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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち


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04 初心者ダンジョン

 翌日になり、わたしは早速ダンジョンに潜ってみることにした。

 どうやらわたしの記憶にない四月の間に、学校で講習を受けて探索者ダイバーライセンスも取得していたらしい。講習テキストをパラパラと確認してみたけど「まぁそうね」って感じの当たり前のことしか書かれていなかった。

 ダンジョン時代になっても止まっていなかった電車で三十分ほど揺られ、目的地のアリマツに辿り着く。駅前は再開発されているけれど、ちょっと移動しただけでエド時代の街並みが見られるところにダンジョンがあるのも不思議な感じだ。


「私としては、でんしゃ(・・・・)とやらの方が不思議ですが……馬車より早くて便利ですね。でんしゃ以外にもあちこち建物だらけ、人だらけで、くらくらしてしまいます」

「大自然ドーン!のあの世界と比べたらそりゃそうだろうね」

「あたしはエルおねーちゃんの方が不思議かなぁ、ンフフ」


 今回のダンジョン探索ダイブにはエルフェリアとヒナタも同行している。ヒナタは年齢制限に引っ掛かって、エルフェリアは身分証明書がなくて、それぞれライセンス取得不可で、潜るのはわたしだけだけど。……身分証問題どうしようね。

 ヒナタはさっくりエルフェリアに懐き、エルおねーちゃんとまで呼ぶようになった。なお、エルフェリアはわたしにも以前からずっとフレンドリーに呼んでほしかったらしく、『様』付けを外すようにお願いされた。ちょっと慣れない。

 連休のせいか、駅前に人が多い。金髪碧眼、背も高めでスラッとしたモデル体型に近いエルフェリアは目立っており、ちらちらと視線が降り注いでいる。大きく騒がれないのは、帽子を被って耳を隠し、幻影を纏って羽を見えなくしているからだろう。モノ自体は消せず触れたらわかっちゃうので満員電車は気を付けないとね。

 そうして駅から歩くこと十五分。初心者ダンジョンとも呼称されるアリマツダンジョン前の探索者ダイバー協会アリマツ出張所へと到着した。


「思ったより人が居ないね?」

「ここは最初の最初だから、すぐに卒業して次に行っちゃうんじゃないかな」


 閑散としたロビーを見て呟くわたしに、ヒナタが納得のいく答えをくれた。

 事前にダウンロードした情報によると、洞窟型ダンジョンで階層はわずか三つのみ。マップ、出現モンスターも全網羅されており、初心者であろうとよっぽど適性がない人以外は三時間程度で攻略できるのだとか。まさにチュートリアル。

 規模が小さいので出張所も小さく、こぢんまりとした事務所みたいである。小さな受付と買取カウンター、休憩スペースも小さくて長椅子が数脚と自販機くらいしかない。

 しかしここにはただの事務所にはありえないものが奥に存在している。ダンジョンへのポータルだ。直径二メートルくらいの円が床にあり、淡く青い光を放っている。ダンジョンは何とも不思議な構造物で、基本的にポータルからしか出入りできない。例外もあるけども。

 さて、入るには受付が必要なんだっけ。


「おはようございます。入場したいんですけど」

「ライセンスカードの提示をお願いします」

「はい。あ、この二人は付き添いで、入るのはわたしだけです」


 わたしは受付のおじさんにライセンスカードを渡す。何かの機械に通され、青い光が灯った。おそらく『問題なし』の色だろう。


「おや、初探索(ダイブ)ですか。説明は要りますか?」

「そうですね、一応お願いできますか?」


 念のため聞いてみたけど、ほぼ講習テキストに書かれている内容と同じだった。

 まず大前提として、国の法を守ること。ダンジョン関係の法律が結構追加されているので別途確認は必要として。

 怪我は自己責任、探索者ダイバー同士の揉め事も自己責任。

 ダンジョンで得た素材の売り先は自由。探索者ダイバー活動による各種優遇策もある。

 ここのダンジョンは初心者用として運用しているので、コアは破壊禁止。これも異世界でやってたことだな。コアを壊すとモンスターがしばらく出なくなっちゃうからね。時間経過で復活するのだけど、条件が揃うとダンジョンごと消えてしまうのでこれも注意。

 そして特徴的なものとして、ドローンによる探索ダイブ時の撮影義務。ドローンを故意に破壊すると罰則、場合によってはライセンス剥奪。


 ……まぁ、ダンジョン黎明期にかなり血生臭いことがあったみたい。完全に犯罪が防げるわけじゃないけれど、見られているだけでも抑制にはなる。撮影データはリアルタイムでデータセンターに送っていて、事件を起こした時に壊したところで証拠隠滅にはならない。役割は監視だけでなく、撮影データでダンジョンを解析したり、希望者は企業に公開して売り込みにも使えるのだとか。

