勇者たちの中で、最弱の烙印を押されました」
エルフェリアは過去を思い出し、目を伏せる。
ある意味納得のできる話ではある。ヒナタが先ほど言っていた通り、セツナはただの子どもだったのだ。平和な時代に生まれ、何の戦闘訓練も受けていない子どもが戦いの中に放り出されたところで、まともに戦うことなどできやしないのが普通だ。
しかしセツナは勇者として召喚されたのだ。その落差を目の当たりにした者たちは大いに落胆し、早々に見切りを付けた者もかなりの数がいた。
「……ひどい話ですよね。勝手に召喚しておいて、怒るどころか快く了承してくれた方にそのような仕打ちをするなんて」
とはいえ、エルフェリアも不安には感じていた。こんな幼い少女が勇者としてやっていけるのかと。その不安を隠しながら、聖女としての責任感と負い目もあって勇者のサポートを始めた。
そして……徐々に、何故セツナが勇者として召喚されたのか、実感することになる。
「たくさん傷付いて、たくさん悲しんで、たくさん泣いて。それでも……セツナは、前へ進むのを辞めなかったのです」
傷だらけになって這う這うの体で逃げることもあった。助けたはずの相手に『なんでもっと早く助けてくれなかった』と罵倒されて悲しむこともあった。『何故自分はこんなに弱いんだ』と泣き言を漏らすこともあった。
それでも……勇者を辞めたいとは、一回たりとも言わなかった。小さな肩に背負った大きな責務を投げ出すことはしなかった。
強くなることを諦めなかった。人に手を伸ばすことを諦めなかった。走ることを諦めなかった。
やがて魔王を倒してのけるまでに、成長を遂げたのだった。
「私は、そんなセツナの『強さ』を、愛していますよ」
「……」
セツナの壮絶な道のりの一端を知り、ヒナタは絶句するしかなかった。
そして同時に……やはりエルフェリアが居てくれて助かったとも思った。自分の想像通り、エルフェリアのサポートがあったからこそ、セツナは元気に帰ってきたのだと確信したのだ。
いずれなにか恩返しをしなきゃなぁと心に抱き、「教えてくれてありがとう」と告げる。
「あ、見て見て、ガーディアンだよ! ……って、え? もう一番奥まで辿り着いたの!?」
「これは……ロックゴーレムですか」
視線を端末に戻してみれば、セツナは比較的大きな空間でガーディアンことロックゴーレムと対峙していた。守護者がいるということは、そのすぐ先にダンジョンのコアルームがあるということ。つまり最奥である。
「こいつには攻略法があって、お姉ちゃんなら当然知って……え? あれ?」
「セツナであれば、岩だろうと斬れますからね」
ヒナタが固唾を飲んで見守っている中、セツナは一メートルほどの高さのロックゴーレムの頭頂部から股下までナイフの一閃で真っ二つにしていた。あまりの事態にヒナタはぽかんと口を開ける。
しばらくして驚きが収まると同時に、少々の懸念を感じた。これは後できちんと話し合わないと、と心の中のメモ帳に記す。
コアルームにはコアだけでなく入口へ戻るポータルが存在していることがほとんどだ。それに乗ってセツナはさしたる苦戦もなく帰還を果たすのだった。
◇◇◇◇◇
「おや、もう帰ってきたのかい? ……こほん、失礼。これは別に責めてるわけではありません。危険だと思ったら帰ってくるのも勇気のうちですからね」
「あはは……お気遣いありがとうございます。ドローンお返ししますね」
所用時間五十分ほど。
どうやら受付のおじさんは、わたしが最奥まで行って帰ってきたとは思わず、途中で引き返してきたと思ったようだ。あえて訂正せずに笑ってごまかす。……撮影データを確認されればすぐにバレるだろうけどね。
買取カウンターで魔石の一部を換金すると、一日の食事代くらいにはなった。小さい魔石ばかりだったしこんなものだろう。なお、一部だけなのは研究用にエルフェリアにあげようと思っているからだ。
休憩スペースに向かい、待っててくれた二人へと声を掛ける。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、セツナ」
「お帰りお姉ちゃん、すごかったよ!」
「そう? よかった」
ヒナタに手放しで褒められ、てれてれとしていたのだけど。表情が、ちょっと難しそうなものになっていたことに気付く。
「どしたの? 何かあった?」
「あー、うん、気になることがあってね。家に帰ったら話すよ」
「……? わかった」
なにやら意味深なセリフが気掛かりだったけど……緊急でもないし、家に帰れば聞けるということでいったん置いておいて。
実は、エルフェリアが転移魔法陣を設置してくれたおかげで、家には一瞬で帰れるのだけれども……ここまできてすぐ帰るのももったいない。
「ご飯食べて、ちょっとぶらついてから帰ろうか」
「わーい!」
「はい、お任せします」
ふふ、この二人とニホンで休日を楽しめるなんて、思ってもみなかったな。




