12 パワーアップ?
次いで、お孫さんの治療日をいつにするか決めていく。これも超特急で明日ということになった。どうも無理矢理予定を空けてくるらしい。……まぁ、念願の治療が叶うかと思うと、仕事を優先してくださいとまでは言えないかな。
今後のことはまたおいおい話そうということにもなって、ビデオ通話を終了する。フゥと安堵の息を吐いた。貴族に比べればマシだったけど、偉い人を前にするとどうにも肩が凝ってしまう。
「いい感じに身分証問題が解決できそうで良かったね!」
「うん、そうだね」
横で聞いているだけだったヒナタが笑顔を見せる。特にこじれることもなく話がまとまって良かったよ。いやぁ、異世界アルスリオでは色々と無茶振りしてくる人も多かったし、わたし(というか旅の仲間)が報酬を要求すると「勇者たちが金を取るのか!?」とか詰ってくる人もいたからねぇ……。
「あたしとしては、お姉ちゃんの提案はちょっと出しすぎな気もしたけど……まぁお姉ちゃんのことだから、この件がなくてもいつかやっていただろうしね」
「よくわかっていらっしゃる……」
レッドとして直接応えることはできなくても、何かできることはないかと考えていたのが配信による講義だ。だからここで切り出しても特に問題はなかった。
「だからエルフェリアも、そんな困ったような顔をしないでくれると……」
「……でも、私のせいでセツナに手間を掛けさせてしまって……」
「わたしの行動がエルフェリアのためになるのなら、それは手間でもなんでもないよ」
手間ではなくむしろ喜びなのだ。好きな人のためなら何でもしてあげたいというのは、極自然な欲求だと思うんだよね。
「…………わかりました」
目を伏せつつも、飲み込んでくれたようだ。そもそも手間を掛けさせているのはわたしの方が多いんだし、この程度で気に病まれてしまっては申し訳なくなってしまう。もっと気軽にしてくれてもいいんだよ?
「ところでセツナ、セキツイとはなんでしょうか?」
「せきつい……あぁ、脊椎の話ね。えっと、いわゆる背骨のことで……」
先ほどの会話で聞いたワードが気になったのか、エルフェリアが尋ねてくる。アルスリオは治癒魔法のせいか、この世界ほど医療が発展してなかったからねぇ。知らなくても不思議はないか。
とはいってもわたしもそこまで詳しいわけではない。パソコンで検索して出てきた結果をそのまま見せる。
「これが損傷すると体が動かなくなるのは、どのような理屈ですか?」
「……ええっと……」
単なる説明ページだけでは欲しい情報が載っていなかったらしい。わたしは再検索して詳しい説明が載っているページを開く。
「……なるほど。今までにも人間たちの間で同じような事例がありましたが、このような仕組みだったのですね。興味深いですね」
「知らなくても治せるのが魔法のすごいところだねぇ」
この世界の医療であれば、切り傷には絆創膏を貼る、傷が大きければ縫う。骨折であれば骨を固定する、場合によっては人工骨を入れる、神経が切れていればそれの修復も必要になる。それら様々なことが魔法一つで済むのは便利だろう。まぁ傷が大きければ大きいほど魔力を必要とするし、上位魔法も必要となる。それこそ完全再生レベルの魔法が使える人となると本当に一握りだった。……その一握りであるエルフェリアが、あまりのわたしの情けなさに投げ出すことなく、ずっと一緒に居てくれたのは途轍もない幸運だったのだ。
エルフェリアはしばらくの間、真剣な顔でじっと記事を読みふけっている。……キリっとした顔もいいんだよなぁ。
「セツナ。この医学とやらも勉強したいです」
「……え? えっと……じゃあひとまず、医学部受験生用と、医学生用のテキストを購入しておくよ。もし他にも気になった分野があったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
エルフェリアって勉強好きなんだなぁ。
などとこの時はのんきな事を考えていたのだが、後に医学知識を手に入れたエルフェリアの治癒魔法の効率が上がったことを知る。鬼に金棒……という表現はいかついかな。虎に翼が生えたような……翼はすでに生えているというのはさておき。
……ついでにいえば、わたしの知ってる本当に基礎的な知識――消毒するとか、異物を取り除く方がいいとかも、事前にエルフェリアに教えていれば効率アップに繋がったらしい。その、気付かなくてごめん。自分でやってたのにね。拗ねられてしまったけど、その顔も可愛いと思ってしまったわたしは不真面目なのだろう……。
明けて約束の日となったのだが、夕方からなので普通に授業には出る。
そして教室に入った途端にシノに捕まった。
「……じー……」
「いや、あの……」
無言での圧。わたしがレッドであること――というよりは、どうやってそんな力を身に付けたかが気になっているのだろう。
シノとは中学時代からの付き合いで、わたしの記憶がない間もずっと交流があったのだと思われる。その友達がいきなりスーパーマンみたいになっていれば、そりゃ気になることだろう。わたしが同じ立場でも気になる。
しかし問い詰められる立場になると……どこまで伝えようか……。とまごまごしている間に、ミズキとサラまでやってきた。
「シノもセツナも昨日は大変だったわね」
「無事なのはグループチャットで聞いてたけど、こうして直接無事を確認できると安心するよ~」
先日は生徒たちは即ダンジョンから脱出して解散していたので、二人と会うのは事件後初となる。
これで話が逸れて助かった……と思いかけたけど、また別の難点にぶち当たる。
「それで……未探索領域に飛ばされたのだったかしら?」
「どんなだった? よければ聞きたいかも」
「えっと……」
赤月さんからはどのように誤魔化したかの連絡が入っている。そのカバーストーリーから外れないように演技をするのが大変だった。シノにも付き合わせて申し訳ない。
「いやごめんねぇ、緊張しすぎてあんまり覚えていられなくてさー」
「そ、そうだよね。怖かったのに、思い出させてごめんね、シノ」
「まぁレイカさんが一緒にいてくれてホントに良かったよ」
「巻き込まれたのは災難だけど、あの人の活躍が間近で見られたのはちょっとうらやましいかも」
わたしが嘘を苦手としていることを知っているシノが率先して話題を進めてくれる。ありがたい限りである。うぅ、わたしからは大したお返しができないというのに……と冷や汗を流していたら、耳を引っ張られて一瞬耳打ちされる。
「助けられたのはアタシの方なんだから、そんな顔しないの」
……それでも、わたしはそっと心の中でお礼を言うのだった。
女子高生の話とは移ろいやすいもので、メイダイバーズの話に花を咲かせていたところ。
「ちょっといいか、相良」
「え? ……朝比奈くん?」
今度は朝比奈君に話し掛けられてしまった。それも、どこか神妙な顔付きで。
一体何の用なのか、首を傾げて待つと。
「どうしてわかった?」
「……うん?」
「あの時、一番早くトラップに気付いただろう」
あー……あれ、見られてたんだ。さすがにそこまで演技はできなかったからなぁ。
とりあえず、嘘というほどではない当たり障りのない答えで……。
「わたしは、ちょっと魔力の気配に敏感みたいでさ。その、なんとなく、変な感じがした……みたいな?」
「……」
じーっと、何を考えているかよくわからない目で見てくる。
しかしわたしがそれ以上の説明をしないでいると、「そうか……」とだけ呟いて離れていった。……なんかごめんねぇ。




