20 ガーディアン・二
「シッ――」
渾身の切り上げ。しかしそれはガーディアンの剣によって容易くいなされた。
今のわたしのスピードに付いてこられたことに目を瞠るけれど、第四層の特殊個体の時のように呆ける愚は犯さない。脅威度を一段上に見積もりながら、連撃を放つ。
しかしそのどれもが対処される。黒い靄で表情が見えない――そもそもゴーレムであれば表情はない――のだけど、相手の動きから察するにギリギリどころか余裕で捌いているようにすら見える。これは……思った以上に強敵かもしれない。
「――」
「……くっ!」
気合いの声も何もなく、無言で迫りくる黒い剣。背筋に嫌なものが走り、わたしは力で強引に受けるのではなく、剣身を斜めにして軌道を逸らす。黒い剣はアスファルトの床を音もなく大きく斬り裂いた。剣が引っ掛かっているうちに攻撃を、なんて考えられないくらいにスパッと斬られ、さらには素早い返しからの突きが迫ってきたので、一旦距離を取るためにも下がる。……あっぶな、もう少し判断が遅ければ刺さってるところだった。
相手の腕が伸びきったところで肘を狙う。器用にも腕部分のアーマーで逸らされた。とはいえ技量ほどの装甲はないのか削ぎ落すことはできたので、同じ手は二度と使えないだろう。
さらに二歩三歩と下がる。ガーディアンは追いかけようとしてくるが。
「闇の槍」
エルフェリアの魔法が阻む。避けるためにガーディアンがわずかに足を止めたところで追加の闇の槍。それすらも反応して跳ぶ。
「闇の槍」
空中にいるところをさらに狙い打つ。が、これは黒い剣によって斬り払われた。ま、マジかぁ……。
実のところ、魔法は条件が揃えば破壊することができる。一つ、武器が魔力を帯びていること。そしてもう一つが、魔法の中心点を叩くこと。前者は誰でも用意できるが、後者を正確に狙うことは難しい。現代風に言えば、高速で飛来する小さな弾丸を斬るようなものだろうか。わたしもできなくもないけど……まさかガーディアンがここまでの技量の持ち主とは意外すぎる。前回のドラゴンウォリアーの時といい、明らかに魔力チャージ量に対するモンスターの強さではない。せっかく故郷に戻ってきたというのに、おかしなことだらけだ。
魔法攻撃が脅威ではなくとも鬱陶しいとは感じたのか、ガーディアンがわたしではなくエルフェリアの方を見る。いけない、エルフェリアは魔法のスペシャリストではあっても近接戦闘は苦手なのだ。
「はああああああっ!」
決してエルフェリアに近付かせてはいけない。あえてわたしは気を引くように声に魔力を乗せて叫びながら、ガーディアンに飛び掛かり剣を振り下ろす。受け止められるけれど、視線がこちらに戻ったので問題ない。
「直接攻撃はしないで、サポートをお願い!」
「……っ、わかりました!」
エルフェリアは無念を滲ませながら応答し、周囲の精霊喰らいを退けてくれる。それに気を取られないだけでも十分にありがたい。
幸いにしてこのガーディアンは魔法を使ってくる気配はない。もちろん、現時点で使ってないだけかもしれないので油断は禁物だけれども。そして、第四層の特殊個体と違って足元にタイヤがあるわけでもないので変則移動もない。あくまで人型の範疇の動きなのでまだ読みやすい。……まぁ、それが恐ろしく早いというのが問題ではあるのだけれども。
ただわたしには、おそらく世界最強の剣士だったリオの教えが文字通りに叩き込まれている。剣に関してはそれなりに対処法がわかっているつもりだ。加えて、わたしには魔法という手段がある。相手が使ってこないからといって、わたしまで使わないでいる義理などない。
「衝撃!!」
「――」
剣が交差する瞬間、わたしは魔法で衝撃波をぶちこみ、ガーディアンの体勢をわずかながら崩す。そして剣へ大量に魔力を回し、ガーディアンの黒い剣の破壊を目論む。
しかし、靄が黒い剣に集まったことで強化されたのか、破壊には至らなかった。ギリギリと刃が噛み合い、火花が散る。力は拮抗しており、腕も足も動かない。……口は動くけどね。
「光の槍!」
「――」
ガーディアンの足を地面に縫い付けようとして放たれた光の槍は。
「うわわっ!? ――がふっ」
ガクンとガーディアンが力を抜いたことによりその身は後ろへと傾ぎ、ついでにわたしの体も前へとつんのめってしまう。体勢を保とうするけれども、ガーディアンはバク転をしながらわたしのお腹へ蹴りを入れ、足の装甲を削られながらもすんでのところで光の槍を避けるという離れ業までやってのけた。
とはいえただやられて終わるわけにはいかない。こみあげてくる胃液をこらえながら光の壁を放ち、広範囲の面をぶつける。バク転直後のおかげか、それは斬られることなくぶち当たり、ガーディアンが吹っ飛ぶ。その隙にエルフェリアの癒しの光が届き、胃の痛みがスッと消えた。
「光の壁! 光の槍!」
わたしはエルフェリアの真似をして、ガーディアンの四方をまず光の壁で囲い、逃げられなくしてから光の槍で狙う。
すぐさま起き上がったガーディアンはすっと腰を下ろし――黒い剣を横に一閃。
ゴバッ!!!
