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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち
第二章

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17 スズカダンジョン

 転移先は、空だった。建造物にぶつからないように位置設定してくれたのだろう。

 街並みは遥か下方。そして……ダンジョンらしき場所は……あれ、どこだろう? あ、あった。結構遠い。


「申し訳ありません、計算がずれました。次はもっと正確にやってみせます」

「いやいや十分だよ。でも期待しているね」


 実際、行ったことがない場所でも計算で行けるようになったのはとても大きい。めちゃくちゃ今後の役に立ってくれることだろう。

 さてダンジョンまで飛ぶか、と思ったところで、エルフェリアが姿勢を崩す。


「ど、どうしたの? 慣れない転移方法で疲れた?」

「……いえ、翼がないのを忘れていました。バランスを保つのに少々……」

「早速影響出てるぅ!? とりあえず、今回はわたしに掴まって。連れて行くから」

「……よろしくお願いします」


 わたしに元々翼なんてないので、飛行魔法の使用に影響は出ないからね。

 エルフェリアがわたしの腰辺りにぎゅっと掴まってくる。その柔らかさと温もりにちょっとムズムズしてから、精霊王のマントに魔力を流す。


「んじゃ、行くよ!」

「はい」


 わたしは靄を目印に進む。望外にさくっと来れたおかげで、映像で観た状態とほぼ変わりがない。これなら被害を大きく抑えられるだろう。ただ……ダンジョンに潜っている探索者《ダイバー》の状態まではわからない。ヤバいと思って逃げてきてくれていればいいのだけども。

 ほぼ真上、元サーキットの路面の上空まで辿り着いたその時、モンスターから逃げ回っている人が見えた。


「エルフェリア、お願い!」

「お任せください」


 頼むやいなや、エルフェリアは闇の槍(ダークランス)を唱えて上空からモンスターを貫いた。……わたしと同じで光属性が得意なのに、使う魔法まで変えてるのは徹底しているね?

 無事に助かった人は上を向いて何事か叫んでいるけれど、たとえ苦情があったとしても聞いていられないんだ、ごめん。

 わたしは飛ぶことに集中し、エルフェリアが上空から攻撃していく。進みながらスピードと高度を下げ、出張所らしき建物前へと到達した。もちろんぶつかることはせず、ふわりと着地する。

 まだ残っていた探索者《ダイバー》たちが飛んできたわたしたちを見てギョッとしているけれど……モンスターから目を離したら危ないでしょう。すかさずエルフェリアが闇の槍(ダークランス)を複数生成して、見えていた範囲のモンスターを全部倒してくれたけれども。とはいえ、噴出《アウトブレイク》中なのでいくらでも出てきてしまう。


「な、なんだお前たちは!?」

「それよりも、誰か状況説明をお願いします! あと、大怪我を負っている人がいたら教えてください!」


 申し訳ないけど、わたしたちの素性を説明するわけにはいかない。見覚えのない、ピカピカ光る二人組に訝し気な視線を送る人がいたのだが。


「あ! この白いやつ、ひょっとしてメイエキタワーダンジョンの!?」

「何だって!?」

「……そういえば、同じ真っ白だ。なんか黒い人が増えているけれど……」


 ある人が指をさして叫んだ途端、また別のざわめきが広がる。……警戒されるよりはマシだけど、できれば状況を教えて欲しいんだけどなぁ……。これはもう諦めて先に進むべきだろうか。

 内心で溜息を吐いていると、奥の方から手が上がる。


「け、怪我人、こっちだ!」

「――。行こう」


 バレる要素を増やさないようエルフェリアの名前は呼ばず視線で促し、エルフェリアも察してくれたのか頷きだけで返してくる。

 声の方へ進むと、頭から血を流し、右側に裂傷を負い、腕も折れている男性が座り込んでいた。これなら完全再生《リジェネレーション》までは必要なさそうだ。


「癒しの光(ヒーリングライト)」


 エルフェリアが怪我人に手をかざし、患部へと光が宿る。まるで操り人形のように腕が動き、折れた骨が繋がり、傷も塞がっていく。その速さと効果の高さに、男性たちがどよめいていた。

