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勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち
第二章

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16 転移魔法の改良

「あのさ、転移魔法でここまで行けないかな?」


 ヒナタの提案にわたしは目を丸くする。あれ、わたしはヒナタに転移魔法の制限について説明をしたことがなかっただろうか。

 それを口にする前に、ヒナタは「言いたいことはわかるよ」と続けてくる。


「転移先の座標がないと飛べない、だっけ?」

「……うん。だから今回は――」

「それは、正確な地図があってもわからない?」

「えっと……」


 わたしは返答に詰まる。転移魔法も完全再生《リジェネレーション》と同じく、出力の問題でわたしには使えない魔法だからだ。

 エルフェリアに視線を向けると、彼女はハッとした顔を見せていた。


「ヒナタ。地図を見せてもらえますか?」

「はい、これ」


 ヒナタは情報端末でマップアプリをササッと開き、エルフェリアにも見やすいようにテーブルの上に置く。


「現在地はここね。正確に東経と北緯でいうなら――、んでもって目的地は――」

「北があちらで、南西の方角に直線距離で――」

「えぇと巻き尺がここに……一メートルは実際にはこの長さで、一キロはその千倍、つまり――」


 わたしを余所に、二人でアプリを操作しながら何事かを話している。いやまぁ、言ってることはわかるんだけど……わたしが入る隙がなさすぎてちょっと寂しい。

 エルフェリアは空間収納《アイテムボックス》からノートと鉛筆を取り出し(これもわたしがあげた物だ)、計算式を書きつけている。教科書で見た覚えのあるやつだ。早速応用してるねぇ……というかもう覚えたんですか早いですねぇ……。でもまだ電卓アプリは使えないあたりは微笑ましいなどと思ってしまった。

 計算を終え、ほぅとエルフェリアは息を吐く。


「ヒナタ、素晴らしいアイデアでした。これは転移魔法の革命です」

「そう? えへへ」

「惜しむらくは、ここまで正確な地図があるこの世界でしか使えないことですが……」


 そういえば、異世界アルスリオで位置関係がわかる程度の地図は見たことあるけど、正確な縮尺で書かれている地図はなかった気がするな? エルフェリアが知らないのであれば、軍事機密で記せないとかではなく、技術そのものがなかったのだろう。この世界では航空写真とか衛星とか、テクノロジーの塊で計測されているからねぇ。まぁそんな物が一切存在しないエド時代でもすでにかなり正確に測量されていたらしいけど、それはさておき。

 エルフェリアはものすごく珍しく、ほんのりと頬を紅潮させて言う。


「セツナ。地図さえあれば、私はどこでも転移できそうです。……遠すぎる場所は魔力の都合で叶いませんが」

「……ちなみにだけど、どこまでなら行けそう?」

「そうですね……。王都から隣の町までが五キロくらいで……私の魔力保有量と、一キロ当たりの消費量で計算しますと……」


 頭の中で暗算しているのか、エルフェリアは少し視線を上に向けてから、先ほどのマップアプリを(おそるおそる)操作して。


「一回で行けるのは、最大でこの辺りまでですね」

「「……」」


 指で示された場所に、わたしもヒナタも口元を引きつらせた。遠くて百キロ程度だと思ったら、それを遥かに超えるお隣の大陸(・・・・・)だったからだ。……エルフェリアがいれば、国内旅行に行きたい放題だな?などという場違いな感想が頭をよぎる。

 ともあれ、隣県であれば余裕ということだ。これなら直接飛んで行ける!と意気込んでフル装備を着込む。エルフェリアも一緒に行けるとなって、聖女装備に着替えようとしていたのだが。


「ちょ、ちょっと待って。スズカダンジョンには探索者《ダイバー》がいるし、エルおねーちゃんの、特に羽の部分をなんとかしないとレッドと結びつけられちゃうかもしれないよ?」

「あっ」


 幻影で色変え程度ならともかく、隠すとなると場合によっては戦闘中に剥がれてしまう。ヒナタの懸念はもっともだ。

 うぬぅ、ここでもわたしの考えなし行動が仇となってしまったか。あの時、エルフェリアに来てもらったことに後悔はしていないけれど、エルフェリアの行動の枷になるのはよろしくない。

 エルフェリアはしばし沈黙してから。


「では、こうしましょう」


 その直後、エルフェリアの全身が淡い光に包まれ……じわじわと金髪が黒髪になり……翼が、光の泡となって収納されるように消えていった。

 なにこれ初めて見るんだけど!?


「最大の目印である翼が見えなくなって、髪色も真逆になれば、同一人物とは思われないでしょう?」

「そうなるだろうけど……え? 翼は収納できたの?」

「私の体はほぼ魔力でできていますので」

「それは知ってるけど……これまでしまったことなかったよね……?」


 五年の間、一度も見たことがないのだ。アルスリオでは隠す必要がなかったといえば、それはそうなんだけども。


「問題ありません。貴種《ノーブル》の、いわゆるアイデンティティのようなものというだけの話ですので。あとは多少、魔力回復速度が遅くなるくらいです」

「それは……問題ないとはいえないのでは?」

「セツナと一緒に行けなくなるほうがよっぽど問題です」

「あ、はい……」


 アイデンティティと聞くとものすごく重要なことのように聞こえるのだけど……本人が問題ないと言ってるのだから、問題ないのだろう。わたしと違ってエルフェリアは無理をしない、はず。後者の方は……もし苦戦するようなら、また翼を出してもらえばいいか?

 おまけにエルフェリアは、純白の聖女装備を黒に変化させていた。黒髪、黒服、翼なし。顔は変わらないのに、いつものエルフェリアと全然違って見えて、こんな時だというのにちょっとドキドキしてしまった。


「セツナ。前回同様、あらかじめ祝福を掛けてから行きましょう」

「あ、うん」


 エルフェリアは杖を出し(これもご丁寧に黒く染めた)、跪いたわたしの肩へと当てる。魔法陣から溢れる光はいつもと同じ乳白色だった。さすがにそこまで変わるわけはないか。


「我が勇者、セツナに祝福を――」


 額に、わずかな感触。舞い踊る祝福の光。

 跳ねる心臓の鼓動と連動するように、全身へと力が行き渡る。毎度この瞬間は、色々な意味で心が燃え上がる。体だけでなく、魂まで沸き立つ。

 そして今回は、わたし一人じゃなくエルフェリアも一緒なのだ。これで魔王でもない相手に、負けるわけなどない。


「大丈夫だとは思いますが、念のため、ヒナタにも防御魔法を掛けておきますね」

「わ、わわっ?」


 ふわりと、ヒナタも光に包まれた。初めて受けた魔法に、ヒナタは目を白黒とさせている。

 さくっと終わらせて帰ってくる予定だったけど、これなら後顧の憂いもない。


「じゃあヒナタ、行ってくるね」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、頑張ってね二人とも!」


 手を振るヒナタを見つめながら、わたしたちは転移魔法で移動をした。

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