光の壁を斬り裂きながら、剣閃で衝撃破を放った。
魔法ではない、ただの魔力の塊。しかしそれは、すさまじいまでの勢いで。
「光の壁!」
「闇の壁」
わたしとエルフェリア、二重の魔法の壁で防御に成功したが……後ろで何かが壊れる音がした。一体何の……あ、ドローンが壊れたのか。いや申し訳ないけど丁度いい。余計なことに気を取られないで済む。
「ところでエルフェリア。わたし……ちょっとばかり突飛な考えが浮かんだんだけど」
「奇遇ですね、セツナ。私も同じです」
先ほどの、半透明の光の壁越しに見たガーディアンの構えと、放った技。見間違いでなければ、あれは――
「……あの黒い靄、剥がせる?」
「……想像通りなら頑丈でしょうし、いっそ吹き飛ばして動けなくした方が早いのでは?」
「いやいやいや……それはちょっと……」
「……とりあえず、セツナは攻撃を続けてください」
「了解」
返事をしながら駆け出す。剣を振りかぶると、ガーディアンは同じく剣で対応しようとする。下手に魔法を使うよりはこちらの方がまだ行動が読めるかもしれない。……野生の勘というかなんというか、反応が神がかっているからなぁ。
刃をぶつけ合う鈍い音が何度も響き渡る。わたしはこれでも精霊装備とエルフェリアのおかげで強化されているのだけれども、ガーディアンも黒い靄で強化がされているのだろう。それを引き剥がしさえすれば強化が解けると共に、中身が出てくる、と思いたい。
「セツナ、申し訳ありません。重力」
「……っと」
エルフェリアが謝罪しつつも重力魔法で地面に縫い付ける。わたしを巻き込むほどの広範囲で。わたしに剣を打ち込まれていたためガーディアンは跳んで避けることもできず、また広範囲のため斬って壊すこともできず。
「セツナはそのまま腕を使えないようにしていてください。闇の鎖」
「――」
ガーディアンはさらに闇の鎖で絡めとられ、完全に機動力を喪う。
「解除」
避けられないよう固定したところで、エルフェリアは魔法効果を解除する魔法を使用した。……靄は薄くなった気はするけれど、全ては消えない。
「……他にもやってみましょうか。浄化」
「――……ぎっ」
続けて呪いなどのデバフを解く魔法を掛けられた瞬間、何一つ言葉を発さなかったガーディアンから苦悶の声が生まれた。効いている、のか?
ただ大人しくしていてはくれず、足を鎖に絡め取られたまま、黒い剣をやたらめったらに振り回す。はたして呪いに抵抗しているのか、解呪に抵抗しているのか。力は逆に増しているが、技巧が失われたそれをわたしが対応するのはなんとか可能だ。
……よくよく見て見れば、この黒い剣、色が真っ黒なことを除けば形状に見覚えがある。どうしてもっと早く気付かなかったのか。
わたしは刃を受け止め、黒い剣の汚泥を吹き飛ばすように光属性の魔力を放つ。
「目を、覚まして……! リオ!!」
「があああああっ!?」
叫びと共に、光が生まれた。
その柔らかな光は、剣から闇を吹き飛ばし、体から黒い靄を押し流し、おまけにゴーレム装甲もガラリと落ちて。
後には、人の姿が残った。