 しかし、ホッと一息吐く間もなく。


「――。念のため、周辺の防御お願い」

「はい」


 「え?」と疑問の声を零す男性には応えず、わたしは奥へと視線を向ける。柄だけの剣を抜き、剣身を生成したところで、轟音を立てて出張所の壁が破られた。

 現れたのは、天井に頭を擦りそうなほど巨大なアイアンゴーレム。ただのアイアンゴーレムではないことを示すように、靄を、高い魔力を宿していた。


「な、なんだあいつ!? あんなの見たことないぞ……!」


 やはり特殊個体《イレギュラー》。けれど、この程度なら問題はない。

 わたしは背後で騒ぐ探索者《ダイバー》たちには目もくれず、剣を頭上に掲げて。

 一振り。


 ザンッ――


 特に引っ掛かることもなく、アイアンゴーレムは左右に分断され、ガランゴロンと崩れ落ちた。

 後ろから絶句する気配が伝わってくるけど、こんなのが出てくるならそれよりも先に進まなければ。


「できるだけモンスターを倒していきますけど、もし漏れて出てきたらお願いします!」

「え、ちょ――」


 戸惑う声を無視し、治療の終わったエルフェリアを連れ、出張所の中へと入る。中は破壊痕がいくつもあったけれど……人の死体は転がっていなくて安堵する。

 わたしは受付カウンターに乗り出し、怯えてしゃがみこんでいた職員のお兄さんに話しかけた。


「大丈夫ですか?」

「――え? ……あ、た、助かった……?」

「大丈夫そうですね。すみません、カードなしですが中に入らせてもらいますね」

「……え?」


 わたしたちはお兄さんの了承を待たずに(ダメと言われても入るけど)、内側から破壊された入場ゲートをくぐり入口のポータルへと向かう。……不思議と壊れないんだよね、ポータル。これがないと溜まったモンスターが吐き出せないから忖度でも働いているのかな?

 などとどうでもいいことを考えながら足を踏み入れ、スズカダンジョン第一層へと入る。その先は、言ってしまえば洞窟の中の広い広いサーキット場だった。予想に反して、噴出《アウトブレイク》中にしてはモンスターが少なく見える。普段から間引きしているからだろうけど……本当に何故噴出(アウトブレイク)が発生したのやら。

 出入口から見える範囲のモンスターを遠距離魔法で蹴散らしながらぼやく。


「……しまったな、スズカダンジョンの基本知識がないや。しばらく来る予定なかったからな……。あ、情報端末があるから今から調べればいいのか」

「そのようなことをせずとも、すでに私が情報収集済みですよ」

「え? 本当?」


 頼れるエルフェリアの記憶力によると、スズカダンジョンは全五層、この第一層のようにどの階層もサーキット場みたいになっているらしい。

 第一層は各種混合モンスター、第二層は半分がゴーレム、第三層以降はほぼゴーレムで、鉱石類の入手先として人気のダンジョンらしい。ただしゴーレムだけあって固いので、深い層で狩りをする人はほぼおらず、大半が第三層までしか潜らないのだとか。


「倒せないのに、よく最深層まで探索できたなぁ」

「なんでも、客席ならゴーレムがほぼ侵入してこないそうですよ」

「……なる、ほど? いやなんで?」

「……さぁ……」


 思わず聞き返してしまったけど、いくらエルフェリアでもわかんないよね、ごめん。

 ともあれ、さっさとコアルームまで進んでこの事態を解決しなければ。


「探知《ソナー》」


 第一層を探知する。大半はモンスターだけど……いた。まだ脱出できていない探索者《ダイバー》たちだ。


「エルフェリア。また空を飛んでいくから、狙撃をお願い」

「お任せください」


 今度は腰に掴まってもらうのではなく、いわゆるお姫様抱っこでエルフェリアを運んでいく。さすがに恥ずかしかったのか、エルフェリアは少しもぞっとしていたけれど、やがてモンスターの殲滅に集中し始めた。

 闇の槍(ダークランス)の雨が降り注ぎ、モンスターたちを貫いていく。モンスターに囲まれていた探索者《ダイバー》たちは、あっという間にバタバタと倒されていく様にとても驚いていたのが上空からでもわかる。


「あの人たちは大丈夫そうだね」

「そのようですね。この階層のモンスターはあまり強化されていないように感じます」


 エルフェリアの言う通り、出張所入口前で見かけたような特殊個体《イレギュラー》は他に見当たらない。モンスターを倒しながら、道中で探索者《ダイバー》たちを助けながら、わたしたちは第二層へと向かった。

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