19 再びの
第四層は、またもゴーレムの形状が異なっていた。なんというか……レーシングカーが二足歩行ロボットに変形したかのような。
これがいつものわたしであれば『変形ロボ!? カッコいい!!』と無邪気にはしゃいだものだけど、第三層で見てしまった人の死をまだ引きずっているのでそんな気分にはなれない。……はぁ。
足の裏にタイヤがあり、高速で滑るように突っ込んでくるロボゴーレムに、わたしは第三層の時と同じように土の壁を作成した。のだが。
「うっそぉ……!?」
その足は伊達じゃないのか、巧みに操り素早く方向転換をして土の壁を避けたのだ。
あまりの技のキレに思わず見とれてしまい、その間にロボゴーレムが目前へと迫り――
「土の壁」
エルフェリアの唱えた土の壁、それも足元ピッタリに展開する見事な精度で、ロボゴーレムは上空へとかちあげられた。
そのまま落下するかに思えたロボゴーレムだけど、空中で姿勢制御をして足から着地することに成功する。
「闇の槍」
エルフェリアの追撃。これが普通の人間であればまず当たったであろうタイミングだったのだけれども、しゃがんだままタイヤを駆動させてギリギリで避ける。
え、なにこいつ。強くない? と思った直後に。
「土の壁、闇の槍」
ロボゴーレムの四方を囲むように土の壁が作成され、唯一空いていた上部から闇の槍が降り注ぐ。その状態ではさすがに避けきれなかったようで、ロボゴーレムの砕ける音が響き渡った。
「ご、ごめんエルフェリア。ありがとう」
「どういたしまして。とはいえ、ただの機動力頼りで、今のセツナの防御を抜けるとは思いませんけれども……」
「それは……どうだろうね?」
おそらく、今のわたしはトラックにはねられても擦り傷くらいしか負わないだろう。強いモンスターが相手だと、魔力を帯びていない攻撃では効果が落ちてしまうのと同じだ。素の力に加えてバフもりもりで、それくらいには防御力がある。
さきほどのロボゴーレムも速度と質量はあったけれど、魔力の強さはそこまで感じられなかった。さすがに第三層の敵とレベルが違いすぎるので特殊個体だとは思うんだけど……機動力に全振りしたのだろうか。よくわかんないや。
……一見すればヒーローアニメのロボ……。エルフェリアが、ダンジョンは『人の望みを叶える』ことがあると言ってたけど……まさかね??
せっかくなのでドロップアイテムを拾い集めていると、エルフェリアが辛うじてわたしの耳に届く声量で囁く。
「セツナ。そのまま拾いながら、後ろを振り向かずに聞いてください。ドローンが一機ついてきています」
「えっ」
いや……十分にありえたことか。上に探索者がたくさんいたし、わたしたちが中に入っていくのも見られているのだ。気になって飛ばす人は当然いることだろう。
「折りを見て破壊しますか?」
「……まぁそれは最終手段ということで。でも積極的に保護しなくてもいいかな」
「わかりました。ひとまず、正体が露見しそうな発言だけはお互い気を付けましょう」
「うん」
……どの辺りから撮影されていたんだろう? 大声で名前を呼ぶようなことはしてないから大丈夫だとは思うけど……。わたしはエルフェリア以上にうっかりだから、本当に気を付けないとな。モンスターが壊してくれるのが一番気楽ではあるんだけど……壊されることが気楽というのも何かイヤだなぁ。
気を取り直して、奥へと進む。さきほどのロボゴーレムはやはり特殊個体だったようで、あそこまで回避してくるロボゴーレムは他にはいなかった。まぁ目の前まで接近されたとしても、剣で斬ればいいだけの話なのだけども。さっきのは……うん。どうにも勇者時代に比べて腑抜けている気がする。異世界アルスリオと違って常在戦場の意識を持ち続ける必要はないとはいえ、ダンジョンくらいはしっかりせねば。
第五層までの階段まであと少しというところで。
「……いやいやいや、うそでしょ……?」
「これは……」
わたしとエルフェリアはそろって驚愕する。
なぜなら、眼前に広がるのは……ドス黒い粘液。
そう……あのメイエキタワーダンジョンの屋上でも見かけた、精霊喰らいだ。
