↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚から帰還したら、世界中にダンジョンが生えていた。……なんで?  作者: なづきち
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/43

11 交渉

 受付のお姉(きぬがさ)さんに『ひとまずお話を聞きます。先方の予定を聞いてもらえますか』とメールをしたら、超特急で『可能なら今夜にでも』と返ってきたらしい。……わたしは暇だからいいんだけど、議員さんはそんなに予定が空いてるものなのだろうか?

 晩御飯を終え、わたしのパソコンでビデオ通話の準備をする。今回はレッドの姿ではなく素の姿だ。疑われないように隣にエルフェリア(微発光の姿)も座ってもらう。今夜の会話で知り得た個人情報を漏らさないとも約束済みなので、多分大丈夫でしょう。破ったら治療してもらえないと想像するだろうし。あと会話には参加しないけど、画角外にヒナタも居る。

 時間になり、通話の呼び出し音が鳴る。衣笠さんだ。一応、見守り役として会話に参加してくれることになった。……わたし(レッド)の案件を任されたままだし、受付嬢どころじゃない偉いお姉さんだったりするのだろうか、などと思いつつも端っこに寄せる。


『こんばんは、相良さん』

「こんばんは、衣笠さん。今日はよろしくお願いします」

『いえ……お手数をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした』


 衣笠さんが頭を下げてくるけれど、話すと決めたのはわたしなので、と頭を上げてもらう。というか、ずっとレッドへの問い合わせで業務を圧迫しているだろうから、申し訳ないのはわたしの方だ。メイコーダンジョンマップ穴埋めという形でお返しさせていただきます……。

 そうしたやり取りを軽く行ってから、件の議員さんと繋げてもらう。画面に映ったのは、スーツ姿の白髪交じりの七十前後くらいのお爺さんだ。背筋はピンとしており、ただのお年寄りという感じはしない。ともすれば威圧のようにも見える鋭い目付きは……わたしの顔を見るなり困惑したように垂れていく。


『……話を聞いてくれて感謝する。儂は九条という者だ』

「相良です」

『映像の背格好からして若者だとは思っていたが……まさか少女だったとはな……』


 九条さんは眉根を揉み解し、大きな溜息を吐き出す。そこに疑惑の色はない。


「疑うことなく信じてくれるんですね?」

『協会が嘘を吐くとも思えぬし……その隣の者を見せられてはな』


 おっと、エルフェリアのおかげだったらしい。彼女であればきっとモニター越しであってもとても美しく、神秘的に映ることだろう。エルフェリアに目線で『もう発光なしでよさそう』と伝えると光を収めてくれる。ただそれでも神秘的な雰囲気は残ったままなんだけどもね。


「早速、本題に入りましょうか。お孫さんの治療依頼でしたっけ」

『……そうだ』


 すでにメールで概要は聞いているけれど、九条さんの口から改めて説明してもらう。彼の口調からは、いかに孫娘を大事に思っているか、痛切に伝わってきた。

 最後には、机に手を付いて、額をぶつけるギリギリまで頭を大きく下げてくる。


『横紙破りをして申し訳ないと思っている。けれども、君だけが頼りなのだ。だからどうか、お願いできないだろうか……!』


 悪意のない純粋な懇願。これを受けてわたしはノーと言えるタイプではない。……実際に魔法を使うのはエルフェリアの役目になるのだけれども。

 エルフェリアを見る。彼女は一つ頷いてから、わたしの代わりに確認をする。


「質問ですが、その子どもは事故で損傷したのであり、先天的なものではないのですよね?」

『……っ。あ、あぁ、そうだ』


 エルフェリアいわく、『生まれた時からないもの』を治療するのはかなり難易度が高くなるらしい。それでも『治せない』と明言しないあたり、彼女の能力の高さがうかがえる。


「それならまず治せますね」

『! では……――』

「ですので、交渉といきましょう」

『交渉……? あ、あぁ、そうだな。何が欲しい? これでもお金ならそれなりに持っている身だ』


 さて、ここからが本番ともいえる。わたしは手を握りしめ、要求を口にする。


「わたしが欲しいのはお金ではありません。彼女の身分証明書です」

『……身分、証明書、だと……? ……待ってくれ。その者は、精霊、というものではなかったか?』

「精霊に近しい人ではありますが、見ての通り肉体がありますし、意志もあります。契約に縛られた存在ではなく、自立した個です」


 わたしはエルフェリアの手を握って示す。何やら笑みを零すので、わたしも小さく笑い返しておいた。


「彼女は外国人のようなもので……いってしまえば不法滞在者です。せっかくこの国に来てくれたのだから、わたしは彼女に自由に外を歩けるようになってほしいのです。もちろん、彼女にはこの国の法を守ってもらいますので」