 で、撮影するなら配信してしまえ、などと思ったストリーマーが居たとかで。見られる方はお金を稼げる、見る方は楽しむ、あるいは予習になる、協会としてもヒナタが言っていたように慣らし(・・・)にもなって、三方ヨシ!みたいな。昔のわたしなら顔をしかめただろうけど、モンスターが実在する世の中になってはあまり綺麗事も言っていられない。


「ではこちらが撮影用のドローンです」


 言いながら渡されたのは、プロペラが付いた手のひらに乗るサイズの小さな箱。これで自律飛行して撮影もできるのだから技術ってすごいよね。エルフェリアも珍しいのか肩越しに覗いてきている。


「えっと、一つ質問なのですが、この撮影データって非公開を希望した場合、協会の人以外が閲覧することってあるんですか?」

「あなたが犯罪行為をした場合は警察に提供しますが、それ以外に外部に提供することはありません。この撮影はデータ収集も兼ねておりますが、前提としてあなたたち探索者ダイバーを守るためのものでありますので、個人情報はきっちりと保護させていただきます」

「なるほど」


 うっかり勇者の力で変なことをしても、世間一般に広まることはないってことね。

 わたしは受付のおじさんにお礼を言って、二人を連れて休憩スペースへと移動した。


「お姉ちゃん、ドローンのID教えてくれる? 配信設定するから」

「えっ? する予定ないよ?」

「プライベート設定するから大丈夫だよ。あたしとエルおねーちゃんが見れるようにしたいんだよね」


 へぇ、そんなこともできるんだ、と感心しながらドローンを操作して読み込み用コードを表示させる。

 ヒナタは自分の情報端末でスキャンし、配信サイト――ダイバーストリームを開いて、素早い手つきで何やら打ち込み始めた。この子、わたしよりずっと情報系に強いのよねぇ。


「よし、アカウント作成と連携完了っと。エルおねーちゃん、これでお姉ちゃんの雄姿が見れるよ」

「それは大変便利ですね」

「あはは……見っともないところを見せないよう頑張るよ」


 わたしは二人を休憩スペースに残し、奥のダンジョンポータルへと向かう。

 攻略時間は三時間程度だったか。……そんなに待たせるわけにはいかないよね。


「目標一時間切り、ってとこかな」


 呟きながら、わたしはポータルに足を踏み入れた。

 わずかな浮遊感の後に、目の前がコンクリートの壁から岩壁へと変化する。前情報通りの洞窟型ダンジョン。異世界でもよくあったタイプだ。……帰ってきたばかりのはずなのに、どこか懐かしく感じるのは何故だろう。


「マップは全て頭に入ってるけど……まずは探知ソナーっと」


 わたしは魔力を放出し、周辺を調べる。ダンジョンの道ではなく、人とモンスターの位置を調べるためだ。後者はともかく、今回は前者とかち合いたくないからね。


「左の道の方はモンスターだけで人は居ないから、こっちから行こう。おっと、その前に武器を用意しないと」


 腰のポーチを探るふりして、いかにも初心者御用達っぽいナイフを生成する。先日、空間収納アイテムボックスに勇者時代のアイテム諸々が残っていることが判明したけれど、さすがにあの装備では目立つ。なので魔力で生成したってわけ。これでも下手な装備よりはずっと強い。

 ベルトに差してサッと抜けるよう調整してから、小走りで奥へと走る。

 モンスターは、すぐに現れた。


「ビッグラットか。情報通りだね」


 体長五十センチくらいの、名前通りの大きなネズミ。苦手な人はもうここでダメだろうけど、この程度ではまだ可愛らしいものだ。実際に可愛らしい容姿のモンスターだっている。しかし……モンスターは全てが敵対者であり、相容れることはない。手を緩めてはいけない存在だ。

 腰を落とし……足を大きく踏み出しながら、ビッグラットへとナイフを一閃。


 ギギュッ!


 真っ二つになったビッグラットは塵となって消え、そこには小さな魔石だけが残された。

 モンスターは魔力でできた存在であり、倒せばその体が残ることはない。例外は心臓部である魔石と、たまに落ちる魔力の籠った戦利品ドロップアイテム。異世界ではこれがお金になったし、この世界でも同じになった。


「うん、ここも特に変わりはないね。じゃあ……ペースアップするかな。――加速アクセル


 わたしは速度強化魔法を使用し、奥へと駆け出していった。

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