それが奥まで続いている……というよりは、第五層から溢れているのだろう。少しずつ、こちら側へ広がってきていた。
「こんな短期間に二度も精霊喰らいを見かけるなんて……どうなっているんだ……?」
精霊喰らいはアルスリオでもレアモンスターだった。そうでなければ、やつらのエサである精霊なんて滅んでいたことだろう。
精霊の眷属でもあるエルフェリアは眉を顰め、呟く。
「何が起こっているのかはわかりませんが、一つだけ確実なことがありますね」
「それは?」
「この先には、魔王……に似たあれが現れた時のような、強敵が待ち構えているということです」
「……そうは……ありそうだね」
たかが五年のチャージではありえないほど強敵だったドラゴンウォリアー。
そして、空の亀裂と……魔王に似た、わたしに助けを求めてきた誰か。勇気の炉心を使ってやっとわずかに届いただけの、果てしなく遠い存在。
ここに来ているのだろうか……? わたしはぎゅっと拳を握りしめる。
「ともかく、これを何とかしないといけませんね。セツナは下がってください」
「う、うん、よろしく」
精霊装備セットでは精霊喰らいとあまりに相性が悪い。いや種族的にはエルフェリアの方がよっぽど相性が悪いのだけれども、彼女には技術がある。
わたしは今現在精霊の力を大いに借りており、自然と魔力が精霊力に変換されてしまう。魔力のまま使うなんて器用なマネはあんまりできない。しかしエルフェリアは精霊のような身でありながら、魔力として自在に使用できる。その分効率は悪化するみたいだけど、精霊喰らいが相手では結果的にこの方が効率が良くなる。
「光の波紋」
エルフェリアの玲瓏な声と共に、美しい光の波が広がった。効果としては、わたしが以前使った光の衣の範囲版に浄化機能を付け足したものだ。
光を浴びた途端、粘液が雑巾がけされたように消えていく。ツンとする臭いが漂っていたのだが、それすらも消していく。
「逆に翼を収納しておいてよかったかもしれませんね。表面積が減って不意に触れることが減りますので」
「そっか。エルフェリアにとって悪いことばかりでなくてよかったよ」
「…………十分に良い思いをさせていただいていますが」
「え?」
何事かを言っていたようだけれど、声が小さすぎてわたしにも聞こえなかった。聞き返してみても、「なんでもありません」と首を横に振る。
「ともかく、私が精霊喰らいを退けます。セツナは他を警戒しつつ、私の後を付いてきてください」
「うん、お願いするよ」
勇者として聖女様の後ろに付いていくのはちょっとカッコ悪い気もするけれど、適材適所といえばそうだし、エルフェリア自身絶対に譲ってくれないだろう。頼まれた通り、他のモンスターの警戒に勤めよう。
慎重に階段を降り、第五層に到達する。ここのマップは他の階層に比べて少し狭いくらいでほぼ同じ構造らしい。変わらず壁は観客席で埋められ、中央はサーキットの路面が広がっている。
しかしゴーレムはいない。全部精霊喰らいの餌食になったのだろうか。
……いや、一体だけいる。中央に、ポツンと、精霊喰らいを踏みつけるように佇んでいた。あれがガーディアンだろうか。
形状は第四層のロボゴーレムとほぼ変わらない。しかし一回り小さい。いや、どちらかというと、人間より一回り大きいというべきか。よくよく見てみれば、黒い靄をまとった人型モンスターがゴーレムパーツを装備しているようにも見える。どこかで読んだマンガのダークヒーローみたいでちょっとカッコいいと思ってしまった。
比較して小さいとはいえ決して油断ならない。こいつに魔力のほとんどを注いでいたのか、途轍もない濃密な魔力をまとっているからだ。ドラゴンウォリアー以上の強化個体かもしれない。そして手には真っ黒の剣。近接戦であればわたしの出番だ。
「エルフェリア。サポートをお願い」
「はい。お任せください」
エルフェリアは光の波紋を維持しながらわたしへ各種バフを追加してくれる。
そして、進めとばかりに道も作ってくれる。暗闇を斬り裂く光の道を。
私は剣の柄を握りしめ直し……ガーディアンゴーレムへと一気に駆け出すのだった。