 この国と異世界アルスリオでは色々と法に違いはあるけれど、エルフェリアレベルの品行方正さだったらこの国でもほぼ問題はない。今のことろ、交通ルールが怪しいくらいだ。……あっちには全くなかったからね。


『……今現在、外国人の扱いが難しいのは知っているかね?』

「資源関係で色々あったのは聞いています」


 そのせいで今渋られているのだとしたら、過去にやらかした人たちに文句を言って回りたくなるなぁ。


「わたし個人の感情はさておき、彼女のような高位の治癒魔法使いが国内に滞在してくれることは、国にとってもメリットではありませんか?」

『それはそう……なのだが……』


 九条さんはまだ難しそうに唸っている。

 なのでエルフェリアは、もう一つの交渉カードを切る。


「でしたら、メリットを追加しましょう。貴方がたの選定した魔法使い……最初は多くて五名程度ですね。その者たちに私自ら治癒魔法の教育を施しましょう」

『『……っ!?』』


 この提案には、九条さんだけでなく、黙って聞いているだけだった衣笠さんも目を見開いた。


「残念ながら、完全再生《リジェネレーション》については、私の契約者様も取得できなかったので、必ず使用できるようになるとまでは申し上げられませんが」

『……取得条件はどのようなものなのだね?』

「単純に、一度に注げる魔力量が足りるかどうかです。訓練で増やせますが、無限に増やすことはできません」


 うぅ……そうなのである。わたしは放出魔力量が歴代勇者の中でも少ない方なのである。ついでにいえば貯められる最大魔力量自体も少ない。器も小さい、蛇口も小さい、精霊たちの助けがなければ、わたしは魔王を倒せたかどうかも怪しい。


『魔力量とやらは、どう測るのだ? 無限に増やせないのであれば、素質のある者を選定しなければならない』

「……素質は私にも測れません。ひとまず、魔法を使えば使うほど増えるので、よく使用する者を選んではいかがでしょう」

『ふむ……』

「あとは、何枠か外国人枠にして、外国に恩を売るのも良いかもしれませんね」


 『なるほど……』と九条さんは呟き、顎に手を当てコツコツと指で机を叩いている。さっきより検討してくれている感じがあるな。


『五名か……少ないな……。いや、教わる技術の内容が破格であるのは理解できるのだが……』

「あ、もう一つ。わたしも配信で初歩から魔法の講義をしようかなって思ってます」

『……なんだと?』

「直接教えるほどの効果は得られないと思いますが、多少なりとも全体の底上げになるんじゃないかなって……」


 ちなみにこれはレッドの姿で行う予定だ。ただ、どこでやるかがまだ決まってないのよねぇ……。近辺のダンジョンはどこも人が多めだし、少人数ならともかく大人数に詰めかけられても困る。

 そのわたしの追加提案で決め手になったのか。


『……わかった。身分証明書の件、なんとかしてみせよう』


 よし! エルフェリアの身分証明書問題がなんとかなりそうだ!

 思わず小躍りしそうになったけど、頑張って抑え込む。もそもそするわたしの横で、エルフェリアが立ち上がった。……ん?


「貴方がたに警告……いえ、忠告しておきます」

『……忠告?』

「私が協力するのは、全て契約者様のためです。この方に不利益があるようでしたら――」


 背後からわたしを抱き締めながら、そのようなことを言う。表情は見えないけれど、妙な圧を放っているのがひしひしと伝わってくる。

 モニター越しでも伝わるのか、九条さんも衣笠さんも冷や汗を垂らしていた。ついでにわたしも。いやなんで?って自分でも思うけどさぁ。


『……肝に銘じておこう』

『……同じく』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。